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株式会社アパレルウェブ 株式会社アークアカデミー

中小企業の世界進出後押し 輸出振興に役立つ文化発信を

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グローバル化支援企業の経営者4人が語る

□アパレルウェブ 千金楽 健司代表取締役CEO
□アークアカデミー 遠藤 由美子取締役
□翻訳センター 東 郁男社長
□タミルナドゥ州日印商工会議所 チュラッパ・スリラム氏

■中小企業の世界進出後押し 輸出振興に役立つ文化発信を

 日本経済はいま、転換期に直面しています。少子高齢社会の進行とデフレ、東日本大震災や原発事故、歴史的な円高・ドル安が重なり合い、大企業のみならず中小・ベンチャー企業も海外進出、グローバル展開が大きなテーマになりつつあります。そこで、フジサンケイビジネスアイでは中小・ベンチャー企業を応援する組織「イノベーションズアイ」(運営・フジサンケイビジネスアイ)の会員企業の中から、企業の海外進出に関連したビジネスを行っている方々に集まっていただき、ビジネスの現状や今後の行方などについて話し合っていただきました。

◆輸入頼みゆがんだ構造是正

 i. 今回集まっていただいたのは、コンサルティングや語学教育などの立場から、企業のグローバル展開をサポートしている企業のみなさん。まずは参加者のみなさまの自己紹介を兼ね、現状についてお話しいただきたい。

千金楽 アパレルウェブの千金楽です。2000年1月設立の当社は、ファッション業界向けに情報サイトの運営やコンサルティングを行っている会社です。ファッション業界は早くから空洞化が進み、96%を輸入に頼るというゆがんだ構造の産業で、輸出はわずか1.5%にすぎません。創業以来、日本のファッションを世界に進出させていくことが産業の分母を増やす大きなきっかけになると考え、それをウェブを利用することで実現できないかという夢を持ち続けていました。設立11年目にして、繊維商社の蝶理、みずほコーポレート銀行の2社とともに合弁会社をシンガポールに設立し、日本発の衣料品ブランドを集積したショップを開設、並行してEC(電子商取引)サイトでの販売も始めました。日本のファッションの海外進出支援を、店舗とウェブの両方向から推進していくモデルを構築していきたいと考えています。

遠藤 1986年にスタートして今年で25周年を迎えた日本語学校です。海外から外国人を受け入れて日本語を教えています。主に大学・大学院進学の留学コースと、在日ビジネスマンの日本語教育の2つのコースがあります。加えて日本語教師を養成するコースも別にあります。外国人の国籍は45カ国にわたります。また、留学コースにはビジネスクラスもあり、母国の大学を卒業した学生が日本語を学び、日本の企業に就職する形が多いです。留学生には日本語だけでなく日本文化、企業のあり方も教えて日本を好きになってもらうことを心がけています。

 当社も86年に創業し、今年で25年。翻訳といえば一般的には映像、小説の翻訳が思い浮かびますが、われわれは産業、技術に特化しています。大阪に本社があり、東京、名古屋のほか、サンフランシスコ、北京に拠点があります。事業分野は企業のあらゆるドキュメントに対応。とくに特許、医学・薬学、自動車関連、金融の専門分野を中心に展開しています。日本企業が海外展開する場合にも、海外の企業が日本に進出する場合にも、あらゆるビジネスドキュメントでの翻訳を請け負っています。06年5月に当時の大証ヘラクレス市場(現ジャスダック)に、翻訳業界として初めて上場しました。

スリラム 南インドの州の中小企業を日本の中小企業と結ぶ会社で、09年に発足しました。インドもどこの国も90%以上は中小企業。大手企業にくっついていくだけでなく、中小企業の製品や仕事をアピールし、広めていく場をつくりたいというのが設立のきっかけ。スタートは南インドからですが、もっと市場を広げていきたいと考えている。まだスタートしたばかりだが、日本の企業にとって役にたっていければと思う。

◆バックアップとして注目

i. 東日本大震災による電力不足や円高の進行などで、ここにきて企業のグローバル化のステージが変わった感じがします。実際はどうか

スリラム 震災の前は国内にまだまだ集中していたが、震災後はバックアップとして海外を考える企業が増えた。これまでインドから団体を連れてきて、企業に紹介することを手がけてきたが、われわれとしてももっとサービス範囲を広げてサポートしていきたいと考えている。震災後は進出するだけでなく、考え方も変わってきた。

千金楽 内弁慶だった中小企業が震災後、海外に真剣に目を向け始めた。日本は輸出金額があまり大きくないし、その中の大半が自動車、家電といった大手ばかり。経営基盤を支えている中小企業の海外進出はほとんど果たされていなかった。1億2500万人という人口を抱える日本には「国内で十分やっていける」というマーケットがあったため、海外進出の必要性が論じられてこなかった。だが震災後、ファッション業界でも経営者が本気で、アジアの方に目を向けてやっていこうという本気のスイッチが入った。震災がきっかけでアジア進出が活発化しそうだ。

