第9回日本バイオベンチャー大賞 きょう贈賞式
すぐれたバイオベンチャー企業を表彰し、バイオ産業の振興を目指す第9回「日本バイオベンチャー大賞」(主催・フジサンケイビジネスアイ)の贈賞式が27日、大阪府吹田市の関西大学で開催される。今回はグランプリにあたる「大賞」には、研究機関や製薬企業などのメタボローム解析試験受託及びバイオマーカー開発を中心事業として展開する慶應義塾大学発のベンチャー、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(山形県鶴岡市)が輝いた。経済産業大臣賞はさまざまな心疾患に対する革新的な次世代医療を提供しているiHeart Japan(京都市左京区)が、文部科学大臣賞は日本発1分子DNA・RNAシークエンサー装置の実用化を目指すクオンタムバイオシステムズ(大阪市)がそれぞれ獲得した。また、バイオインダストリー協会会長賞はユーグレナ、フジサンケイ ビジネスアイ賞はアキュセラ・インク、大学発バイオベンチャー協会賞はリボミック、日本ベンチャー学会賞はノーベルファーマ、日本バイオベンチャー奨励賞はライトニックスが選ばれた。
菅野隆二社長 1974年東京理科大学工学部卒業。99年横河アナリティカルシステムズ代表取締役社長、2007年アジレント・テクノロジー代表取締役副社長、08年からヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ代表取締役社長。
菅野隆二社長に聞く
地方活性化のモデル 産学官連携の成功例に
――創業されたきっかけは
「2001年に山形県鶴岡市に設置された慶応義塾大学先端生命科学研究所の技術をベースに、03年に設立しました。ベンチャーキャピタルであるバイオフロンティアパートナーズの大滝義博社長の働き掛けで、同研究所の富田勝所長、メタボローム解析技術を開発した曽我朋義教授を創業メンバーに、慶応大学のアントレプレナー支援制度により出資されたベンチャーとしてスタートしました。当時の鶴岡市長、富塚陽一氏がテクノロジーやサイエンスの産業誘致で鶴岡市を変えたいとの気持ちが強くあったこと、それに慶応大学が応えたことが、創業の大きな背景にあります。地方活性化のモデルとしても、産学官連携の成功例としても立証させたい」
――受賞対象である「大鬱病性障害の血液バイオマーカーの発見」の経緯は
「動植物が自ら作り出す低分子化合物であるアミノ酸や糖などのメタボロームの解析試験を受託し、製薬メーカーの研究部門や大学などの研究開発支援を行ってきましたが、それとともに、血液や尿、組織中に含まれる生体物質で、特定の疾患を客観的、定量的に評価するバイオマーカーの開発に取り組んできました。健康な人と病気の人を識別する化学物質をみつけることです。そこで明確な診断方法がなく、患者数が多く、失業や自殺などといった社会的な問題となっている鬱病に照準を当ててみようと判断しました。的確な診断と投薬で治る病気であるにもかかわらず客観的な指標もなく、診断が大事だと分かったからです」
――鬱病の判断は難しいのですか
「鬱病に罹患した方は必ずしも最初から診療内科や精神科の病院にはいきません。内科医の問診で『眠れない』などと相談するものの、『しばらく睡眠導入剤を飲んで様子をみましょう』というケースも多い。するとぐっすり眠ることができて治ったように思ってしまいますが、実際は悪化していくケースもあります。また、鬱病は薬の止め時が重要。寛解していなくても、少し快方に向かうと自発的に服薬をやめ再発してしまうこともある。血液検査によるバイオマーカーで早期に判断できれば専門医の受診を勧めることがきるし、定量的に鬱病の重さが分かれば、薬の量の調整や止めどきを判断することができるようになります。さらに、鬱病というのはうつ症状を示す疾患の総称で、適応障害なども含まれ、その中で深刻な大鬱病性障害を見極めることが大事であると気付きました」
――バイオマーカー開発の経緯は
「独立行政法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)におられた川村則行先生との出会いが大きなポイントとなりました。リン酸エタノールアミンの血中濃度が一定値以下であると大鬱病性障害で、一定レベルより高いと健康であると分かったのです。川村先生の客観的な鬱病診断法を創りたいという強いモチベーションに支えられて、共同研究を進めてきました。多くの臨床検体を集めて、解析・検証して、大うつ病の場合は、このマーカーが特異的に下がることが分かりました。特許を出願し、13年9月に特許登録されました」
――簡便に測定する技術である臨床検査キットの確立はどこまで進んでいますか
「現在、分析装置イオンクロマトグラフィーでバイオマーカーを測っていますが、もっ と速く安く測れる診断方法をつくる必要があり、診断メーカートップのシスメックスと共同開発しています。研究用として実用化され、本格的な臨床試験を行い、保険収載するステップを踏み、3、4年後をめどに世の中に広めていきたいと考えています」
――海外展開の予定は
「この2月に米国でも鬱病バイオマーカーが特許登録されました。米国、欧州、中国を中心に海外展開したいと考えています。大鬱病のバイオマーカーは日本発の素晴らしい技術で、世界でもトップになれると思います。鶴岡市という一地方都市で生まれたバイオベンチャーの技術を世界に発信し、日本発のグローバルスタンダードにすることが夢です」
健康診断に応用できる時代目指す
――中長期的な戦略を教えてください
「バイオマーカーによって大鬱病性障害が分かるようになってきましたが、さらに鬱病以外の疾患でも、この物質を見れば分かると、だんだんと広がり、多くの代謝物をみれば、ポテンシャルリスクがどの程度の水準か分かるようにしたい。将来、罹りそうな病気や、あと何年で発症しますよ、ということが分かるようになってくるのではないでしょうか。最終ゴールはメタボロームを健康診断に応用できること。そういう時代を目指していきたいと思います」
第9回日本バイオベンチャー大賞表彰制度について
バイオテクノロジーは医療、食糧、環境だけでなくエネルギーの観点からも、次代のコア産業として期待を集めている。そのテクノロジーはゲノム創薬、遺伝子治療、再生医療のほか生活習慣病予防のための機能性食品、バイオマスエネルギー、遺伝子組み換え植物、環境浄化、バイオメディテーション、バイオインフォマティクス、タンパク質解析などに拡大し、21世紀を拓くビッグビジネスになりつつある。
フジサンケイグループの総合ビジネス経済紙、フジサンケイビジネスアイ(日本工業新聞社)は、バイオビジネスを支えるベンチャー企業について、独創的な研究成果や将来性に富むビジネスモデル、斬新で革新的なバイオ関連機器・システムの顕彰を通し、わが国の産業振興に寄与することを目的に、2002年の第1回開催以来、過去8回贈賞式を行い、次代を担うバイオビジネスのリード・オフ・マンを顕彰してきた。
第9回の日本バイオベンチャー大賞では、これまでと同様、バイオ研究の最先端の学識経験者をはじめとした審査委員による厳正な審査を経て、先端的、独創的なバイオ研究・ビジネスを評価。表彰を通じて次世代の基幹ビジネスとして期待されるバイオ産業の一層の振興と、バイオベンチャー支援の一助となることを目指している。
【会社概要】 ▷設立‖2006年7月▷本社‖山形県鶴岡市覚岸寺水上246|2 東京事務所‖東京都中央区新川2-9-6 シュテルン中央ビル5階(☎03-3551-2180) ▷資本金‖12億4,243万円▷社長‖菅野隆二氏
「フジサンケイビジネスアイ」