大澤幸生氏
リサーチを通じて、企業の事業戦略を支援する日本リサーチセンター(東京都中央区)は 顧客を対象に定期的にセミナーを開催している。次回、11日に登壇する大澤幸生教授に、セミナーのテーマである「データ利活用とAI」について聞いた。
―――最近「AI(人工知能)」という言葉をよく耳にしますが
一言でAI(人工知能)と言っても、その技術は多種多様です。2010年代から普及したディープラーニング(深層学習)の技術は40年も前に出現しており、多層のニューラルネットワーク(神経回路網)を元にした機械学習手法のことを指しますが、これも膨大なAIの技術のうちのひとつにすぎません。 最近、このディープラーニングの技術で、内視鏡で撮った医療画像の中から癌と思われる対象の画像を認識できるなど、一部ではAIが人間の専門医の技術を超え始めたという意見もあります。しかし、AIはあくまで与えられた画像から高精度に学習できるだけで、どのような画像を与えるかは人間が決めています。
AIはただの演算装置です。原理的にはデータから数えたり、計算したり、比較することはできますが、データ活用の「目的」の設定については、人間の意思決定が必要です。画像を学習する原理も複雑ではありますが、結局は計算の組み合わせで成り立っています。
―――データを有効活用するためのAIの役割は
AIに頼る前に、使うデータの質について検討することが重要です。データの質によってAIで分析した結果のレベルは変わります。「ビッグデータ」を否定するわけではありませんが、無作為に集めた大量のデータをそのまま分析しようとしてもうまくいきません。
そこで私が注目しているのが「コンパクトデータ」です。これは、目的を定めてその目的に向けて正確に集めたデータで、データ量が少なくてもそこから有益な発見が多々得られます。AIを使って自動化することが大事だと思っている人が多いようですが、それよりも収集したデータを専門家がチューニング(調整)し、価値あるデータに加工したうえでAIを適切に使っていくことが、データを有効活用する決め手になります。
―――今後のAIの発展について
ひと昔前は500人規模だった人工知能学会の全国大会が、今年は2500人の規模になったことから、世間の注目度の高さがうかがえます。昨今、ディープラーニングの技術が特に注目を集めていますが、ひとつの技術に偏らず、多様なAIの技術を知ることが、今後AIを有効に利用していくために必要です。
昨年、「システムデザインのための人工知能技術創生ロードマップ」というワークショップを立ち上げ、実業界と学術界から著名な経営者と研究者を集め、社会システムの中でのAIの利活用について私たちの発想支援技術等を用いて議論しています。多様なAIと多様なデータ、さらに多様な人間を入れて、どのように組み合わせれば、どのようなビジネスができるかを検討し、そのビジネスを実現するためのシナリオを打ち出してきました。AIをどのように発展させていけば多くの利用者のメリットになるかを考えるためには、このように多様性を取り入れた精緻な議論が必要です。
人間が行っている業務をAIが代替するようになっていくことは、一部の業務については自然の流れだと思いますが、「外部から情報を人が与えずにAIが何かに気付く」といった、AI単独での完全な自動化は不可能だと予測します。世間ではSF映画のようにAIを搭載したロボットが人間と同じように動き、考える時代が来ることを期待しているようですが、AIはあくまで文房具の一種で、脳の一種ではありません。人間とAIが同じデータを分析するためにコラボレーションすることはあっても、恋愛や友情のような絆で直接交わるような近未来は現実性がありません。
プロフィール
大澤幸生 おおさわ・ゆきお
東京大学工学部卒。1995年同工学系研究科博士(工学)取得。
大阪大学基礎工学部助手、筑波大学ビジネス科学研究科助教授、東京大学大学院情報理工学研究科特任准教授などを経て、東京大学 大学院工学系研究科システム創成学教授。49歳。京都府出身。
「フジサンケイビジネスアイ」