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地方創生発信型シンポジウム「一宮から日本を元気に!」開催

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セミナー全景 シンポジウムでは毛織物で地域活性化を図る一宮市をモデルケースに、地方創生をめぐり活発な議論が交わされた =12日、東京都渋谷区

2月12日、東京都渋谷区の白寿ホールで、愛知県一宮市が主催する地方創生発信型シンポジウム「一宮から日本を元気に!-JAPAN MOVE UP スペシャルトーク-」が開催された。一宮市は、英ハダースフィールドや伊ビエラと並ぶ高級毛織物の3大産地とされる「尾州産地」の一角をなす。同シンポジウムでは「ファッションで繋がるマチとマチ」をテーマに、一宮市の中野正康市長、若者文化の中心地である東京都渋谷区の長谷部健区長に加え、ファッションおよびアパレル業界に精通した識者を招き、「自治体連携による地方創生の可能性」や「尾州毛織物の魅力とポテンシャル」について意見を交わした。


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中野正康・一宮市長 

一宮市は、愛知県の中心にある名古屋市の北西に位置しています。岐阜県との県境に流れる木曽川に面し、人口38万6000人の県内で3番目に大きな街です。郊外には田畑が多く、自然も豊かで、のどかな生活が送れるという都会と田舎のバランスが取れた地域だと自負しています。名古屋駅からは電車で約10分と交通の便もよく、最近ではベッドタウンとしても開発が進んでいます。

一宮市を中心とする尾州地域は国内最大の毛織物の産地で、尾州毛織物は明治時代の殖産興業以来の歴史を持っています。第一次世界大戦、第二次世界大戦を経て、海外にも製品が数多く輸出され、毛織物産業は大きな発展を遂げました。平成の時代になってから、安価な輸入品に押され、生産の中心は中国などへ移りましたが、高級品はまだ残っており、世界の高級毛織物の3大産地の一角としての地位を確かなものにしています。

ものづくりがしっかりしていて、品質が高いことが尾州毛織物の特徴で、当地域の毛織物メーカーの製品も、「純国産」を証明し、日本の繊維産業の活性化を目指す統一ブランド「J∞QUALITY」の認証を取り始めています。

こうした尾州毛織物や一宮市の魅力を外に発信するために、流行の発信地である東京都渋谷区に着目し、東京から全国、そして海外に情報発信を行っていく足がかりとして、今回のシンポジウムを開催するに至りました。 そうしたなかで、日本のファッション教育の先駆けである文化服装学院や若者ファッションの聖地・原宿がある渋谷区のような自治体と連携し、ブランドイメージを向上させていくことが大切だと感じています。地方にも強みがあり、得意分野もそれぞれあります。一宮市をはじめ自治体同士の連携により、お互いに補っていくことで、日本全体が元気になっていくのではないでしょうか。

首都圏と地方が強みを活かしてつながる

シンポジウムの第1部では、愛知県一宮市の中野正康市長と東京都渋谷区の長谷部健区長が「自治体連携による地方創生の可能性」をテーマにトークを行った。都市型フリーペーパー「TOKYO HEADLINE」発行のほか、TOKYO FMのラジオ番組「JAPAN MOVE UP!」総合プロデューサー、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会の事務局アドバイザーなどを務めるヘッドライン代表取締役の一木広治氏がモデレーターを務めた。

一木氏は、活力ある自治体の首長が集まり「日本を元気にする」ことを目的に知恵を出し合う「TEAM2020首長ネットワーク」も主催し、自治体間の連携を推進している。中野市長と長谷部区長も同ネットワークのメンバーだ。

第1部の冒頭で、中野市長は一宮市の特徴と魅力を紹介。長谷部区長も夫人が一宮市出身で、自身もたびたび同市を訪れているという縁がある。渋谷区で生まれ育った長谷部区長は「一宮市さんは昔から繊維を中心に頑張っている街ですが、私の地元の原宿には、自分たちの親の世代にDCブランドの創始者がいて、仕入れのために一宮市によく通っていたという話を聞きました」と、ファッション、アパレル産業における一宮市と渋谷区との縁について語った。

中野市長は旧郵政省、総務省の官僚出身で、民間出向で博報堂に1年間勤務した経験を持つ。長谷部区長も博報堂に勤務したあと、渋谷区議から区長に転じた経歴の持ち主。こうした民間企業での経験をもとに、両氏は、自治体が情報発信を行う際に重要なコミュニケーションや、行政が行うプロジェクトなどに多くの人を巻き込むポイントについて意見を交わした。

中野市長は「コピーライターの仕事のやり方を見て、すごいと思いました。製品を宣伝するためのキャッチコピーやキャッチフレーズを何十、何百通りも書き出して、朝まで徹底的に議論していたんです」と、自治体がメッセージを発信するうえで、言葉を研ぎ澄ますことの重要さを指摘。一方、長谷部区長は、「(博報堂時代の経験が)いまの仕事に非常に役立っています。とくに区議時代は、クライアントが渋谷区役所でターゲットが渋谷区民だと考え、区民が利益を得るサービスの企画を立案していたという感覚です。そういうマーケティング的な発想が大切です」と発言した。

いま渋谷区では、街をまるごと学舎(まなびや)と考える「シブヤ大学」という試みを行っている。長谷部区長は「若い人たちが行政を向いていないことと、年金や環境の問題を始め、多くのことが次の世代に先送りされているという問題意識がありました。その次の世代が憧れ、見本となるような『格好いい大人』の養成所として『シブヤ大学』を始めました」と、市民参加による新しい「共育」システムを作り上げた経緯を語る。

