メトラン トラン・ゴック・フック社長
細かい振動によって、非常に少ない酸素を低い圧力で頻繁に肺へ送り込む「HFO(高頻度振動換気法)」方式の人工呼吸器の先駆メーカーとして、国内の新生児集中治療施設の約9割で製品が利用されているというメトラン。同社の技術は、肺機能が未発達で、通常の人工呼吸器では対応できない未熟児の救命治療に大きく貢献している。トラン・ゴック・フック社長によると、最近はHFO方式が成人治療にも有効と指摘され、応用領域が大きく広がる動きがあるという。
--国内の人工呼吸器市場におけるメトランの位置付けは
「人工呼吸器全体の年間出荷台数はおよそ4000台。このうち当社の出荷台数は100~150台で、残りはほぼ海外メーカーの製品だ。輸入品に比べて価格が2~3倍のため全体シェアは小さいが、未熟児用では約3分の1のシェアを占めている」
--未熟児用で競争力がある理由は
「未熟児の場合、酸素を高い圧力で強制的に肺に送る一般的な人工呼吸器では、気管が先に変形して膨らみ、酸素を肺に届けることができない。未熟児救命は難しい領域でリスクも高く、出荷台数も見込めないため手がけるメーカーが少ない。ビジネスというより、(医療ニーズに最良の製品で応える)経営理念で、現場の医師らと連携し妥協しない製品づくりをしてきた結果、HFO方式では当社が世界の最先端を走っている」
「最近は肺胞にやさしい呼吸方式として大人向けでも注目されている。数年前から英オックスフォード大の医療グループが当社の呼吸器を使って、急性呼吸不全の成人患者に対するHFO方式の大規模臨床試験を実施している。7月に試験が終了する。その後、2年程度の追跡調査があるが、この試験で有効性が証明されると成人への適用・普及に弾みがつく。英国、ドイツ、アイルランドではすでに2年前に、(重症肺炎を引き起こす新型インフルエンザの)パンデミック(大流行)対策で医療機関がHFO式人工呼吸器を大量購入している例もある」
--普及には高い価格がネックになる
「2010年に販売提携した医療用電子機器大手の日本光電とは、調達や製品開発でも協力している。日本光電の調達力だと、当社の5分の1のコストの部品もある。日本光電が得意とするアナログ回路設計のノウハウを得られるのも大きい。機能では妥協しないが、協業効果でコスト低減が期待できる。来年早々の海外投入を目指して、普及タイプの新製品の共同開発も進めている。最良の呼吸器を世界に広め、死亡率の低下に貢献していきたい」(池田昇)
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【プロフィル】
トラン・ゴック・フック
東海大卒。医療機器メーカー勤務を経て、1984年にメトランを創業。その後、日本国籍を取得。ベトナム出身。
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【会社概要】
▽本社=埼玉県川口市川口2-12-18
▽設立=1984年
▽資本金=8750万円
▽従業員=35人
▽事業内容=人工呼吸器、酸素濃縮器、動物用人工呼吸器などの開発・製造
「フジサンケイビジネスアイ」