
本店前で販売している名物「ひょうたん揚げ」には毎日客の列ができ、街の一風景となっている=仙台市青葉区の阿部蒲鉾店(安藤歩美撮影)

「秘造り真鯛」(安藤歩美撮影)
「阿部蒲鉾(かまぼこ)店」は、仙台の中心地にあるアーケード街「クリスロード商店街」に店を構え、幅広い年代から支持を受け続ける老舗だ。1935年の創業以来、仙台名物「笹かまぼこ」の味にこだわり続けるとともに、ユニークな創作かまぼこを次々と発表し、若者からも人気を集めている。
◆時代とともに進化
「笹かまぼこ」は、仙台湾でタイやヒラメの豊漁が続いた明治時代、保存食としてすり身を手で形を整えて焼いたことが始まりという。創業当時は地元の人々が自家消費用に買っていたが、戦後は交通網の発展により、土産としての購入が主に。阿部賀寿男社長は「保存食用だった時代は塩味が強く固めだったが、贈答用が主の今では柔らかく優しい味に変わっている」と説明する。伝統の製法を守りつつも、時代の嗜好(しこう)に合わせて味や食感を少しずつ変化させている。
主力商品は、農林水産省後援の全国蒲鉾品評会で「栄誉大賞」を受賞した笹かまぼこ「千代(せんだい)」や「厚焼笹(あつやきささ)」。「いい原料でいいものを作ることこそが初代からのこだわり」と話す阿部社長自らが魚の仕入れを担当。製造の機械化が進んだ今も約30人の国家資格者「蒲鉾技能士」(水産練り製品製造技能士)が在籍し、味や食感が決まる原料の練り上げの工程などで厳しくチェックしている。
伝統の「笹かま」にこだわる一方で、新しい商品開発も忘れない。串に刺した丸いかまぼこ2つをアメリカンドッグのような衣で揚げ、ケチャップをつけて食べる「ひょうたん揚げ」(1本170円)は、平日でも1日1000本を売り上げる人気商品だ。
季節ごとに発表する創作かまぼこも話題を呼んでいる。七夕には星形のかまぼこ、バレンタインにはピンクのハート形のかまぼこ、ひな祭りにはひな人形をかたどったかまぼこ…。思わず誰かに贈りたくなるようなユニークな「季節かまぼこ」は、年末とお中元という2度の売り上げのピーク時以外に商品を売り出せないかと考えたのがきっかけ。もともと婚礼用などお祝い用のかまぼこに用いられてきた、繊細で色とりどりの「細工かまぼこ」の技術を応用し、店の新たな名物となった。
◆地元チームを応援
地域に密着した企業として、地元のスポーツチームを応援する商品開発にも熱心だ。東北楽天ゴールデンイーグルスの創設時から、本拠地「楽天Koboスタジアム宮城」内に出店。他球場に例がない「球場内のかまぼこ店」だが、コボスタ限定の「黒いひょうたん揚げ」は球場内の売り上げで上位に入る人気商品に。ベガルタ仙台のホームゲームでも、牛タン入りのかまぼこ「ベガかま」を販売し、ファンから好評を博している。
2011年の東日本大震災では、工場の地盤沈下や建物の破損などの被害が出たが、即座に工場の冷蔵庫に保管してあった5万枚のかまぼこを被災地の避難所や病院40カ所に配った。昨年からは、津波の塩害でコメが作れなくなった農地での綿花作りを支援する「東北コットンプロジェクト」にも参加。被災地で作られた綿を、「厚焼笹」のパッケージに使用している。阿部社長は「被災地の復興は進んでいないし、復旧さえ終わっていない場所もある。仙台を元気にしていくことで、東北全体に元気を波及させていけたら」と、東北の復興への役割を語る。
仙台の発展とともに成長してきた同店は、来年が創業80周年。「かまぼこが仙台名産に育ったのは仙台の方々のおかげ。地域のためにできることをしていきたい」と阿部社長。地域に愛される伝統の味を守りながら、日々挑戦を続けている。(安藤歩美)
◇▽本社=仙台市青葉区中央2-3-18 ((電)022・222・6455)
▽創業=1935年10月
▽資本金=7450万円
▽従業員=320人
▽事業内容=かまぼこの製造販売
≪インタビュー≫

□阿部賀寿男社長
■海外に販路拡大、売れる商品出す
--創業当時と比べ、かまぼこの需要は変化しているのか
「魚から肉への食文化の変化で、食卓に上ることが減っている。日本国内のかまぼこの生産量は1978年のピーク時から半減した。何とか業界としても数量が落ちないよう、いいものを作っていかなければ。おせちにしても、昔は自宅で紅白のかまぼことだて巻きが欠かせなかったが、今は元旦からお店が開いている。食べる回数が全体的に減っているので、いろいろな機会に食べてもらうようにしたい」
--これからのかまぼこ市場の見通しは
「今は市場が成熟し、その中で国内のシェアをどう獲得していくか、という状態。今後日本では少子高齢化で人口が減り、食の全体のマーケットが確実に減っていく。そのため、将来的には海外に販路を拡大し、海外で売れる商品を出していかなければいけないと考えている」
--海外への販路拡大に向けた戦略は
「10月に台湾で物産展に出品することが決まっている。アジアにはもともと練り物製品があり、かまぼこ文化があるので、アジアから挑戦したい。笹かまは値段が高いが、海外でもおいしいと好評を得ている。売り方や流通面の課題をクリアすれば、可能性はある」
--海外でどのような売り方が考えられるか
「すでにアジアやヨーロッパではカニの代用品として、カニかまが非常に大きな市場を持っている。カニかまとは価格帯が違うため難しいが、日本の他の商品とうまく組み合わせて展開できればと思っている」
--創業80周年に向け、新たな商品や事業を考えているか
「実は来年は創業80周年とともに、かまぼこが初めて日本の文献に登場してから900周年の記念の年。業界全体で何か仕掛けたい。当社としては、一番大事にしている笹かまの新商品を発表することを考えている」
◇【プロフィル】阿部賀寿男
あべ・かずお 東北学院大経済卒。1988年、味の素に入社。営業の経験を積んだ後、91年に実家が営む阿部蒲鉾店へ。2007年、3代目社長に就任した。49歳。宮城県出身。
≪イチ押し!≫
■昔ながらの手法「秘造り真鯛」
夏が旬の新鮮な天然真鯛をぜいたくに使用した、社長一押しの笹かま。「昔ながらのよさを届けたかった」(阿部社長)という「秘造り真鯛」は通常商品の3倍近くの値段で、とことん味にこだわった一品だ。
製造は創業当時の手法にこだわり、身のすり下ろしから焼き上げまでの工程の多くをベテラン職人が手作りで行っている。かまぼこの食感や味が決まるという重要な「練り合わせ」の工程では、昔ながらの「石臼」を使用。魚の繊維を壊さないためなめらかな食感に仕上がるといい、職人が気候変化や弾力を常に確認しながら製造している。
1枚371円(税込み400円)、10枚入り4000円(4320円)、15枚入り6000円(6480円)。夏だけの数量限定商品で、なくなり次第販売終了となる。
「フジサンケイビジネスアイ」