さらに、首都圏と地方との連携をいかに進めていくかも話題になった。「海外からも人が数多く訪れる東京はまさに『花の都』。アメリカの人気歌手のレディー・ガガも原宿を訪れ、2020年にはオリンピックも開催されます。首都圏と地方がいかにそれぞれの強みを活かし、オールジャパンで強くなれるかが今後の日本の課題」と中野市長。

東京はサービス業を始めとする第3次産業が強いが、一宮市は第2次産業のものづくりが強い。クリエーターを始め、さまざまな才能を持つ人材が集まる東京のポテンシャルを活かすという意味で「彼らが自分の夢をリアルな形にしようとするときに、一宮市が持っている繊維産業の力を活用していただきたいですね」と中野市長は訴えた。

それに対し、長谷部区長は「渋谷、原宿にこれだけ多くの人が来ているのに、渋谷区のお土産がないのです。そこで、たとえば世界に誇る尾州毛織物の生地を使い、この街のお土産ができたら、渋谷区にとっても一宮市にとっても良いことです。今後は、製品がどこで作られているのかというトレーサビリティがいっそう重要になるので、両自治体が良い形でつながりを持ちながら、渋谷の街で本物を売ることができたら嬉しいですね」と、Win-Winの関係構築に向けてのビジョンを語った。


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高い品質を誇る尾州毛織物の生地


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左から中野 正康氏、長谷部 健氏、伊勢谷  友介氏、中島 君浩氏、落合 将一氏、一木 広治氏

コラボレーションでブランド化を進める

第2部では、中野市長と長谷部区長のほか、地域活性化を含む数々のプロジェクトを手がけるリバースプロジェクトの伊勢谷友介代表、一宮市で毛織物や化合繊織物、ニット服地を製造している中伝毛織株式会社の中島君浩副社長、三越伊勢丹で紳士商品統括部バイヤーを務める落合将一氏が加わり、「繊維産業から見る地方創生 尾州毛織物の魅力とポテンシャル」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

最初に中野市長が尾州毛織物の歴史について述べたあと、中島氏は実際にものづくりに携わる立場から、尾州毛織物の現状について説明した。中島氏によれば、日本に数ある繊維産地の中でも最大の規模を持つのが一宮市を中心とする尾州産地。明治の殖産興業以来、毛織物を中心に手がけてきたのが大きな特徴で、国内の毛織物製品の約8割が同地域で作られているという。また、尾州は、英ハダースフィールドや伊ビエラと並ぶ世界の高級毛織物の3大産地の一角とも言われている。

「世界的にも有名な欧米の一流ブランドのデザイナーたちが、この尾州でオリジナルの毛織物を注文しています。紡績から織り、編み、仕上げの加工に至るまで、すべての工程が当地域に集約し、分業体制がしっかりできており、各工程を担うさまざまな企業にいる職人たちの技術が、質の高いものづくりを支えているのです」と中島氏は語る。

こうした尾州毛織物の魅力を、アパレル業界ではどう捉えているのか。落合氏はこう語る。

「尾州で作られている生地が私たちの製品にも数多く使われています。尾州は世界的にも有名な毛織物産地。真面目で小回りが利くことが他の産地にはない特徴だと思います。分業のメリットを活かし、お客様の要望に合った生地を量産できることが尾州産地の最大の強みです」

だが、一宮市を中心とする尾州産地が、世界的に有名な毛織物産地であることが日本ではあまり知られていない。「欧米の一流ブランドは守秘義務が厳しく、彼らの製品に尾州毛織物の生地が使われていることを、なかなか宣伝させてもらえない」(中野市長)ことが、尾州毛織物のブランド化を進める上でネックになってきたのだ。

いわば、これまで黒子に徹してきた尾州毛織物だが、一宮市の毛織物メーカーと三越伊勢丹が昨年コラボレーションを行い、「尾州ツイード」のブランドを展開するなど、新たなコラボも始まっている。「尾州という産地の特徴をより活かしたものづくりを、広く紹介していきたい」(落合氏)「いままでは自分たちの名前を前面に出すことができませんでしたが、今回は『尾州ツイード』というネーミングをきちんと行いました。ブランディングを進めながら、世界中に売っていきたいですね」(中野市長)という力の入れようだ。

そこで課題になるのが、今後の尾州毛織物を担う若者たちをどう増やしていくかということだ。中島氏によれば、若年労働者の不足は、尾州に限らず全国の繊維産地に共通する課題。「職人の高齢化が進み、数年のうちに技術を伝承しないと間に合わなくなるところまできています」という。繊維業界における企業の後継者不足も深刻だ。

伊勢谷氏は「地方創生の課題としてよく挙げられるのが人口減少と地域産業の活力の低下。ほとんどの自治体さんが、人口を増やしたいとか地域の商品を売りたいとおっしゃいますが、それらは正攻法ではあっても効果はあまり期待できません。私たちから見た元気な地域とは、起業家が数多くいる地域です」と指摘する。

そこで伊勢谷氏は「起業する若者をいかに地域の中で増やしていくか」をテーマに、自治体、市民、企業が一体となって地域の課題を解決していくスキーム作り、チーム作り、事業作りに取り組んでいる。その主な担い手が地域で起業する若者たちだ。

「ビジネスを進めていくためのスキームを始め、(自分は社会を支えるサポーターだという意識を持つ人たちが)活躍できる可能性を提供し、地域で自由に動いてもらうことで地域の特性が発揮されるのです。その結果できあがったコミュニティからコミュニケーションが回り出し、何か新しいものが生み出される土台ができるのだと思います」と伊勢谷氏は述べた。


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ブランディングを進める尾州産のスーツ

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