高橋さんは東大大学院博士課程に籍を置く研究者でもある
今年1月、ジーンクエストは個人向けの遺伝子解析サービスに乗り出した。体質や病気のリスクを網羅的に把握できるサービスは日本初だ。社長を務める高橋祥子さんは、東大大学院博士課程に在籍する研究者でもある。もともと起業家を志していたわけではないが、「多くの人の健康維持に役立ちたい」という夢をひたすら追い求め続けた結果、“二足のわらじ”を履くことになった。
◆病気のリスク把握
ジーンクエストの遺伝子解析サービスは、自宅に郵送された検査キットで唾液を採取し、返送すると、同社が約5000種類の遺伝子を解析。近視や薄毛といった体質の特徴や、糖尿病や高血圧を含むさまざまな病気のリスクを把握できる。結果は4~6週間後に同社ホームページ上で閲覧でき、疾患リスクは「高」「中」「低」の3段階、裏付けとなる研究の信頼度は星5つで分かりやすく示される。
遺伝子解析サービス自体は日本でも多くの企業が提供しているが、「約200項目もの疾患リスクや体質の特徴を網羅的に把握できるのが強み」と高橋さん。海外のサービスと違い、東アジア人の遺伝情報を元に解析し、より信頼性が高いのも特徴だ。料金も4万9800円と比較的安く設定し、多くの人に利用してもらえるようにした。
高橋さんは「病気を予防できないかという課題を大学進学以前から意識していた」という。父や姉が医者なのに対し、医療とは違う観点で生命科学の研究ができると、あえて農学部を選択。研究を重ねるうちに、「研究成果を世の中に生かすためにはサービスを生み出す必要がある」と判断、会社設立に踏み切った。
◆ヤフーと協力も
社会人の経験がないまま、経営者としての責任を背負い込むことになったが、多くの“先輩経営者”を訪ねることでノウハウを吸収。「経営に詳しい人を巻き込んでいくしかない。不必要に不安に思う必要はない」と動じない。
4月下旬には、ヤフーが同社の協力を得て、遺伝子解析に基づく生活改善助言サービスを始める。データが増えるほど、解析精度が上がり、サービスの普及が進むと期待する。
苦しい財政事情もあり、予防医療には国も遅まきながら力を入れ始めている。「遺伝子解析を身近な存在にして、予防に役立てたい」という高橋さんの夢は、もはや夢ではなくなりつつある。(井田通人)
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≪Q&A≫
健康維持に役立つサービスを
--大学進学にあたり農学部を選んだ理由は
「農学部卒というと農業を学んだと思われるが、農学部で教えることの中には私が学んだ分子生物学も含まれている。医者の仕事は確かに素晴らしいが、治療だけに焦点を当てず、幅広く生命科学の研究ができそうな農学部を選んだ。起業したのは、生活習慣病の予防メカニズムを研究する課程で、研究成果は適切に応用されないと十分に報われないと思ったのがきっかけだ」
--サービスを始める上で障害はなかったのか
「ビジネスとして個人向けの遺伝子解析を行うこと自体に反対する意見があった。研究室や病院で行う遺伝子検査は基本的に難病が対象で、(当社のサービスが対象にしている)生活習慣の見直しで防げる病気とは重みが違う部分もある。ネットサービスとしての提供手法にも『おもしろ半分』とみなす向きがあった。だが、まずは健康な人が自分を知る適切な手段を提供することが重要だと思った。チェック項目については、遺伝的影響の濃い病気を外すなど、かなり気を配っている」
--経営に不安は
「プレッシャーはもちろんあるが、解決できることは一つずつ解決していけばいいし、解決できないことへの不安は意味がないので無視する。自分を信じるしかない」
--利用状況は
「実質1カ月半で数百人が利用した。今後は福利厚生目的で利用したい企業も視野に入れ、1万人を早期に達成したい。そのためには、単独による提供だけでなく、提携先を通じた提供も行う。ヤフーは集客力があるので期待している。まずは遺伝子解析の市場を開拓し、集まったデータで次の収益源を作っていく。健康維持に役立つサービスを幅広くそろえたい」
【プロフィル】高橋祥子
たかはし・しょうこ 京大農卒、東大大学院農学生命科学研究科修了。同博士課程在籍中。2013年6月ジーンクエスト設立。26歳。大阪府出身。
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【会社概要】ジーンクエスト
▽本社=東京都文京区本郷6-2-9 モンテベルデ第二東大前3階
▽設立=2013年6月
▽資本金=5000万円
▽従業員=6人
▽事業内容=遺伝子解析サービスの提供
「フジサンケイビジネスアイ」