2012年3月に発売された「ザクとうふ」。当時は大きな話題になった
流れてきた豆腐をセンサーが感知し、次々容器をかぶせていく機械=前橋市鳥取町の相模屋食料第三工場
「ザクとうふ」というユニークな豆腐があるのをご存じだろうか。アニメ「機動戦士ガンダム」に登場する人型兵器「ザク」の形状を模した枝豆風味の商品だ。2012年3月の発売以降、シリーズ累計420万個売れる人気ぶりとなっている。
そんなザクとうふを手がけたのが前橋市鳥取町に本社がある「相模屋食料」だ。03年度に年商28億円だった同社は、その後10年で157億円にまで成長。今や豆腐業界のリーディングカンパニーとなっている。
■ガンダムとコラボ
同社が創業したのは戦後まもない1951年。前橋市内の小さな豆腐店「相模屋豆腐店」がスタートだ。名前の由来は創業者の恩人が神奈川に住んでいたこと。その後少しずつではあるが確実に成長を遂げてきた。
そんな相模屋食料を一気に成長軌道に乗せたのが鳥越淳司社長。鳥越社長は先代の江原寛一社長(当時)の三女と結婚したことを機に、2002年に雪印乳業から転職。07年から社長を務めている。
同社はさまざまなヒット商品を生み出しているが、そのほとんどは鳥越社長のアイデアだ。ザクとうふはその代表作で、ガンダム好きの鳥越社長が、10年に行われた「ガンプラ」イベントでさまざまなコラボ商品があるのを知ったことが開発のきっかけだった。
それまで豆腐といえば、老若男女誰からも好かれる商品がヒットの鉄則。ザクとうふはそんなセオリーを無視した業界初の挑戦だった。しかし蓋を開けてみれば、30~40代の男性層の心をがっちりつかんでみせた。
「ザクとうふはガンダムのファン以外には何の価値もない。それでもヒットできるだけの土壌が、豆腐市場にあるということが初めて分かった」(鳥越社長)
その後も、子供向けの「プチとうふ」、F1層(20~34歳の女性)向けの「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」など、ターゲットを絞った商品を次々発売している。
■年商1000億円宣言
ユニーク商品が注目されがちな相模屋食料だが、最も力を入れているのは豆腐の基本の絹豆腐と木綿豆腐。主力工場の第三工場(前橋市)はこの思いが詰まった工場になっている。
第三工場は、相模屋食料がまだ年商32億円だった04年、41億円を投じて建設。翌年から日本最大の豆腐工場として稼働を始めた。
注目は絹や木綿のライン。流れてきた豆腐をセンサーが感知し、吸盤がついた特殊なロボットが上からパックを豆腐にかぶせていく。ロボットの素早い動きにより、できたて熱々のままパック詰めすることが可能で、おいしさを閉じ込めることができるのだという。
鳥越社長は「第三工場は木綿と絹を徹底的に極めようとしてつくった工場。できたての豆腐って、やっぱり一番おいしいんです」と説明する。
現在、豆腐業界の市場規模は6000億円とも言われている。そんな中で鳥越社長が掲げる目標はずばり年商1000億円。10年以上前のまだ30億円程度のときに、会社の忘年会で宣言したという。壮大すぎる目標に周囲はピンと来なかったそうだ。
「できるかどうか考えたらできないことだらけ。だから誰もやれない。そこまでやるんだという大きな目標を掲げることが大事なんです。言ったかぎりはやりますよ」
こう語る鳥越社長からは、本当に近い将来、目標を実現させてしまいそうな自信や勢いが感じられた。(浜田慎太郎)
【会社概要】相模屋食料
▽本社=前橋市鳥取町123 ((電)027・269・2345) ▽設立=1951年10月 ▽資本金=8000万円 ▽従業員=460人 ▽売上高=157億円(2013年度) ▽事業内容=大豆加工食品(豆腐・油揚げ・厚揚げなど)の製造、販売
≪鳥越淳司社長インタビュー》
鳥越淳司社長
■“必ず自分でやる”がモットー
--相模屋食料に入社した当初は、午前1時から工場に入っていたと聞いた
「ものづくりの会社なので、最初はものを知らなくちゃいけない。大豆を見て、触って、ひいて、豆乳を飲んで、豆腐を作ってということをした。2年間ぐらい続けた」
--豆腐作りで何を感じた
「大豆は農作物だから毎日入ってくる原料も厳密に言えば違う。そこから温度、湿度とかによって豆腐は変わってしまう。豆腐にはこんなにもいろんな顔があるんだということを一番感じた。豆腐づくりが分かってしまえば、自分で何かやろうというときに生きてくる」
--鳥越社長のモットーは
「業界トップの企業になると、私たちがやることすべてが初めてのことになる。ジャングルの道を切り開いていくような感じ。左に行っていいのか、右に行っていいのかまっすぐ行っていいのか。全部自分たちにかかっている。だからそれを社員にやらせるのではなく、“必ず自分でやる”ということがモットー。自分で決めて自分で取り組んで、当然責任も自分でとる。そういうことを大事にしている」
--社員にはどのような思いで仕事をしてほしいか
「社員には今やっていることを楽しんでほしい。うちの社員はいろんな新しいことやっているから、注目が集まる代わりにものすごく大変。だけど、やって成功すれば楽しいことになる。現在会社はこれをやらなければつぶれてしまうとか、そんな守りの姿勢ではない。大変だけど楽しんでやってほしい」
--社長を務めるやりがいは
「豆腐でトップメーカーになったので、自分がやっていることが豆腐の歴史や伝説を作っていけるのが楽しい。大変だけどそれ以上に楽しい。豆腐という伝統食品を担っているという責任もある。この立場になれて本当に良かったと思う」
【プロフィル】鳥越淳司
とりごえ・じゅんじ 早大商卒。1996年に雪印乳業入社、営業職を務める。2002年に相模屋食料に移り、04年10月専務。07年5月から現職。41歳。京都府出身。
≪イチ押し!≫
■濃厚な味わい「ナチュラルとうふ」
「ザクとうふ」「油で揚げない油揚げ」など数々のヒット商品を生み出してきた相模屋食料の今一押しの商品が「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」だ。F1層(20~34歳の女性)にターゲットを絞った商品で、昨年8月に「プレーン」を発売。クリームチーズのような食感で、通常の豆腐に比べて味が濃厚なのが特徴だ。オリーブオイルをかけて食べるのもおすすめだという。
今年2月には「チョコレート味」を発売。ヘルシーで適度な甘みの新スイーツとして人気を集めそうだ。チョコ味の販売は5月末までを予定している。
ナチュラルとうふは関東、関西地区を中心にスーパーマーケットなどで販売しているほか、専用ホームページからも購入できる。希望小売価格は198円。問い合わせは相模屋食料フリーダイヤル0120・710・276。
「フジサンケイビジネスアイ」