神戸合成の研究室。日夜、新商品の開発や分析が行われている=2日、兵庫県小野市
ディーラーから新車を購入するとき、必ずと言っていいほど「オプションコーティング」を勧められる。このコーティング剤を作っているメーカーをわざわざ確認する人はいるだろうか。その一つが神戸合成だ。純正ケミカルでは業界2位のシェアを持ち、国内自動車メーカーのホンダやスズキの純正コーティング剤では50%以上を生産している。
◆1社頼みから脱却
穀物の漂白剤を製造していた「三浦化学工業所」が前身。1963年、ホンダが二輪車から自動車業界に参入するのに合わせて、化学技術を生かしてホンダの純正自動車・二輪車用ケミカル製品メーカー「神戸合成」として発足した。当時のホンダはエンジン技術は素晴らしいものの、塗装や板金技術が遅れており、車の表面に神戸合成のクリームを塗ることで車の価値を高めていたという。その後、品質の高さが認められてスズキとも取引を開始した。
宮岡督修(みやおか・まさのぶ)社長(57)は、創業者で先代社長の次女の娘婿として請われ、85年、28歳のときに入社。「私が一番若手。社内は高齢化が進み、ネガティブな雰囲気。『とんでもないところに来てしまった』と頭を抱えました」。神戸本社の営業部に配属されたが、ほとんどホンダ一本頼みの営業が気に掛かって仕方なかったという。
義父に「ホンダが風邪をひけば、うちは肺炎で死んでしまう。得意先を増やしたい」と進言したが、「生意気を言うな」と一喝されるだけ。それでもあきらめきれず、つてをたどってホンダのライバル会社であるヤマハ発動機にも営業を掛けたところ、商談が成立。ヤマハとホンダはライバル関係で、義理の兄を社長にたて、営業責任者として、86年に別会社の「アスカ」を創業。アスカを通じてヤマハと取引を続け、その後も将来をにらみオリジナルブランド「LAVEN(ラベン)」を設立。いすゞ自動車や日野自動車などにも順調に販路を開拓するなど、会社規模を拡大していった。
一方で、安価な中国製が業界に参入し、オートバイ業界も衰退していくなか、神戸合成の主力製品である、ブレーキクリーナーやチェーンオイルなどのケミカル製品の売り上げにも陰りが見えてきた。
2002年、本社と工場を兵庫県の明石市から小野市の工業団地に移転。同時に年商の3%を毎年投資して、次世代コーティング剤の開発に専念した。ディーラーが車を売っても収益がない時代、付加価値のある商品が重要になると感じたからだ。社長に就任し、05年には自動車ボディー用フッ素系コーティング剤を発売。続いて汚れのつきにくい親水ガラス系コーティング剤を売り出した。しかし、販売は伸び悩んだ。
◆撥水性を向上
「よくよく聞いてみると、お客さまが求めているのは『ワックスのように撥水(はっすい)性に優れた商品』だった」と振り返る。そこで06年、撥水性と耐久性に優れた次世代ガラス系コーティング剤「QG9」を発売。他社に先駆けてガラス系コーティング剤を開発したことは、同社にとって転機となり、08年には、リーマン・ショックがあったにもかかわらず、過去最高の売り上げ約12億円を達成。現在も順調に伸び続けている。10年には、韓国を皮切りに海外輸出を開始した。
創業当初は50種類に満たなかった製品数も、開発を重ね、300種類ほどに。宮岡社長は「コーティングでとんがった会社になりたい。素材に対するコーティングなら神戸合成って言われたいですね」とトップを目指す。(三宅令)
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【会社概要】神戸合成
▽本社=兵庫県小野市匠台10
▽創業=1963年1月
▽資本金=6000万円
▽従業員=45人
▽売上高=13億円(2014年度)
▽事業内容=自動車・オートバイ用ケミカル製品製造販売、プラスチック成型用ケミカル製品製造販売
≪インタビュー≫
□宮岡督修社長
■従業員守ることは会社を守ること
--先代社長とはケンカばかりだったとか
「自分の意見を言い続けたから。古い体質に『今のままでは倒産する』という危機感があった。さまざまな提案をしても受け入れてもらえない。発言力を上げるなら実績をあげなくてはと努力した」
--意見対立で、減給、降格処分にもなった
「36歳のとき、中途採用の社員を慰安旅行に連れて行かないという役員決定に、社員は非難ごうごう。『先に入社した社員と差をつけるのはおかしい』と反対したところ、『逆らう気か!』と激怒されて。その後2年間、あいさつすら無視され続けた(笑)。現在は前年度決算報告と当年度の方針発表を兼ね、全社員に業務として慰安旅行に参加してもらっている」
--大事にしていることは
「従業員を大切にすること。義父の口癖が『汝(なんじ)、店を守れ。店は汝を守らん』だった。私は『汝、従業員を守れ。従業員は会社を守らん』。従業員を守ることが、会社を守ることにもつながる。もう一つは正直なこと、嘘をつかないこと。大きな企業ほどコンプライアンス(法令順守)を重要視している」
--今後の事業展開は
「2012年に化粧品の販売許可を取った。うちは『カーコスメティックコーポレーション』だが、車だけでなく人も美しくしていきたい。使っている材料は化粧品と変わらないし、技術も女性用フェースクリームに転用が可能。後はマーケティングとブランド戦略次第だ」
「もう一つは、直営の洗車専門店の立ち上げ。今後、運転支援システム『アイサイト』などの導入で衝突事故がなくなり、板金店の仕事も減っていくと思う。うちは新車にコーティングはできても、板金技術がなく中古車には難しい。板金職人に来てもらい、車を磨き上げる専門店を展開できたら、そこで製品を売ることもできると考えている」
【プロフィル】宮岡督修
みやおか・まさのぶ 近畿大商経卒。1980年に住宅設備製造販売のノーリツに入社。85年に神戸合成に入社。常務を経て、2004年から現職。57歳。兵庫県出身。
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≪イチ押し!≫
■吹き付けて塗るだけ「SGX01」
「コーティングなら神戸合成と言われたい」「他社にはない製品を作りたい」との意気込みから開発されたのが、手軽に塗ることのできる自動車・オートバイ用ガラス系簡易撥水(はっすい)コーティング剤「SGX01」だ。
空気に触れると硬化し、薄いガラス膜ができるため硬化剤を必要とせず、吹き付けて塗るだけで、車体を磨き上げることが可能。撥水効果に優れているのはもちろんのこと、車体に水滴がついていても、乾ぶき要らずで塗り込みができるため、洗車からコーティングまでを素早く行える。しっとりとした艶と柔らかみのある仕上がりが特長。
価格は420ミリリットル缶で4400円、180ミリリットル缶ウエス2枚付きで3500円。
「フジサンケイビジネスアイ」