デジタルベリーのオフィス。埼玉にあることも特徴の一つ=さいたま市浦和区
埼玉県深谷市出身の実業家、渋沢栄一の精神を受け継ぐ企業を同県が表彰する「渋沢栄一ビジネス大賞」。「デジタルベリー」は、チャレンジ精神旺盛な中小企業を選定する同賞のベンチャースピリット部門で今年、特別賞を受賞した。
同社はパソコンやスマートフォン(高機能携帯電話)などの機器で、実際の本のページをめくるような動作で商品カタログを閲覧できる「デジタルカタログ」の制作やホームページ制作を手がけている。
重い、かさばる、環境負荷の高さも懸念される「紙のカタログ」はデジタル化が年々進む。同社は2005年からの約9年で、950社を超える企業のデジタルカタログを制作した。ニトリ、エーザイ、ハウステンボス、サークルK、本間ゴルフなど業種は多岐に及び、大阪府警など公的機関の導入事例も。
デジタルベリーのデジタルカタログの特徴について赤羽根康男社長(37)は「機能を絞ったシンプルな構成と速い動作」と話す。
2年以上前の12年、それまで制作する際に使用していた記述言語「Javaスクリプト」から、ウェブサイトの最新の記述言語である「HTML5」に移行することを決めた。業界では最も早い時期の対応だった。HTML5で制作されたデジタルカタログは表示スピードが速く、めくる動きや拡大・縮小も滑らか。操作も簡単で画面上でも紙のカタログに近い感覚で見ることができる。
◆制作代行で差別化
この夏、会社設立10年の区切りを迎える。赤羽根社長は埼玉大学を卒業後、エネルギー商社の岩谷産業に入社。「自分で輸入し、自分で売るという一連の流れを経験できました」と話す。同社に5年勤務した後、04年にさいたま市で起業。だが、すぐに軌道に乗ったわけではない。「最初の1年がもうダメかというくらい苦しかった」。当初「チラシの価格比較サイト」を作ってみたが広告は入らず、起業のために貯金していた300万円も減る一方だった。
苦しい時間が続いたが、業界動向などの情報収集をする中で、電子カタログがはやり始めていることに気付いた。電子カタログ制作ソフトの代理店となり、05年以降、デジタルカタログの制作代行に本格的に乗り出す。
同業他社との大きな違いはこの「制作代行」にある。「同業の上位5社のうち、当社以外はソフトを販売し、お客さま側で制作してくださいという形。うちだけが制作代行専業です。できあがったものの品質の高さには自信があり、価格面以外では負けないポジションにいると思います」(赤羽根社長)
◆料金をオープンに
かつてこの業界ではあまりオープンにされていなかった料金体系も、ページ単価で約2000円などと公開している。「公開したのは業界で最初だったと思います。当時は1冊100万円などと顧客の足元を見るところもあった」と笑う。同社はほかにもいくつか「業界で初めて」を持つ。「デジタルカタログ」という言葉も、以前はEカタログなどと呼ばれていたものを同社が「デジタルカタログ」と呼び、定着してきた。
東京にレンタルオフィスを借りていた時期もあるが、それはやめた。「東京に事務所がないと不利になる部分もあったが、今は埼玉に会社があることがかえって特徴の一つとして見てくれることも。地域で一番になった方が基盤ができるかなと。27歳で起業して逃げ道はない。続けなきゃいけないから派手にはやってられません」。「地に足の着いたIT企業」として、チャレンジを続けていく。(坂田満城)
◇【会社概要】デジタルベリー
▽本社=さいたま市浦和区高砂2-13-19((電)048・814・1232)
▽設立=2004年8月
▽資本金=1000万円
▽従業員=16人
▽売上高=1億2400万円(14年3月期)
▽事業内容=デジタルカタログ・デジタルチラシの作成、ホームページの企画・運営
≪インタビュー≫
□赤羽根康男社長
■地に足着け地域で経営基盤固め
--会社員時代から起業を考えていたか
「就職する前は起業したいと思っていて、入社の面接でも『いずれ起業したい』と答えた。しかし、入社したら目の前の仕事でいっぱいになって、一時は『起業』を忘れていた。異動の辞令が出たことで、『この機会がいいかな』と判断した」
--なぜ東京ではなく、埼玉で起業したか「東京で起業することも選択肢にはあった。ただ、埼玉大出身で卒業後もずっと埼玉に住んでいたことが大きい。オフィスの賃料などの固定費をまず抑えたいと考え、当時住んでいた家の近くのレンタルオフィスからスタートした」
--営業活動などに影響はなかったか「お客さまの利便性などを考えて、東京の恵比寿や秋葉原でレンタルオフィスを借りていた時期もあった。しかし、今はその都度、会議室を借りるなどしている。前職の商社での経験から、遠隔地のお客さまも積極的に出張訪問するようにしている」
--これまでの経営で意識してきた部分は「時代の流れが早いITベンチャーだからこそ、地に足を着けた経営に努めてきた。成長スピードは10%以内に抑え、サービスの柱も2つ、3つと増やしながら、着実な経営を意識してきた。埼玉で起業したのも地域とのつながりができて、経営基盤を固めることができると思ったから」
--変化の早い業界で、技術的なアップデートは「IT業界の技術の変化をそのまますべて追いかけるのではなく、お客さまの要望度が高い技術に優先順位をつけて追うようにしている」
--海外展開は「昨年は社員をつれて中国・上海に視察に行った。埼玉県内の製造業が中国に進出希望し、向こうでも見てもらえるサイトを制作できれば引き合いがくる。すでに中国語版と英語版で実績もあるので、これからさらに精度を上げていくことを目指す」
◇【プロフィール】赤羽根康男
あかばね・やすお 埼玉大教養卒。1999年、岩谷産業入社。空気清浄機や扇風機など、家電製品の輸入、営業、マーケティングに携わった。2004年、同社を退社し、デジタルベリーを設立。37歳。栃木県出身。
≪イチ押し!≫
■サクサクめくれストレス知らず
誰もが慣れている「ぺらぺらめくる」という動作をデジタルに取り込んだコンテンツ。ウェブサイトを記述する際の言語、HTMLの最新版「HTML5」を使用している。
カタログや本など既存の印刷物または印刷データをそのまま生かしてデジタルデータに変換。一般的なFlash(フラッシュ)版でも動きとしてはほぼ同様のことができるが、HTML5版は素早く起動し、ページめくりもサクサクと動いてストレスがない。
しおり、検索、ショッピングカートへのリンクなどデジタルならではの機能は標準で備える。また、新たにデジタルカタログの一部分を「切り抜き」保存できるオプション機能も開発。これまで別の元画像などが必要だったが、この機能では写真などを切り抜いて、そのままメールに添付したりできるようになった。
「フジサンケイビジネスアイ」