■レポート概要
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本レポートでは、気候変動対策や環境保全の切り札とされるグリーンアンモニア市場を、2025年から2032年の予測期間にわたり詳細に分析しています。市場規模は2024年の約2億3,280万米ドルから、再生可能エネルギーの普及拡大、電解技術の進歩などを背景に年平均成長率(CAGR)約71%で急激に拡大し、2033年末には約14億7,610万米ドルに達すると予測されます。製品種類別、エンドユーザー別、地域別のマトリクスで市場構造を明示し、主要な成長要因や阻害要因、主要企業の動向および今後の市場機会を網羅的に解説しています。
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市場の紹介とトレンド分析
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グリーンアンモニアは、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを活用した水電解によって生成した水素と、大気中の窒素を窒素固定法で合成し、製造時のCO₂排出を事実上ゼロに抑えた次世代型アンモニアを指します。従来のハーバー・ボッシュ法で生産されるグレーアンモニアと比較して環境負荷が極めて低く、化学肥料やエネルギーキャリア、燃料電池用原料など多岐にわたる用途での導入が期待されています。特に欧州や北米を中心に、脱炭素政策や排出取引制度の強化が進む中、グリーンアンモニアは産業界全体の脱炭素化戦略の重要な資源として注目を集めています。
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これまでの成長と今後の見通し
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過去数年間では、政府の補助金やカーボンプライシング制度の整備により、グリーンアンモニア市場は爆発的な成長を遂げてきました。2019年から2023年にかけては年平均約147%の成長率を記録し、大規模なデモンストレーションプラントやパイロットプロジェクトが各地で稼働を開始しました。今後は農業用肥料や産業用燃料、輸送用ゼロエミッション燃料としての活用が進むことで、市場がさらなる拡大局面に入ると見込まれます。また、中東・オーストラリアなど再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域でのプロジェクト推進も、市場のグローバル展開を後押しします。
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市場成長の推進要因
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主な成長ドライバーとして、各国政府による政策的支援が挙げられます。欧州連合(EU)のグリーンディールや、米国インフラ投資法(IIJA)の再生可能エネルギー投資枠組みは、グリーンアンモニアプロジェクトへの補助金や税制優遇を提供しています。さらに、国際的な排出削減目標(パリ協定)が企業の脱炭素投資を促進し、エネルギー企業や化学メーカーが競ってグリーンアンモニア製造施設の建設を発表しています。再生可能エネルギーの発電コスト低下や大規模電解装置の商用化も、市場拡大に貢献しています。
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市場を阻害する要因
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一方で、グリーンアンモニアの普及には高い初期投資コストとインフラ整備の遅れが大きなハードルとなります。電解装置や再生可能電力供給設備の導入には莫大な資本が必要であり、既存のアンモニアプラントと比べて初期コストが20〜30%高いとの試算もあります。また、生成したアンモニアの貯蔵・輸送には専用のタンクやパイプラインが必要で、現状ではグレーアンモニア向けインフラが主流であるため、ネットワーク構築に時間を要します。こうしたコストと技術リスクをいかに低減するかが、市場普及の鍵を握っています。
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企業にとっての機会
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グリーンアンモニアを巡る最大のビジネスチャンスは、脱炭素化を求める農業セクターとエネルギーセクターの両領域にあります。農業用肥料市場では、持続可能な作物生産を目指す大規模農業事業者がグリーンアンモニア由来の窒素肥料を採用し始めており、次世代肥料市場の切り口となります。さらに、海運業界ではアンモニア燃料を用いたゼロエミッション船舶の実証実験が進んでおり、2025年以降の商用航行開始に向けた需要が急増しています。エネルギー貯蔵分野でも、アンモニアを水素貯蔵・輸送媒体として活用する動きがあり、CS(カーボンセパレーション)技術との組み合わせで新たな市場が創出されつつあります。
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製品種類別動向
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製品種類別には、電解方式によるアルカリ水電解(AWE)、プロトン交換膜電解(PEM)、固体酸化物電解(SOE)などが主要セグメントを構成しています。中でもアルカリ水電解は耐久性とコスト面でバランスが取れており、2025年以降も約73.5%のCAGRで成長すると見込まれます。PEM方式は純度の高さが評価されるものの、装置コストが高い課題があり、用途に応じた使い分けが進むでしょう。また、次世代技術のSOEは高効率化が期待され、将来的な実用化によって市場構造の変革が予想されます。
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エンドユーザー別動向
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エンドユーザー別では、農業用肥料分野が最も高い成長を示す見通しです。2024年から2033年にかけて約68.6%のCAGRで拡大し、グリーンアンモニア由来肥料へのシフトが加速します。加えて輸送用燃料分野では、海運・陸運・航空の各モードにおいてゼロエミッション燃料としての採用検討が進行中です。産業用熱源や発電用途も、低炭素社会実現のキーテクノロジーとして市場参入が活発化しています。
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地域別動向
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地域別では、欧州が規制・政策面で先行し、大規模プロジェクトが数多く立ち上がっています。北米は資本力のあるエネルギー企業による投資が活発で、特に米国南部やカナダでの再生可能電源連携型プラントが増加中です。アジア太平洋は市場ポテンシャルが最も高く、中国・インド・オーストラリアでの国家戦略プロジェクトが市場牽引役となります。中東・アフリカや南米も将来的な再エネ資源と組み合わせたグリーンアンモニアの輸出基地として注目が集まっています。
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競合環境