■ブランディングなどノウハウが不足

 売り上げの85%は日本語と英語間の翻訳。だが、ここ2、3年は英語以外の新興国向けの翻訳、とくに中国語などが増えている。(2008年の)リーマン・ショックを境に変わった印象がある。部品関係のメーカーも系列が一切なくなり、自分たちで努力して販路拡大する姿勢が必要になった。

i. 海外進出はリスクも伴う。どうみているか

千金楽 経済産業省のクールジャパン官民有識者会議のメンバーだが、日本製のコンテンツ、ゲーム、アニメなどは海外で広く受け入れられている。そうした土台の上に、繊維製品や軽工業の製品が受け入れられる可能性はあるのではないか。ただ、そう簡単ではない。第一に、知的財産の問題。提供する商品、サービスにかかわらず、海外で商標、意匠登録する中小の経営者は少ない。もう1つはブランディング。品質へのこだわりは強いが、マーケティングやブランディングが追いついていない。海外に出ていくときの労務管理、債権回収管理なども問題だろう。人脈、パートナーがうまくつくれていないのも課題として挙げられる。中国進出の際、アパレル企業は独資で出ようとするが、その多くは勝てない。(現地に精通した)シンガポール、香港などの中国人と手を取り合い合弁で進出するなら分かるが、いきなり独資で進出してもうまくいくはずがない。中小の海外進出には初歩的な問題が多数横たわっている。

スリラム 私もそう思います。インドでは韓国企業がだいぶ前に入り、製品、マーケティングとも韓国企業の方が(日本企業に比べて)進んでいる。何がポイントでどう宣伝すればいいか分かっている。日本は、製品がいいのは知れ渡っているが、存在感は高くない。PRの手法も含め、日本企業のブランディングは海外に出る際、重要なポイントになってくる。

 やはりマーケティングは弱い。翻訳の世界も、単に現地に持っていけば売れるかといえば、そうではない。現地の商慣習や文化、不適切な言葉などを考慮しないと。こうしたことは日本にいては分からない。現地のニーズを的確に把握すれば、ビジネスも広がると思う。当社の場合は翻訳だけでなく、語学にたけた人材の派遣や企業が海外に進出する際の手続き、特許出願などの支援サービスなども展開している。

i. 課題満載の一方、チャンスもありそうですね。語学学校の立場からはどうですか

遠藤 パートナーシップを組む際に大事なのは人材で、日本とその間に立つのが留学生。留学生に日本のイメージを聞くと、昔も今もやはり大きなトヨタ、ホンダとか自動車、電機メーカーというのが多い。実際にそこに就職するかといえば、1、2年はそこにいるが、それからはもっと給料のいいところにという学生が多い。われわれとしては、目先の給料でなく、自分の国にない業種であれば、小さな企業でもそこで学べば自分の国でトップになれるのかもしれないので、もっと長い視点でみることが大事と言っている。それから、留学生は「はい、分かりました」と言うが、心の中では「はい」と受け入れていないケースがある。(留学生を受け入れた)企業にも我慢強くなってほしいと思うし、(留学生に対する)理解が深まると、留学生をうまく使えるのになあという思いがある。

i. インドに進出した企業で、成功している事例は

スリラム 大きなところでは日産自動車。チェンナイに進出して数年たつが、部品メーカーなどたくさんの日本企業も次々に入ってきた。以前はニューデリーの工業団地に日系進出が多かったが、今は日産が入ったことで、南インドが日系企業数で2番目になった。中小企業だけで進出するのはこれから。インドは州の力が強く、工業団地の整備を進めている。南インドへの集積が成功すれば、インド全域に広がっていくと思う

i. 中小企業の海外進出。成功の方程式はあるのか

千金楽 生産の進出はどんな国でもできるが、販売は大変。繊維製品の90%は中国で作られているが、販売面での進出を果たしているのはユニクロとワコールの2社だけ。ファッション、繊維産業はいろんな業界の中で一番先に空洞化してしまった。今後何をするかが課題。今、繊維産業は、中小がどう海外進出して、成功するかという課題に直面していると思う。

i. 一方、海外企業からみて日本市場はどう映っている

千金楽 (海外から日本に入ってくる)インバウンドが少なすぎる。外国人が日本でお金を使っていない。シンガポール、韓国とは比べものにならない。日本に足りないのは、外国人がきても受け入れる言葉体系がないということ。ホスピタリティはあってもシステムがない。シンガポールはインバウンド、アウトバウンド共に政府とすべて連携している。今週はF1、来週はファッションと省庁が連携してアピールしている。そういう意味ではインバウンドに対する国の意識も民間の意識も、日本はまだまだ低いと思う。

■体力をつけないとTPPにやられる

 当社が手がける仕事に医薬品業界がありますが、現在、日本の医薬品市場は米国に次いで2番目。高齢化社会はそれだけ薬の消費が高い。外資系製薬企業を中心に海外でつくったものを日本に導入するわけですが、とくに後発品市場を狙いにイスラエル、インドの製薬会社が日本企業と合弁でつくったりしている。医薬品だけ見ると、日本は魅力ある市場だとは思う。ただ特許出願統計を見ると、海外のメーカーはまずアジアでは日本が第一だったが、最近では日本を飛ばして中国に出願するような動きが出てきている。

