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決算書だけでは見えない経営 管理会計の必要性と活用法

#会計・税務

決算書だけでは見えない経営 管理会計の必要性と活用法
企業経営において、売上や利益、資産や負債などを把握する財務会計は欠かせません。しかし、決算書や試算表を確認するだけで、経営の実態を十分に把握できているでしょうか。会社全体では黒字でも、赤字の事業があるかもしれません。売上が伸びていても、利益率が低下している可能性もあります。こうした経営の実態を把握し、今後の意思決定に役立てるのが「管理会計」です。本記事では、財務会計との違いを整理しながら、経営者が管理会計を活用する必要性と具体的な方法を解説します。

    財務会計と管理会計は何が違うのか

    財務会計と管理会計は、どちらも企業の数字を扱うものですが、その目的が異なります。財務会計は、主に社外の関係者に企業の経営成績や財政状態を報告するための会計です。決算書などを通じて、株主や金融機関、取引先などが企業の状況を判断できるようにします。そのため、一定の会計基準やルールに従って作成する必要があります。
    一方、管理会計は、経営者や管理者が経営判断を行うための会計です。会社全体の数字だけでなく、事業別、部門別、商品別、顧客別など、自社の経営に必要な切り口で売上や利益、経費などを把握します。
    例えば、次のような違いがあります。

    比較項目 財務会計 管理会計
    主な目的 社外への報告 社内の経営判断
    主な利用者 株主・金融機関・経営者など 経営者・部門責任者など
    集計単位 会社全体が中心 事業別・部門別・商品別など
    ルール 会計基準などに従う 自社の目的に合わせて設計
    活用方法 経営成績・財政状態の把握 課題分析・改善・将来の計画

    財務会計と管理会計は、どちらか一方があればよいというものではありません。財務会計で会社全体の状況を把握し、管理会計でその内訳や要因を分析する。両方を組み合わせることで、経営に必要な情報がより明確になります。

    会社全体が黒字でも、すべての事業が順調とは限らない

    管理会計の必要性が分かりやすいのが、複数の事業を展開している企業です。
    例えば、3つの事業を展開している会社があるとします。

    事業 売上高 直接経費 粗利益
    A事業 3,000万円 1,000万円 2,000万円
    B事業 2,000万円 1,800万円 200万円
    C事業 1,000万円 1,200万円 ▲200万円
    合計 6,000万円 4,000万円 2,000万円

    ※数値は説明用の仮定です。ここでは売上高から事業に直接かかる経費を差し引いた金額を便宜上「粗利益」としています。

    会社全体では2,000万円の粗利益があります。しかし、事業別に見ると、A事業が大きな利益を生み出している一方、B事業は利益率が低く、C事業は直接経費が売上を上回っています。この数字が分かれば、経営者は次のようなことを考えられます。
    ・A事業に人材や資金を投入して、さらに成長させられないか
    ・B事業は価格や経費を見直すことで利益率を改善できないか
    ・C事業は一時的な赤字なのか、事業構造に問題があるのか
    会社全体の数字だけを見ていては、こうした判断は難しくなります。なお、実際の事業別採算を判断する際には、直接経費だけでなく、人件費や共通経費の負担なども必要に応じて考慮することが重要です。

    売上だけでなく、利益の中身を見る

    経営者が日常的に確認する数字の一つが売上高です。売上が増えていれば、事業が成長しているように見えます。しかし、売上が増えても、それ以上に経費が増えていれば利益は減少します。
    例えば、前年の売上が1,000万円、粗利益が500万円だった事業が、今年は売上1,500万円、粗利益450万円になったとします。売上は50%増加していますが、粗利益は10%減少しています。
    この場合、売上が伸びたことだけを評価するのではなく、なぜ利益が減ったのかを分析する必要があります。原価の上昇、値引きの増加、外注費の増加など、原因はさまざまです。
    管理会計では、売上高だけでなく、粗利益や利益率、経費の内訳などを確認することで、事業の収益性を把握します。
    売上が増えているかだけでなく、利益を生み出す力が高まっているか。この視点が重要です。

