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一般社団法人さいしんコラボ産学官(埼玉縣信用金庫)

開放特許、中小連携で製品化 地域密着コーディネーターの“目利き力”奏功

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さいしんコラボ産学官の鈴木康之氏(右から2人目)から「おまわりQR」の説明を聞く飯島寛埼玉県副知事(同3人目)=6月7日に開催された「さいしんビジネスフェア2017」

中小・ベンチャー企業に新事業創出を促すため、大企業などが保有する開放特許の活用を呼び掛けるビジネスマッチングが自治体の間で広がりを見せている。経済活性化につながるとして注力する川崎市では市内の中小企業3社が得意技術を持ち寄って製品化、今月から販売を始めた。マッチング成果としては29件目だが、グループで大手の課題解決に応えたのは初めて。埼玉県でも企業連携が奏功し、企画から1年もたたないスピードで初の成果が生まれた。製品化に必要な技術を持つ地元企業を熟知するコーディネーターの目利き力が製品化を早めた。

 大企業の構想、形に

「常日頃から企業まわりを続けているので、今回の開発に向いている企業を探し出すことができた」。中小企業の新事業展開などを支援する川崎市産業振興財団の宇崎勝・知的財産コーディネータはこう強調した。

川崎市は同財団と連携し、大企業の開放特許を活用して中小企業の新製品開発を促進する「川崎市知的財産交流会」を2007年度から実施。マッチング成果を高めるため、地元企業をよく知るコーディネーターが仲介役を果たすのが特徴で、「川崎モデル」と呼ばれる。

29件目は、川崎市高津区の和興計測、岩手電機製作所、津田山製作所の3社で構成する「WIT」が清水建設から知財ライセンスを受け、屋根裏や床下など暗い隠蔽(いんぺい)部を点検する360度撮影カメラ用の照明付架台の改良版を共同開発した。

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360度撮影カメラを乗せて、LEDライトを点灯した照明付架台の改良版

声を掛けたのは清水建設だった。同社生産技術本部の大垣博主査は「初号機は100台超の販売実績をもつが、いくつかの課題があった。そこで自社の知的財産部に相談したところ、川崎モデルを紹介され、宇崎氏と面会した」という。

「使い勝手の改善と性能向上には新型の開発が必要」と聞いた宇崎氏は3社を思いついた。ただ3社にとって知見のない分野だったため難しいと考え、断りに清水建設を訪問。しかし大垣氏の熱意にほだされWITを結成、試作を始めた。試行錯誤しながら得意技術を持ち寄り、現場で培ったアイデアと小回りのきく対応を重ねて製品化にこぎつけた。

「ここまでやるとは正直言って思わなかった」(宇崎氏)出来栄えに、トータルコーディネートと販売を受け持つ和興計測の五十嵐崇社長は「開発から設計、出荷まで全て川崎市内で完結したメード・イン・カワサキの製品。今後もWITでモノづくりを進める」と意気込む。

11月から販売に乗り出したが、18年4月から欠陥住宅問題を解消するため宅地建物取引業法が改正され、中古住宅の引き渡し時に建物状況調査が義務化される。この調査に必要な装置として活発な引き合いが見込まれるといい、使い勝手を試した三井不動産リアルティ(東京都千代田区)から300台の購入予約を受けた。価格は6万円で、初年度は700台の販売を目指す。

大垣氏は「休眠特許がWITによって目を覚ました。技術開発から先の事業展開は、その道のプロのサポートが必要ということを川崎モデルを通じて実感した。開発者のモチベーションも上がるので知財マッチングは必要」と言い切る。

  市内企業の高いポテンシャルが清水建設の課題解決につながったわけで、宇崎氏は「これを機に『大手の構想を中小で形にする』連携が進むといい。支援機関が中に入ることで、大手にもメリットが出ることが証明された」と喜ぶ。

 利益出るまで支援

埼玉県でも中小連携が初の事業化を生んだ。産業技術総合研究所が提供した開放特許で、バーコード読み取り機大手のオプトエレクトロニクス(埼玉県蕨市)など4社がリストバンド型迷子防止札「おまわりQR」を共同開発した。

子供の名前や親の連絡先をQRコードを使って表示、専用バーコードリーダーで読み込む。イラストなどを入れられるため子供も楽しみながらバンドをつけるようになる。QRコードは一見して個人情報が書いてあるとは分からないので安心だ。

産総研と企業をつないだのが、埼玉縣信用金庫が立ち上げた中小支援機関「さいしんコラボ産学官」に特許庁から派遣された事業プロデューサーの鈴木康之氏。さいしんコラボにとって開放特許活用支援の第1号で、16年から特許庁が派遣する事業プロデューサーを受け入れたことが功を奏した。

鈴木氏は、利益が出るまで支援する「埼玉モデル」の生みの親で、「連携」をキーワードに中小支援を続けてきた。鈴木氏が就任したのは同10月で、「グループ化して得意分野を任せたほうが製品化までの時間やコストを抑えられる」と判断。12月にオプトに声を掛け、開放特許の活用を呼び掛けた。

「QRコードの読み取りは得意」(オプトの永瀬博行採用担当)と応じたが、アプリやソフトの開発、デザインなどは積極的に手掛けていないため、鈴木氏と話し合いながら連携先を選定。セキュリティーに強いシステム開発のグローバルソフトウェア(同本庄市)、印刷デザイン力をもつ五光印刷(同蕨市)、産総研の開放特許の実施許諾をもつブルーリンクシステムズ(東京都千代田区)が仲間に加わった。

今年6月にデモを実施、9月には権田酒造(埼玉県熊谷市)がブランド「直実」を盃(さかずき)の上にのせたイメージデザインでQRコードを作成、販促ツールとして使用している。迷子対策用として遊園地や海水浴場、商業施設などに売り込み中という。鈴木氏は「20年の東京五輪・パラリンピックの会場でも使ってほしい」と期待を寄せる。

埼玉モデルでは今夏に第2号案件も誕生、大企業の知財を中小企業に移転し新製品開発などをサポートする自治体の動きは一段と活発化しそうだ。(松岡健夫)

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