
空きスペースを貸したい側と、これを活用したい人を結ぶサイト「軒先.com」を運営するのが軒先。有効利用されていないスペースや時間帯を借りて、1日単位でお店を開いたり作品展示なども行えるようにするユニークなサービスが売り物だ。西浦明子社長は「誰もが気軽に取り組めるよう、ブランド力を上げて裾野を広げていきたい」と語る。
◆原点はチリ駐在
西浦さんは大学を卒業後、ソニーに入社して中南米支社の後方支援を行う部署に配属され、4年目にチリ支店に赴任した。チリは南米の中でも政治経済が安定している国。ドイツからの移民が多く勤勉な国民性ということもあって仕事を取り巻く環境は問題なかった。
主な仕事は現地スタッフとともに販売店をまわること。「こんな商品を開発してほしい」といった声を拾ったり、将来的な販売計画の策定に携わっていた。また、カーオーディオの販売では町の自動車工場を1軒ずつ訪問し、商品セミナーなどを行う“どぶ板”営業も経験。やりがいがある毎日だった。結局、チリ支店には正社員として5年にわたり勤めたが、その後は退職という道を選ぶ。日本に戻ってIT(情報技術)ビジネスに携わりたいと思ったのだ。
帰国を果たし後、インターネット関連の仕事に携わる一方、現在のビジネスの原点を探り当てた。
チリ駐在時代の趣味は現地の特産品や金属製食器を集めること。その延長線上でインターネットによる輸入販売を手掛けようと思い、日本の消費者の反応を確かめる目的で、実際に現物を販売できる場所を探した。しかし、不動産契約は長期的に使用するのが前提。「短期で借りたい」といったニーズは強いものの、それに応える物件は少なかった。その結果を踏まえ「ウェブ上であれば、ローリスクで場所を借りたい人と貸したい人のマッチングを行える」と西浦さんは判断、事業化に乗り出す。
◆出店形態は多様
最初のターゲットは近所の商店街にあるレコードショップとお茶屋さん。「休店日に軒先を貸してほしい」と交渉をし、野菜の販売や携帯電話の販促拠点として活用された。その後、2008年に「軒先.com」を立ち上げると「下北沢や恵比寿で場所を借りたい」といった人気スポットでのリクエストが届くようになった。
ただ、新たなビジネスモデルなどで貸す側への認知度が低く、営業では苦労を重ねた。風向きが変わったのは同年秋のリーマン・ショックだ。
商業ビルを複数棟所有するあるオーナーは、売却予定のビルが景気の急激な落ち込みで売れなくなった。改修もしていなかったため「こんなビルを活用する人がいるのか?」と半信半疑のまま、「少しでもいいから現金収入がほしい」と軒先に駆け込んだ。ところが人気は高く、一定の収益を計上することに成功。オーナーは「このままでよければ使ってほしい」という姿勢に変わった。こうした実績を積み重ねた結果、「潜在需要は大きい」と西浦さんは判断。法人化に乗り出し、本格的に事業を進めることにした。
事業が加速するもう一つのきっかけは、全国規模の書店組合と提携したこと。これによって郊外書店の駐車場を活用し野菜販売を行えるなどのルートを確立した。
現在は全国登録数は2500カ所。首都圏を中心としたオフィス地域では移動型ランチの販売店が出店したり、営業店舗の一角でスイーツを取り扱うなど形態はさまざまだ。効率的に集客できるため、不動産の有効活用を図れるという理由から貸す側の注目度も高まってきた。
西浦さんは「『週末を使って気軽に販売してみたい』といったアマチュア層のニーズがあるはず。こうした需要を掘り起こして市場の活性化を図りたい」と語っている。(伊藤俊祐)
≪Q&A≫ネットショップ層に訴求
--駐車場を貸し借りする軒先パーキングという事業も展開している
「高齢になって自動車を手放したことで有効活用されていなかったり、昼間に使用されていない駐車場が少なくない。マッチングによって第三者がこうしたスペースを借りることができるようにするのが軒先パーキング事業だ。現在は2000台分の駐車場を確保しているが、成長スピードを考慮するとまだまだ全国的に少ない。さらなる拡充を図っていく。目標は4万~5万台分だ」
--コインパーキングがライバルとなる
「先方は確かに効率的な土地活用といえるかもしれないが、看板や機械などの設備を取り付ける手法はいいのかな、と常々思っていた。一方、われわれのビジネスモデルは空いている駐車場を開放するたぐいのもの。需給バランスの改善や混雑の緩和につながり、真の有効活用だと認識している」
--今後の課題は
「一般消費者向け市場を強化する。最近は誰でもインターネットショップを開設できるようになったが、実際の店舗の開設は非常にハードルが高い。フリーマーケットに出店するしか選択肢がなかったのでは。このためバーチャルで展開している層に対し『週末に1日2000~3000円で出店できますよ』と訴求できるようにしたい。今後も『まさかこういったところを』と思われるような土地・スペースを活用し収益化につなげていく」
【プロフィル】西浦明子
にしうら・あきこ 上智大外国語学部ポルトガル学科卒。ソニー入社。南米・チリでの勤務などを経た後、退社。インターネット事業に携わり2008年4月に創業。翌年4月に軒先を設立し、現職。45歳。横浜市出身。
【会社概要】軒先
▽本社=東京都目黒区緑が丘2-24-17 自由が丘小松ビル102
▽設立=2009年4月
▽資本金=7305万円
▽事業内容=スペースの検索・予約サイト「軒先.com」の運営
「フジサンケイビジネスアイ」