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謄本の束が不要に 「法定相続情報証明制度」利用の勧め

関係者一覧、確認しやすく

亡くなったA氏(被相続人)は5人兄弟の三男で離婚して亡くなったときは独身で子供はいない。A氏の兄弟のうち長兄は既に亡くなって、その長兄には3人の子がいる。このような場合、残りの3人の兄弟と長兄を代襲するその子供たちの合計6人が相続人となる。

A氏は、いくつかの銀行と証券会社の口座、車、自宅を持ち、簡易保険と年金に加入しているごく普通の市民だった。これらの財産を相続したり、保険などの手続きをしたりするには、相続関係を証明する戸籍などの資料の提出か提示を求められる。

A氏が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を確認しないと、過去にA氏に子供などの相続人がいたか否かが確認できない。そこで、一般的には、A氏が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本とそれぞれの相続人とA氏のつながりのわかる戸籍謄本が必要とされる。

実際には、相続人がA氏の戸籍のある市役所に行ってA氏の戸籍謄本からA氏の出生届の記載のあるA氏の親の戸籍や自分の戸籍を取得する。A氏が転籍していれば、転籍前の住所の戸籍役場からも戸籍を取得しなければならない。

A氏の場合には、A氏の父の改正原戸籍、A氏が結婚したときに作成したA氏の戸籍謄本、A氏が転籍したときの戸籍謄本、A氏の除斥謄本、亡くなった長兄の戸籍謄本、各相続人の戸籍謄本をそれぞれの戸籍役場で取得する必要がある。

これらを必要な手続きの数だけそろえるだけで、かなりの労力である。しかも、これらをそれぞれの手続き窓口の担当者が確認するために長時間待たされなければならない。これでは、預金や不動産の価格が僅少なときは放置してしまうのが人情だろう。

相続手続のこのような煩雑さは相続登記が未了のまま放置されている不動産の増加、所有者不明土地問題や空き家問題の一因となっている。そこで、A氏のケースでは、2017年5月に創設された法定相続情報証明制度を利用してみた。法定相続情報証明制度は、法務局(いわゆる登記所)に被相続人の除斥謄本や相続人の戸籍謄本をとりまとめて、併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すると、法務局の登記官がその一覧図に「これは、年月日に申出のあった当局保管に係る法定相続情報一覧図の写しである」という認証文を付した写しを交付するものだ。手数料は無料である。

それぞれの相続手続きでは、戸籍謄本の束をそろえて確認してもらう代わりに、この証明書を1枚提出するだけで足りる。ある窓口の担当者からは、「古い戸籍の筆書きの漢字を判読するのは大変なので、この証明書を出していただいて本当に助かります」と言われた。相続人が多いケースではとても便利な制度であると感じた。

【プロフィル】古田利雄
ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。東証1部のトランザクションなど上場企業の社外役員も兼務。東京都出身。

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