◆富裕層の学生は欧米へ

i. 外国人の生徒数はどうですか

遠藤 減っている。昨年比で3割減。どこの日本語学校も同じ傾向にある。中国の学生にだんだん富裕層が増えて、日本から欧米に留学生が流れている。とくに沿岸部の上海、北京、大連は、富裕層がものすごく増えているので、選択肢がいくつもある。ただ、そんな中でも日本に来る人たちは、昔からクレヨンしんちゃん、ドラえもんで育った人が多く、大事な親日家であると思う。また、ビジネスマンの日本語クラスをみると、今の日本の魅力が分かる。20年前は外資系証券会社などから日本語レッスンの依頼が多かったが、今多いのはゲームとかIT技術者、中国人社員10人を6カ月預けるので日本語教えてくれとか。

千金楽 中国人にとって、日本語を覚えてもいい給料が取れない。以前は取れたこともあったが、それ以上、いい給料が取れる外資にいった方が、という動きも出ている。

スリラム ただ、インドでは日本語勉強している人は増えている。(進出してくる)日本企業に対して、日本語ができる方がプラスになるので。結構、日本語勉強している人は多い。

遠藤 先月、バングラデシュに行き、IT研修者に日本語研修を行ったが、日本語を学びたいという技術者が多くいました。

i. 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の行方も、企業のグローバル化を大きく左右しそうですが

千金楽 TPPについては分からない。ただ、海外進出の力を養っていないと、TPPに参加してもやられてしまうだけとの指摘もある。自由なチャンスが増えるのは間違いないが、チャンスが増えるということはインバウンドでやられるリスクもあるということ。議論を尽くす必要がある。

 必然という見方もあるかもしれないが、日本にそれだけの体力があるかというところだと思う。高度成長期と違い、今はある程度成熟期で、本当に耐えられるのかという思いはある。ただ、農林水産業の問題でも自助努力で海外展開して、ブランド化した高品質なコメ、イチゴ、養殖魚を出しているところもある。それを考えれば、競争して強くなるべきだという意見もあるかもしれない。

◆キーになる主要国選定

i. TPPにせよ、グローバル化に際して黄金の方程式というものがないので不安になっている

遠藤 ある国で、旅行と日本語のパックで日本に来てもらうコースを作るために、日本語以外にはどんなものを学びたいか、尋ねてみた。すると返ってきたのは、「花嫁修業」とか「日本のお母さんのお弁当作り」とか、思わぬ答え。日本人では分からない魅力が日本にあるのだから、それをきちんとマーケティングして商品化しなければならない。

千金楽 文化発信ができていない。日本人が理解しなければならない文化の定義ができていない。もっと明確に文化発信をしていくということが大事。一度にはできないので、キーになる主要国を選定し、発信の核となるカテゴリーを決定し、産業の輸出振興に役立てることが大切ではないか。眠っている日本の文化のよさ、商習慣の良さをなかなかうまく発信しきれていない部分はたくさんある。

i. まずは自分を見直して

遠藤 まだまだ日本に魅力はあると思います。

i. 中小に課せられた課題は厳しいが、道はあると

遠藤 必ず道はあると思います。

千金楽 もちろん道もあるし、希望もある。でもハードルは高いと思います。

(司会は本紙副編集長 小熊敦郎)

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千金楽 健司氏 ちぎら・けんじ 1983年中央大学商学部卒。インナーアパレルを経て、2000年アパレルウェブを設立し、代表取締役CEO就任。1960年、埼玉県生まれ。愛知県育ち。

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遠藤 由美子氏 えんどう・ゆみこ 杏林大学大学院国際協力研究科国際文化交流専攻修了。高等学校国語科教員を経て日本語教師に転身。1986年アークアカデミー創業に参加し、取締役就任。東京都出身。

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東 郁男氏 ひがし・いくお 1984年京都産業大学外国語学部卒。通信設備工事会社を経て1992年、翻訳センター前身の京都翻訳センター入社。取締役を経て2001年社長就任。1961年、鹿児島県生まれ。

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チュラッパ・スリラム氏 1994年来日。大阪を中心にIT研修を行い2007年ニホンテクノロジー プライベートリミテッドを設立し代表就任。09年にタミルナドゥ州日印商工会議所を設立。1971年生まれ。南インドチェンナイ市育ち。

【用語解説】イノベーションズアイ

 ベンチャー精神に富んだ起業家やベンチャー・中小企業を応援する組織。独創的で将来性あふれる元気な企業を支援することで、閉塞感が漂う日本経済を活性化するのが狙い。インキュベーションセンターなどの支援機関と連携を図りながら、独自性豊かな企業、産業界に新風を巻き起こす気概に満ちた企業によるイノベーションネットワークの輪を構築する。

 会員数は2011年10月末現在3796社・団体で、12年3月末に5000社を目指す。フジサンケイビジネスアイが運営。

「フジサンケイビジネスアイ」

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