乃村工藝社・デザイナー 鈴木不二絵
リオ五輪の閉会式で“TOKYO”をアピールする重要な役割を果たしたのがドラえもん。原作者は藤子・F・不二雄さんで、原画などが展示されている「藤子・F・不二雄ミュージアム」(川崎市多摩区)は、子供から大人まで多くの人が訪れる人気スポットとして知られている。そのミュージアムのロゴマークやポスター、広告などのデザインを担当しているのが、乃村工藝社のデザイナーである鈴木不二絵さんだ。
◆リサーチ力に高評価
鈴木さんは幼い頃、母親から与えられた白い紙にひたすら絵を描いていた。漫画や絵本も大好きで、中学卒業後は自然な形でデザイン専門の札幌市立高等専門学校に入学した。音楽を聴いてイメージした絵を描くなど7年間にわたってユニークな授業を受け、空間のプロデュースを行う乃村工藝社に入社した。「1人の人生を後世に伝えるミュージアムを作りたい」。それが志望動機だった。
デザイナーとして入社したが、最初に配属されたのは記念館など文化施設に携わる部署。打ち合わせに参加して議事録を取るなど、“石の上にも3年”ということわざ通り、仕事を行っていく上で不可欠となる部分を徹底的に学んだ。
転機が訪れたのはその後の部署。ゲームやアニメコンテンツ系企業のグラフィックを担当するようになり、「違う会社へと移ったようなイメージを受けた」という。企業イベントやショールームなどのグラフィックデザインを積極的に手掛けるようになり、実績を積み上げていった。そして藤子・F・不二雄ミュージアムのロゴ作成という、大きな仕事にたどりつく。
その過程では、登場人物のセリフを表現するため、絵の中に設けられる「吹き出し」を研究してほしいという要請があった。これを受けてドラえもんのコミック全巻を読みあさるとともに、藤子・F・不二雄さんの自薦集も読破。普通の吹き出しが多く、ありきたりの日常を少し不思議に描くという作品の傾向を把握した。
高い評価を受けたのは一連のリサーチ力。また、「どこでもドア」や「F」という文字を活用した100を超えるアイデアを出すなど、提案力も強いインパクトを与えた。こうした仕事に対する姿勢が認められ、ミュージアムには採用されなかったデザインも飾られている。
◆花鳥風月を表現
今年8月には、ベルギーの首都であるブリュッセルで開催された一大イベントに携わった。これはベルギーを代表する花「ベゴニア」を活用したフラワーカーペット。2年に1度のペースで開かれる祭典だ。20回目を迎えた今回は「日本・ベルギー友好150周年」を記念。日本をイメージしたデザインで制作されることになり、鈴木さんのプランが採用されたのだ。
ベルギー・ブリュッセルの広場で花鳥風月を表現した鈴木さんのデザイン。高い評価を受けた
デザインを創り上げるに当たっては、着物の柄や家紋、器などに関する文献を読み込んだ。その過程で改めて認識したのが「動物や風景を素直に表現しているケースが多い」こと。それを踏襲することが必要という考えに基づき、「花鳥風月」のデザインを完成させた。
フラワーカーペットは縦25メートル×横75メートルという広大な場所を活用。100人のボランティアが60万本のベゴニアを植え、花鳥風月を表現した。今回は4日間の期間中に10万人が訪れて日本の美に酔いしれた。「歴史に残るデザイン」「これまででベスト」。鈴木さんの手腕を称賛する声が相次いだ。
ブリュッセルでは3月に大型テロが発生した。例年以上に緊迫感が漂っていたはずだが、観客の多くは花鳥風月に触れて、とびきりの笑顔を見せた。「喜びと感動を真剣に考えられる思考を持つようになりたい」。今回の仕事を通じ、新たな目標が生まれた。「海外で仕事をし、世界中に伝えたい」という思いとともに。
【プロフィル】鈴木不二絵
すずき・ふじえ 札幌市立高等専門学校(現札幌市立大)卒。2001年乃村工藝社入社。04年から企業イベント、ショールームなどのグラフィックデザインを手掛ける。38歳。北海道出身。
【会社概要】乃村工藝社
▽本社=東京都港区台場2-3-4
▽設立=1942年12月
▽資本金=64億9700万円
▽従業員=890人
▽事業内容=商業施設のデザイン・設計など
「フジサンケイビジネスアイ」