女性目線入った介護施設運営

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孫の手・ぐんま 浦野幸子社長

 高齢化が進みリハビリテーションの専門家である理学療法士へのニーズが高まっている。リハビリといえば、スタッフと1対1で歩行訓練をするようすを思い浮かべるが、実際の現場では人手不足や経費削減などもあり、機械や他の職種でまかなうことが多い。そんな現状に飽き足らず、利用者一人一人に丁寧に触れ合うことで人気を集めているのが、「孫の手・ぐんま」が運営する介護施設だ。自身も理学療法士である社長の浦野幸子さんは「かゆい所にも手が届く思いやりを持つという意味を社名に込めた」と話している。


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施設内で談笑する入所者=群馬県みどり市の「人生の奥座敷孫の手」

 ◆外観は「和風旅館」

 今年の元旦に群馬県みどり市に、「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)を新規オープンした。サ高住は介護、医療と連携して高齢者の安心を支える住宅で、全国で16万戸超が運営されている。今回開所した「人生の奥座敷 孫の手」は、訪問看護、通所施設を運営する同社の4カ所目の施設。リハビリ型の通所施設を併設し、内科、薬局を開設したほか、だれでも利用できるカフェもある。和風旅館のような趣ある外観で、訪れた人からは「女性の目線が入っていますね」と好評だ。

 ぜいを尽くしているように見えるが、工夫を凝らして出費を抑えている。一例として設備の目玉となる大浴場は、高額な循環濾過(ろか)装置の導入が義務づけられているために設置していない。その代わりプライバシーや衛生面の配慮もあり、各室すべてに浴室を備えている。「一斉に入れたほうが、手間はかからない。しかし個別に職員が対応する」と、利用者との触れ合いを密にしている。

 同社はサ高住のほか、リハビリ型の訪問・通所施設を群馬県と栃木県で合計4カ所運営している。全国の通所施設の平均稼働率は70%だが、同社は90%を超えている。訪問看護・リハビリの訪問実績も月2000件に達している。

 人の役に立つ仕事をしたいと、小さいころから看護師を目指していた。転機となったのは高校3年のとき、理学療法士がリハビリ指導しているテレビ番組を見たことだった。「リハビリはトレーニングにも似ていて、スポーツ好きの自分に合っている」と専門学校に進み、理学療法士になった。

 病院などの医療機関で10年勤務。しかし「他の職種との業務連携が少なく、利用者の立場に立っていない」と現状に疑問を持ち、2001年に自宅の一室で訪問看護の会社を立ち上げた。

 当時、リハビリは病院か通所施設で行うのが一般的で訪問は珍しかった。しかしすぐに引っ張りだことなる。連日、朝8時から夜8時まで1日9軒を担当するほどだった。「予約が取れない利用者から、『何時でもいいから来てほしい』といわれたこともある」と振り返る。

 ◆高校で養成講座

 リハビリが必要な人は外出が困難で、病院や施設に通うことも大きな負担になっていた。このため表に出てこなかったニーズを掘り起こした。その後、利用者の求めに応じて通所施設などを次々と開設していく。

 厚生労働省によると、25年には介護職員を12年比で60%増加させなければならない。人材不足は深刻だが次世代育成のため、高校でのヘルパー養成講座の講師を務めるほか、昨年から高校新卒者を採用している。「やりがいや意義を実感して、介護職を志してもらいたい。このため、小中学生の職場見学も受け入れている」と豊かな高齢化社会の実現を目指す。(佐竹一秀)

                  ◇

 ≪Q&A≫

 ■保育所完備 働く母親支援

 --通所施設の全国平均より高い稼働率だ

 「サービスの質を落とさないため、新規希望者を無理に増やしていない。職員が十分に確保できないときは、利用者に対して『通所を週3回から2回に減らしてほしい』などと頼んでいる。サービスの質を保ちたいという方針を理解してくれているので、聞き入れてくれることが多い。利用者との信頼関係が当社の一番の売り物だ」

 --介護業界は人手不足で人材確保に苦労している

 「当社では職員が安心して働くことができる環境づくりをしている。新規スタッフには手厚い教育プログラムを提供し、未経験者も積極的に採用している。昇給や昇格のチャンスも平等に与えられ、がんばり次第で役員や管理職を目指すことも可能だ。施設内には保育所も完備しており、小さい子供を持つ母親も安心して働くことができる。また外部の講師を招いての研修の機会も設けている。このため定着率は年々上昇している」

 --15歳以上65歳未満の生産年齢人口が減り続けている

 「高齢者や障害者が働く場をつくればいい。自分が社会に参加して役に立っているということは、全ての人にとって喜びとなる。例えば脳梗塞の後遺症で左手が動かない人の場合、右手を使うことはできる。このため右手用の生産ラインを作れば働くことができる。これまで活用されてこなかった人材を生かすことで、労働力不足を補い、人生のやりがいを見いだすことにもつながる」

【プロフィル】浦野幸子

 うらの・ゆきこ 国立仙台病院付属リハビリテーション学院卒。理学療法士。病院などの医療機関で勤務。2001年ハッピーラブハッピー(現孫の手・ぐんま)を設立し、現職。45歳。福島県出身。

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【会社概要】孫の手・ぐんま
 ▽本社=群馬県太田市大原町156-3
 ▽設立=2001年2月
 ▽資本金=1000万円
 ▽従業員=138人
 ▽事業内容=訪問看護、通所介護、訪問介護、短期入所者生活介護、居住介護支援など

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