葬儀の商談会で展示された棺(ブルームバーグ)
お葬式の主流となっている家族葬。参列者の数は少なくても、大切な人を丁寧に見送りたいというニーズは高まっている。「手づくりで故人の生涯を」「好きだった音楽を」「棺や骨壺は人と違ったものを」…。全部は無理でも、何かひとつにこだわってお見送りしたい。そんなこだわりの家族葬の世界をご案内したい。
63%「どれも同じ」
近年の葬儀は、ほとんどの依頼が「家族葬で」といわれるほど世の中に浸透した家族葬。しかし多くの場合、一般葬をこぢんまりさせただけで、価格も内容も似たり寄ったり。「もっと心を込めて故人を送りたい」という声も聞こえてくる。
首都圏を中心に展開する葬儀社、アーバンフューネスコーポレーション(東京都江東区)が30~60代の男女1000人に対して実施した意識調査によると、現代のお葬式のあり方について、3人に2人(63.3%)が「型にはまった形式的なものが多く、どのお葬式も同じ」だと感じていることが分かった。また「かっこよく」「にぎやかに」といった「その人らしさ」が伝わるテーマを持ったお葬式について、「良いと思う」「どちらかと言えば良いと思う」を合わせると3人に2人(65.0%)が好感を持っていた。
さらに自由回答でも、型どおりで、故人を偲べるお葬式が少ない▽こぢんまりでいいから、私らしい感じの素敵なたくさんのお花で送られたい▽悲しいけど、温かい(お葬式の)進め方ってないものでしょうか?▽生前のいろいろな思い出を感じながら送り出したいし、自分もそうしてほしい-など、形式よりも個性を大切にしたいというニーズが見えてくる。
結婚式と共通
同社取締役の高田彰さんは、葬儀の形は結婚式の移り変わりと似ている部分があると指摘する。「かつては結婚式も、一般的な式次第やルールのもと人数で費用が決まるようなシンプルなものでした。しかし、時代の流れとともにレストランや海外ウエディング、プライベートウエディング、地味婚など、さまざまな選択肢が増えました。お葬式もこうあるべきだと思われていたものが少しずつ形を変えていくのではないでしょうか」
高田さんは実際にここ数年、形式よりも家族の想いを重視したいというニーズを肌で感じているという。親族中心の葬儀になったことで、故人を偲び、送り出す形式も多様化してきたという一面もあるようだ。
一方で、通夜や葬儀を省略し、直接斎場で荼毘(だび)に付す「直葬」にも変化が見られるという。「当社の場合は、火葬場でのお別れの時間を設けたり、湯灌をしたりというように、その内容の幅は広がってきています」と高田さん。直葬は経済的な理由で選択されることが増えているが、実際にやってみて「思っていた以上に簡素だった」という声も聞かれる。お金はかけられないけれども、故人とのお別れを大切にしたいという思いは普遍的なようだ。
「自分の時は簡素に」5割超
どのような葬儀をしたいか、という点については、不思議な二面性があることが知られている。自分の葬儀では質素であることを希望する一方で、家族の葬儀は立派な葬儀にしたいと考えるのだ。
冠婚葬祭総合研究所(東京都港区)が団塊世代を中心に全国の男女1600人にアンケートを行ったところ、自分の葬儀を「直葬でよい」と考える人は5割を超え、「自分の葬儀はできるだけ立派に行ってほしい」という意向は、「ややそう思う」を含めても、たった3.4%に過ぎなかった。自分のお葬式は「特別なことは不要」「費用はかけなくてよい」と考える人は圧倒的だということだろう。
一方で、家族の葬儀となると、「できるだけ立派にしたい」という肯定派は22.1%まで増加する。とくに42~55歳の世代は、家族の葬儀をしっかり行いたいという傾向が強かった。
さらに家族葬に対する意識では、団塊世代のとくに女性の約9割が自分の葬儀に家族葬を望む一方で、送る側となる団塊ジュニアの世代では家族の葬儀を家族葬にしたいという声は25%程度にとどまり、親世代のそれを大きく下回った。
自分の葬儀を質素にと考える理由としては、「子供になるべく経済的な負担をかけたくない」という親心が大きい。しかし、送る子供の側としては「きちんと弔いたい」と思う気持ちも強い。
葬儀は故人のためのものではあるが、見送る遺族の心を癒やすものだという側面もある。親世代の気持ちも子供世代の気持ちもかなえるような葬儀のあり方を、親子できちんと話し合っておくのが「望ましい終活」といえるだろう。
超高齢社会の到来で、故人を見送る喪主も定年を過ぎて現役時代の縁は遠くなりつつある。会葬者が限られる現状からすれば、家族やごく親しい友人に囲まれて旅立つ「家族葬」はいわば必然的な流れでもある。しかし小さな家族葬でも、「あの人らしかったね」と心に残るお別れの形はきっとあるはず。そんな心を込めた新しいお別れのスタイルを見つけてほしい。(『終活読本ソナエ』2018年夏号から、隔週掲載)
「フジサンケイビジネスアイ」