毎月30万人が訪れる、保育士や幼稚園教諭ための情報サイト「HoiClue(ほいくる)」をたち上げたのは、自らも保育士として働いてきた雨宮みなみ社長。待機児童があふれ保育士不足が叫ばれる今「保育園の先生」は忙しい。仕事に追われゆとりをなくしがちな保育現場を応援したいと、保育士の視点を生かした起業を決意した。
◆自らの経験糧に
「とにかく子供が大好き」。中学生の時の職場体験から、保育士になることを決めていた。短大卒業後、20歳で就職したのは横浜の認可保育所。しかし、念願の仕事は決して甘いものではなかった。
そもそも0~2歳を含む未就児の保育は、体力も神経も使うし一瞬たりとも気が抜けない。しかし、保育士の仕事は単純に子供の世話をするにとどまらず、実に盛りだくさんだ。毎月の行事の飾り付けなどつくりもの、保育の記録や保護者へのお便りなど書類作成、年間の保育計画策定-。「好きだけではやれない仕事」と実感する。
その後、家庭の事情で非常勤を選ぶなど3つの認可保育所を経験。そんな中で気になったのが、保育環境の抱える課題だ。 仕事に忙殺されてしまうと、自分も周囲も疲れがたまって余裕をなくしがち。「日々、人生で初めてを体験する子供たちと向き合う保育士が、これでいいのか」と悩むようになる。
行き着いたのが「保育士の不安や負担を軽減し、楽しさや自信をもてるきっかけづくりをしたい」。就職5年目を迎える年に、情報サイトをたち上げた。エンジニアの夫と、保育士視点をもつ自分とで得意を組み合わせ会社を設立。ベンチャーキャピタルの出資を受けた。
◆子供が喜ぶ情報満載
キッズカラーでは月2回、親子連れにオフィスを開放。身近にあるガラクタを使って遊びイベントを開催している=東京都品川区
情報サイト「HoiClue」には「あそびのたね」「すくいのたね」などジャンルごとに、実際に保育士や幼稚園教諭が子供たちとより遊びを楽しめる情報が盛りだくさん。子供が喜ぶ手遊びや工作のアイデア、イラストや文例のお助け情報など、現場を熟知しているからこその情報を更新している。ネタではなくて「たね」としたのは「ここで得た情報を大きく育ててほしい」という思いを込めている。
当初は課金していたが、収益性よりも基盤づくりを重視し無料開放にした。現在サイトの訪問者は月30万人。保育士や幼稚園教諭、学生が含まれる。昨年比で3倍、課金時と比べると10倍に利用者を増やした。
サイト運営以外では月に2回、オフィスを親子連れに開放。使われなくなった日用品などを使って遊べる「コドモガラクタラボ」を主催している。
待機児童問題や保育士の待遇など、保育現場を取り巻く環境は過渡期にある。「子供たちにとって大きな存在である保育士が未来をつくっている」といっても過言ではない。「大切な仕事に携わる人たちが子供と丁寧に向き合い、寄り添いながら自身も学びを重ねていける環境をつくりたい」と、決意を新たにしている。(滝川麻衣子)
≪Q&A≫
■ゆとり持てる環境づくりを
--「保育園落ちた日本死ね」ブログが国会でも取り上げられ、待機児童問題の注目が高まった
「個人のブログで国が動いたのはすごい。これをきっかけに保育業界にも変化が起きた。保育士でも声を上げる人が増え、待遇改善がこれまでになくメディアで取りあげられるようになった。ただ、保育士不足だから賃金を上げようではなく、乳幼児期の子供に関わる仕事の重要さ、責任の重さの対価として待遇が改善される流れであってほしい」
--保育士の離職が多いのは
「結婚や出産を機に離職するケースは多い。多忙な環境に疲弊してしまい、現場を離れていく人も。保育士という仕事の専門性や価値がきちんと社会に認められ、保育士という仕事に誇りをもつことができれば、離職率や就職率もまた変わるのでは」
--理想の保育環境とは
「保育士が精神的な余裕を失ってしまうと、保護者とともに子供を育てるという態勢になりにくい。大人たちがゆとりをもってじっくり子供と向き合うことだと思う」
--子供の視点を大切にしている
「高いところから飛び降りたがる子供を大人は止める。しかし子供の頃を思い出せば、その気持ちは知っている。子供を(大人側に)引っ張ってくるより、その気持ちに寄り添うゆとりを持てる環境づくりをしたい」
【プロフィル】
雨宮みなみ あめみや・みなみ
2006年、和泉短期大児童福祉学科卒。同年から横浜市や東京都内の認可保育所での勤務を経て、10年にキッズカラーを設立。同代表取締役に就任。1児の母。30歳。横浜市出身。
【会社概要】キッズカラー
▽本社=東京都品川区東大井5-26-26
▽設立=2010年12月
▽資本金=3559万2000円
▽従業員数=9人
▽事業内容=保育士支援、子育てを軸とするウェブサービス運営
「フジサンケイビジネスアイ」