パシフィックボイスのグループ会社が運営する短編専門の映画館「ブリリア・ショートショート・シアター」=横浜市西区
パシフィックボイスは、俳優の別所哲也さんがショートフィルム(短編映画)の普及を目的に設立した会社だ。アジア最大級の短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル」を実質的に主催する傍ら、グループ会社を通じ横浜市内で映画館を運営。普及活動と企業活動を巧みに両立させてきた。
「若手クリエーターの登竜門であり続けたい」。パシフィックボイスの高橋秀幸PRマネージャーは、ショートショートフィルムフェスティバルの理想像をそう表現する。
同映画祭は、パシフィックボイスが運営するショートショート実行委員会が1999年から主催してきた。2001年に欧米作品を審査対象にしたコンペティションが始まり、その3年後には日本を含むアジアの部門を追加。同時に米アカデミー賞の公認映画祭となり、受賞への道が開かれた。アカデミー賞公認映画祭は、日本ではほかに1つしかないという。
審査対象となる作品は25分以内であることが要件で、「ジャパン部門」など地域別に設けられた3部門の優秀賞からグランプリを選出。ほかにも「観光映像大賞」などがある。
その知名度の高さは、毎年100以上の国と地域から4000作品以上が応募されていることでも分かる。12年にグランプリを受賞した平柳敦子監督が昨年、カンヌ国際映画祭のシネフォンダシオン部門で日本人初の2位を獲得するなど、多くの優秀な人材も輩出している。
08年には、横浜市西区にショートフィルム普及のための映画館もオープンさせた。128席を備えた「ブリリア・ショートショート・シアター」だ。この映画館は、日本で唯一の短編専門映画館でもある。高橋マネージャーは「映画祭は年1回なのに対し、一年通してショートフィルムがみられ、補完的な存在になる」と運営メリットを強調する。
この映画館は、稼働率の低い時間帯に、1時間当たり5万4000円(平日)で貸し出している。プロポーズ目的で借りる人が多く、これまで100組を結婚に導いたという。
一方、同社がここにきて力を注いでいるのが映像配信だ。映画祭の出品作品は、上映の権利を得た同社を通じて、スポンサーのネスレ日本が運営するウェブサイト「ネスレアミューズ」上で配信。NTTドコモの動画配信サービス「dビデオ」でも現在、1000以上の作品を視聴できる。
「dビデオはスマートフォンにも対応しているので通勤中に見てもらえる。映画祭や映画館の客層は30代女性が多いが、もっと若い人にも好きになってほしい」(高橋マネージャー)
別所さんは余分な部分がそぎ落とされ、“凝縮感”のあるショートフィルムをエスプレッソコーヒーにたとえるという。映画祭の初開催から17年目。ショートフィルムの“深い味わい”は着実に広まりつつある。(井田通人)
【会社概要】パシフィックボイス
▽本社=東京都渋谷区千駄ケ谷4-12-8 SSUビル4階
▽設立=1994年8月
▽資本金=1000万円
▽従業員=15人
▽事業内容=映画祭や映画館の運営など
「フジサンケイビジネスアイ」