NFLの担当者、酒匂雄二さん
インターネットを通じ、ものづくりや社会貢献の事業を提案し、共感した人から資金を募る「クラウドファンディング(CF)」が、中小企業などの資金調達や地域活性化の新方法として注目されている。「ふるさと投資」として銀行も活用に乗り出した。
◆購入型でリスク軽減
「真田幸村スーツ」を購入しませんか-。大阪市の紳士服・礼服メーカー「NFL」は、大阪にゆかりのある戦国時代の武将、真田幸村のイメージを取り入れたスーツを企画した。CF仲介サイトで昨年9月、1口5万円での購入を呼び掛けたところ、募集金額50万円に対し約5倍も集まった。
大坂夏の陣で活躍した知将の人気の高さに加え、旗印の「六文銭」や赤色をアクセントにしたデザイン、大阪の縫製業界を盛り上げたいという訴えが多くの支持を得た。
「中小企業だと銀行から借りるのも一苦労。購入型のこの募集だと初期投資に必要な資金が集まる上に、できた服を買ってくれるお客さんも決まっている」。NFLの担当者、酒匂雄二さんがメリットを強調する。
スーツをデザインし、多くのサイズの型紙を作るには70万円近くかかる。融資を受けても生地の仕入れから仕立て、販売までの時間が長く、確実に売れるかも分からない。デザイン段階で予約購入してもらう「購入型CF」だと経営リスクが大幅に軽減されるわけだ。
NFLが利用したCF仲介サイトは「FAAVO(ファーボ)」という。出身地と出身者をつなぎ、地域を盛り上げるとして東京の会社が運営、活性化プロジェクトを選んで後押ししている。
サイトに掲載する事業数を増やすには、地域ごとにプロジェクトづくりの相談に乗る運営団体が重要となる。大阪ではNFLがつくったNPO法人(特定非営利活動法人)が「FAAVO大阪」の運営団体になった。
今年6月末までに「貧困家庭の子供たちを野外キャンプに招待」という社会貢献から「電車に乗って阪堺沿線の飲食店をはしごしよう」といったイベントまで計50件のプロジェクトで資金募集し36件で成功した。
「大阪で頑張っている人を応援したい」とFAAVO大阪の担当者。ネットを通じて多くの人から支援が受けられる仕組みに行政も着目し、FAAVO大阪は大阪府などと連携協定を結んでいる。
金融のプロである銀行もCFを取り入れた。
滋賀銀行は、金融を通じて県産品や食材の人気を高めブランド化するとして、2011年に東京のCFサービス会社「ミュージックセキュリティーズ(MS)」と提携。
取引先と相談しながら、手作り伝統靴「八幡靴」の事業拡大など6月末までに11件の事業について、MSのサイトで一般投資家から出資を募った。うち5件は、自ら設立した「ふるさと投資ファンド」などからも出資している。
滋賀銀行は、CFの手法は小口事業、零細事業者の応援に向いているとした上で、その理由として(1)MSサイトを全国の人が見るので商品のファンを増やし販路拡大につながる(2)マスメディアに広告を出すよりも費用が掛からず成果も上げやすい-を挙げている。
「銀行は融資できても顧客、商品のファンを同時には紹介できない。CFを通じて成長すれば融資の対象にもなり銀行にもプラスだ。この積み重ねで5年後、10年後に地域が豊かになれば」(遠藤良則・法人推進グループ課長)と期待する。
◆寄付方式も話題に
CFには共感してくれた人から寄付を募る方式もある。東日本大震災の被災地支援で利用され、地方自治体も活用に乗り出した。
神奈川県鎌倉市は13年度から、CFを使って観光施設を整備する「『かまくら想い』プロジェクト」を始めた。初年度は1口1万円で目標額100万円を達成し、観光ルート板10基を設置。昨年度の第2回は目標より少ない67万円だったが、地区案内板4基を立てた。
「財政状況が厳しい中で全庁的にいろいろな資金調達の方法を検討した結果だ。寄付してくれた人にはルート板などに名前を残している」と商工観光課の斎藤憂希さん。
市役所のホームページに寄付コーナーを作るより、仲介業者のサイトを使った方がシステム改修の費用がかからず、多くの人が見るので効果的という。鎌倉市のケースは国内でも有数の観光地であるからこそ応援が集まったともいえそうだ。
「フジサンケイビジネスアイ」