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由紀精密 高度な切削加工で宇宙・医療分野開拓

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金属の精密加工を行う由紀精密の若手技術者=神奈川県茅ケ崎市

 神奈川県茅ケ崎市で1950(昭和25)年に創業し、金属を精密に切削加工する技術力の高さで顧客の信頼は厚い。かつては電気・電子関連のネジ作り専門だったが、大坪正人社長(39)が経営陣に加わった2006年頃から構造改革を断行。現在では航空宇宙や医療機器関連が大半を占め、“21世紀型町工場”として国内外の注目を集める。

 ◆最高品へ妥協せず

 由紀精密の強みは、半世紀以上にわたって受け継がれてきた精密加工の技術だ。その精度は1000分の数ミリという肉眼では見分けがつかないレベルで、10年には、航空宇宙関連製品を製造するために必要な品質マネジメントの国際規格「JISQ9100」を取得した。

 精密切削の作業には、常に最高の状態を求め、妥協はしない。工作機械を動かすためのプログラム作成や、チタンやステンレスといった素材の品質ごとに適した工具の選択、温度管理などの最適な組み合わせによって、顧客が求める形状を高い精度と低コストで実現してきた。

 工作機械自体は一般的なものだが、「同じボールペンでも、使う人によって書かれる文字の美しさは異なる」と、大坪社長は自社の技術力に自信を見せる。社員は約20人で平均年齢は30代後半と若いが、モノづくりへの情熱と向上心にあふれている。

 近年、年間売り上げの部門別トップは航空宇宙関連で約4割を占め、医療機器関連が約3割で続く。取引先は年間百数十社にのぼり、なかには世界中で飛ぶ多くの旅客機に搭載されている部品もある。

 小型ロケットなどの推進装置や人工衛星などの部品作りを、東大をはじめとする学術機関や宇宙航空研究開発機構(JAXA)から依頼されることも多い。最近では、東大や多摩美術大と協力し、3D(3次元)プリンターを用いた超小型人工衛星「ARTSAT-2」を開発。今年11月、小惑星探査機「はやぶさ2」を打ち上げるH2Aロケットに相乗りさせ、JAXA種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)から宇宙へ向かう。

 さらには、清涼飲料水の「ポカリスエット」などで知られる大塚製薬と協力し、民間企業として初めて月に物体を送り届ける計画に参加。来年10月の打ち上げを目指し、子供たちのメッセージを詰めて月面に置くカプセルの開発を進めている。

 ◆構造改革でV字回復

 由紀精密は創業以来長らく、電気・電子関係の売り上げがほぼ100%を占めていた。しかし、1990年代に入ると需要が減少し、さらにはより安価な海外のネジに太刀打ちできなくなっていた。

 そのような状況の下、大学院まで東大で工学を学んだ大坪社長が、常務取締役として06年に入社。自社の強みを知るために行った顧客アンケートで、不良品を出さずに納期を守るという「信頼性」こそ最大の財産と知った。この結果を受け、精密部品への信頼性が最重視される航空宇宙関連への進出を決意。11年には世界最大規模の国際見本市であるパリ航空ショーに出展するなど、積極的に販路の拡大を続けてきた。

 翌年に横浜市内で開かれた、中小企業が自作のコマで加工技術の高さを競い合う「第1回全日本製造業コマ大戦」では初代チャンピオンに輝き、知名度はさらに向上。今年5月には東海道新幹線の新横浜駅近くに「横浜ファクトリー」を開設した。

 昨年度の売り上げは、01年度の2.5倍までV字回復し、過去最高を更新。「他業種への事業展開を図った結果、全く異なる会社に生まれ変わった。しかし、根底にあるのは、60年間にわたって積み上げられた精密切削加工の技術だ」と、大坪社長は強調する。(小野晋史)

【会社概要】由紀精密
 ▽本社=神奈川県茅ケ崎市円蔵370-34 ((電)0467・82・4106)
 ▽創業=1950年
 ▽資本金=2000万円
 ▽従業員数=約20人
 ▽事業内容=航空宇宙関連部品、医療機器関連部品、電気・電子部品の試作や量産その他

 ≪インタビュー≫

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大坪正人社長

 ■中小はもっと目立たないといけない

 --由紀精密に入社したころは苦労も多かったのでは

 「展示会では誰も由紀精密の名前を知らなかった。そこで、コマを作るなどして技術力をアピールし、しっかりとしたウェブサイトも作ったところ徐々に反応が出てきた。その上で、興味を抱いてくれた会社からの具体的な案件を着実にこなしていった。一番苦労したのは、売り上げが思ったように上がらなかったことだが、機械が好きだったこともあって乗り越えられた」

 --これからの中小企業はどうあるべきか

 「中小企業は自分のやっていることをもっとアピールし、目立たないといけない。うちは新卒の採用に力を入れているが、魅力的だと若い人も集まってくる。また、より良い製品を作るため、大企業とも互いに尊敬し合う対等なパートナーであるべきだ。町工場がいじめられているような感じで語られるのは好きではない」

 --海外にも積極的に進出している

 「市場を日本に限らず、世界中で作られている物に使われる部品を作ればよいと思う。世界中にお客さんを求めることで、市場が1億2000万人から70億人以上へと一気に拡大する。もっとも、安い製造力を求めるための海外進出はしていない」

 --モノづくりの醍醐味(だいごみ)は

 「できたものの性能が高く、納品先や社会に評価されるとうれしい。何かを生み出すことの楽しさは、人間にとって本質的なものではないか」

 --子供の理系離れが言われて久しいが

 「理系と文系と分け、数学に挫折した人が逃げ道として文系に流れることは良くない。小学校では、理系が大事なことは分かっていてもうまく教えられず、若い人が興味を持てるような授業がないのは残念。数学で挫折した人も教え方次第で分かるようになる。もったいない」

【プロフィル】大坪正人
 おおつぼ・まさと 東大大学院工学系研究科修士課程を修了後、研究開発ベンチャーを経て2006年由紀精密に入社、13年代表取締役社長に就任。著書に「すぐに使える精密切削加工」(技術評論社)。39歳。神奈川県出身。

≪イチ押し!≫

■航空部品並みに精緻なコマ

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 由紀精密が持つ加工技術の粋を尽くしたオリジナルのコマ。1本のステンレスの棒からまるごと削り出すことで中心軸がぶれず、真上から見ると限りなく完全な円に近いため、直径1センチ程度のサイズながら3分以上も回り続ける。品質管理のレベルは航空機の部品製造と同程度の精緻さだ。

 指のかかるグリップ部分には、職人が一つずつギザギザ形状のローレット加工をかけ、回すときに指の力が伝わりやすくした。コマの製作は、2011年にパリ航空ショーでサンプルとして配布したのがきっかけ。翌12年には同様の技術を駆使した特製コマで第1回全日本製造業コマ大戦を制している。

 インターネット上での限定販売。合同会社ブランチのサイト(http://store.branchproducts.com)で購入できる。1個864円。

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