永野毅・東京海上ホールディングス会長
現在、世界に押し寄せているデジタル革新の波は、産業や私たちの生活のあり方を大きく変えようとしている。経団連が実現を目指す未来社会「Society(ソサエティー) 5.0」は、このデジタル革新の力を、人間が持つ想像力(イマジネーション)と創造力(クリエイティビティー)によって、人々の幸せのために活用しようという社会である。
Society 5.0の実現には産業構造の転換、産業の新陳代謝が不可欠である。そのためには、日本経済のマジョリティーである大企業が変わることはもちろん、課題解決や価値創造に挑戦するスタートアップが存在感をいっそう増していくことが欠かせない。
われわれ大企業は、スタートアップが持つ課題解決などへの圧倒的な思い・熱量、デザイン力・構想力、そしてスピードといった点ではかなわないと自覚している。その一方で、スタートアップだけでビジネスを成立させることもまた難しいのではないかと思う。
大企業は、販売チャネル、顧客基盤、データ、資本、人材、ブランドなどの強みを持つ。これらをフル活用してもらえばスタートアップの成長は加速されるに違いない。大企業とスタートアップがもっともっと組み合わさることで、わが国ならではのスタートアップエコシステムを創り上げることができるのではないか。
環境整備と大企業との連携
こうした考えの下、経団連では今年5月にスタートアップ委員会を立ち上げ、スタートアップ振興に向けて主に2つの取り組みを続けている。
一つは、スタートアップ振興のための環境整備である。これは政策提言が中心的な活動だが、「スタートアップ視点」の意見発信を「経団連から」行うために、経団連会員以外からの参加も認める形で、メンバーをスタートアップに限定した組織を委員会内に立ち上げた。同組織では、さまざまな政策テーマについて意見発信を行っている。
もう一つは、スタートアップと大企業の連携促進である。経団連では昨年11月に入会資格要件を緩和した。以降、毎月のようにスタートアップが入会している。そうしたスタートアップからは経団連に対して「大企業の役員レベルへのアクセス」に対する強い期待が寄せられている。そこで、大企業側の参加者をオープンイノベーションや新規事業担当の執行役員以上に限定したハイレベルなネットワーキングイベント「Keidanren Innovation Crossing(KIX)」を今年10月から開催している。これまでにKIXは3回開催してきたが、今後も経済産業省などさまざまなパートナーと連携しながら月1回ペースで開催していく。
海外との協業コンテスト計画
また、海外スタートアップとの連携拡大に向けて、東京都、日本貿易振興機構(ジェトロ)、プロジェクトニッポンと「東京グローバルスタートアップエコシステム構築に向けた連携に関する協定書」を締結した。日本の大企業100社と海外スタートアップ数百社による協業コンテスト「Tokyo Challenge 100」を来年度開催すべく連携していく。
経団連は、スタートアップの振興を通じてSociety 5.0を実現するために、取り組みをいっそう強化する所存である。
【プロフィル】
永野毅 ながの・つよし 慶大商卒。1975年東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社。2019年6月より東京海上ホールディングス会長。経団連アメリカ委員長、スタートアップ委員長を務める。高知県出身。
「フジサンケイビジネスアイ」