ヴィノスやまざき専務 種本祐子氏
■常識破り“味別”に陳列
当社の店舗は「ワインが選びやすい」と、多くのお客さまから評判がいい。大変うれしく思うが、この店の形態を作るには大変な試行錯誤があった。
ワインの仕事を始めたとき、生産地別に陳列するのが常識だった。当然、当社の店も、生産地別に陳列し、店の奥には当時のお決まりのワインセラーの部屋を作った。しかしながら、投資して作ったこの店の売り上げがなかなか上がらない。そんな時「店は客のためにある」という言葉を思い出し、再度お客さまの目線で店を見直してみた。
店頭のディスプレーには、運ばれてきたときの木箱がそのまま使用されている=横浜市青葉区のヴィノスやまざきたまプラーザ店
ワインは農産物だから、当然産地の名前が商品名となる。しかし、通常は欧米のワイン産地の名前を見て、味の予測ができる人は少ない。ワインの資格を取得した自分だから、産地別の特徴が予測できるわけだ。もしお客さまの立場でショーカードを見たら、意味不明な横文字にしか見えないだろう。
ワインアドバイザーやソムリエに助けてもらわなければ買い物ができないとしたら、お客さまはこの店でワインを買いたいだろうか? そんなことを三日三晩悩み、思い切ってワインの売り場を変えることにした。
まず、ワインを味別にすっぱりと分ける。あとは、産地を問わず、その味にあったものを陳列。セルフで気軽に買い物できるように、作っている人の情報や仕入れた経緯、おすすめの理由などをPOP上に記載した。融資を受けて作った暗くて出入りしにくい高級ワインを置いた部屋は壊してしまった。
店はワインを貯蔵する所ではなく、お客さまが手に取る場所だ。そのかわり、ワインを輸入した港の倉庫を年中定温に管理し、毎日売る分だけを店に持ってくる。店はとにかく回転が良くなり、活気がでてきた。
ワインの什器(じゅうき)は、気取ったものではなく、運ばれてきた木箱をそのまま使用した。ボリユーム感あふれた店を見たとき、ワインは農産物だということを改めて実感した。
しかし、そのワインにまつわるストーリーはどうしてもお客さまに伝えたく、売り場にはPOPとともに、すべて持ち帰られるワインのインフォメーションを設置した。
お客さまがショッピングカートにワインを入れる姿、インフォメーションを熱心に読む姿をみると、ワインがより日常の飲み物になっていくことを望んでやまない。
【プロフィル】
種本祐子 たねもと・ゆうこ 静岡県生まれ。1987年、実家のやまざき酒店に就職。88年にヴィノスやまざきを設立。日本ソムリエ協会認定シニアワインアドバイザー
「フジサンケイビジネスアイ」