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大手エネルギー企業や化学メーカー、新興スタートアップが技術提携や合弁事業を展開し、競争優位性の構築を図っています。Siemens Energy、Fortescue Future Industries、GE Renewable Energy、Yara Internationalなどが先行し、NEOMプロジェクトのような国家主導イニシアティブと連動して大規模投資を行っています。一方、北欧やオーストラリアのスタートアップは、電解技術や触媒開発で差別化を図り、リージョナルマーケットで実証プラントを稼働させています。
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今後の展望
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2030年代に向けては、再生可能エネルギー発電コストのさらなる低下と電解セルの高効率化が成長エンジンとなります。国際的な排出削減協定の進展やカーボンプライシングの導入拡大が、市場インセンティブを強化するでしょう。製品ポートフォリオの多様化、供給チェーンの最適化、デジタル化技術の活用を通じて、グリーンアンモニアは次世代エネルギーの中核資源として確立し、脱炭素社会の実現を支える存在となることが期待されます。
■目次
はじめに
1.1 レポートの目的と背景
1.2 調査範囲および定義(グリーンアンモニアの概念と対象市場)
1.3 想定前提条件および調査期間(2025~2032年)
1.4 調査手法とデータ収集プロセス
1.5 用語解説
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市場ダイナミクス分析
2.1 成長要因
2.1.1 脱炭素化政策の推進
2.1.2 再エネ由来水電解技術のコスト低減
2.1.3 長距離輸送燃料としての需要拡大
2.2 抑制要因
2.2.1 水電解装置の大規模導入コスト
2.2.2 アンモニアの取扱い安全性課題
2.3 市場機会
2.3.1 航空・海運分野での燃料転換
2.3.2 石油化学原料としての代替利用
2.4 市場脅威
2.4.1 競合エネルギー(グリーン水素、バイオ燃料)
2.4.2 貯蔵・輸送インフラ整備の遅れ
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世界市場規模と予測
3.1 過去市場規模の推移(2018–2024年)
3.2 2024年実績:生産量および投資額別市場規模
3.3 2025–2032年:数量・金額ベースの中期予測
3.4 シナリオ分析(ベースケース/楽観ケース/悲観ケース)
3.5 市場成長率(CAGR)予測
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テクノロジー別分析
4.1 水電解方式別比較
4.1.1 アルカリ型水電解(AWE)
4.1.2 PEM(固体高分子電解膜)方式
4.1.3 SOEC(固体酸化物電解セル)方式
4.2 鉄触媒・ニッケル触媒技術の展開
4.3 CO₂フリー水源利用と淡水化技術
4.4 技術成熟度と商業化タイムライン
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製造プロセス別分析
5.1 アンモニア合成プロセス(ハーバー・ボッシュ法)
5.1.1 グリーン改質技術の適用可能性
5.2 電力最適化とエネルギー効率化技術
5.3 廃熱回収および熱マネジメント
5.4 モジュール型プラントと大型集中型プラントの比較
5.5 製造コスト要因とスケールメリット
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エンドユーザー別分析
6.1 発電分野
6.1.1 ガスタービン混焼用途
6.1.2 固体酸化物燃料電池(SOFC)向け利用
6.2 海運・船舶燃料
6.2.1 船舶エンジンの改造要件
6.3 航空燃料(航空用アンモニア燃焼技術)
6.4 石油化学産業(肥料原料代替)
6.5 その他産業用途(鉄鋼、セメント)
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プロジェクト・開発動向
7.1 主要パイロットプラント事例
7.2 商業規模プラント稼働・建設計画
7.3 共同開発・コンソーシアム事例
7.4 ファイナンススキーム(政府補助・民間投資)
7.5 技術ライセンス契約動向
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地域別市場分析
8.1 北米市場
8.1.1 米国:連邦・州レベルのインセンティブ
8.1.2 カナダ:クリーン燃料規制(CFI)の影響
8.2 欧州市場
8.2.1 EU:Fit for 55/REPowerEU政策との整合性
8.2.2 英国:Net Zero戦略下の導入支援策
8.3 アジア太平洋市場
8.3.1 中国:国家グリーン水素イニシアチブ
8.3.2 日本:アンモニア混焼火力発電実証
8.3.3 オーストラリア:輸出ポテンシャルと大型プロジェクト
8.4 中東・アフリカ市場
8.4.1 GCC諸国:再エネ超過電力の活用
8.4.2 南アフリカ:鉱業向けエネルギー転換
8.5 ラテンアメリカ市場
8.5.1 ブラジル:バイオマス由来水電解への連携
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競争環境分析
9.1 グローバル主要企業の市場シェア比率
9.2 競合ベンチマーキング
9.2.1 技術ポートフォリオ比較
9.2.2 生産能力および稼働率
9.3 戦略的イニシアチブ(M&A、合弁、提携)
9.4 価格競争と差別化要因
9.5 SWOT分析(市場全体)
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企業プロファイル
10.1 Siemens Energy
10.1.1 企業概要と技術開発動向
10.1.2 主要プロジェクト事例
10.2 Air Products & Chemicals, Inc.
10.3 thyssenkrupp Nucera
10.4 Nel ASA
10.5 Engie SA
10.6 JERA Co., Inc.
10.7 その他主要サプライヤー(地方電力会社含む)
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政策・規制動向
11.1 国際規制枠組み(IMO、UNFCCC等)
11.2 各国クリーン燃料基準と補助金制度
11.3 安全基準・貯蔵輸送規制
11.4 排出量削減クレジット取引市場との統合
11.5 公的支援プログラムと研究助成
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技術トレンドとイノベーション
12.1 次世代電解セル材料開発
12.2 デジタルツインによるプラント最適化
12.3 廃熱・圧縮エネルギー回収技術
12.4 アンモニアキャリア(液化有機ハイドライド等)研究
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付録
13.1 図表リスト
13.2 略語一覧
13.3 調査会社プロフィール
13.4 問い合わせ先情報
■レポートの詳細内容・販売サイト
https://www.marketresearch.co.jp/green-ammonia-market/