    前年比較や予算実績比較で変化を捉える

    管理会計では、現在の数字を確認するだけでなく、過去の実績や計画と比較することも大切です。代表的なのが、前年同月比較と予算実績比較です。
    前年同月比較では、前年と比べて売上や利益、経費がどのように変化したのかを確認します。一方、予算実績比較では、当初の計画に対して実際の業績がどの程度進んでいるのかを把握します。
    例えば、売上が前年より増加していても、予算には届いていない場合があります。逆に、予算を達成していても、前年より利益率が悪化していることもあります。それぞれの比較には異なる意味があります。
    また、単月の数字だけでは、一時的な要因による変動なのか、継続的な傾向なのか判断しにくい場合があります。月次、四半期、年間など、複数の期間で確認することで、事業の変化をより正確に捉えられます。
    重要なのは、数字の増減を確認して終わるのではなく、「なぜ変化したのか」「今後どう対応するのか」まで考えることです。

    固定費と変動費を把握する

    経営判断に役立つ管理会計の考え方として、固定費と変動費の区分があります。
    固定費は、売上の増減にかかわらず、一定程度発生する費用です。例えば、事務所の賃料や固定給などが挙げられます。
    一方、変動費は、売上や販売数量などに応じて増減する費用です。商品の仕入原価や販売数量に連動する手数料などが代表例です。
    実際には、固定費と変動費の両方の性質を持つ費用もありますが、この区分を行うことで、売上の変化が利益にどのような影響を与えるのかを考えやすくなります。
    例えば、固定費が大きい事業では、一定の売上を超えると利益が増えやすい一方、売上が減少した場合には赤字になりやすい傾向があります。
    こうした費用構造を把握することで、損益分岐点の分析や価格設定、事業計画の策定などにも活用できます。

    管理会計は経営資源の配分にも役立つ

    管理会計の役割は、過去の業績を分析することだけではありません。今後、どの事業に経営資源を投入するかを判断する際にも役立ちます。
    例えば、新たに社員を採用する場合、どの事業に配置するのがよいでしょうか。売上が最も大きい事業でしょうか。利益率が高い事業でしょうか。それとも、現在は赤字でも、今後の成長が期待できる事業でしょうか。
    管理会計によって各事業の収益状況を把握していれば、こうした判断の材料になります。同様に、新規投資、広告宣伝費の配分、外注化、事業の拡大・縮小などにも活用できます。ただし、現在の利益が高い事業だけに投資すればよいわけではありません。新規事業では、立ち上げ段階で赤字が発生することもあります。
    管理会計で現状を把握したうえで、成長可能性や将来の収益性なども考慮して判断することが大切です。

    中小企業こそ管理会計を活用したい

    管理会計というと、大企業が専門部署を設けて行うものという印象があるかもしれません。しかし、経営資源が限られている中小企業こそ、管理会計を活用する意義があります。中小企業では、経営者が営業、採用、投資、新規事業など、さまざまな意思決定を担っています。
    その判断を経験や感覚だけに頼るのではなく、数字によって裏付けることができれば、経営の精度を高められます。もちろん、経験や直感が不要になるわけではありません。むしろ、経験や直感によって感じたことを数字で確認し、数字から見つかった課題を現場で確かめることが重要です。管理会計は、経営者の判断を数字で支えるための仕組みと考えると分かりやすいでしょう。

    管理会計はExcelからでも始められる

    管理会計を導入するために、最初から高額なシステムや複雑な仕組みを用意する必要はありません。会計ソフトに入力されている財務会計のデータを利用し、Excelなどで集計する方法でも始められます。
    例えば、次のような手順です。
    1.管理する単位を決める
    まず、事業別、部門別、商品別など、どの単位で数字を把握したいのかを決めます。
    2.確認する項目を絞る
    売上高、直接経費、粗利益、利益率など、経営判断に必要な項目を設定します。
    3.共通経費の扱いを決める
    複数の事業に共通する費用は、全社経費として別管理する方法もあれば、一定の基準で各事業に配賦する方法もあります。重要なのは、管理目的に合ったルールを決め、継続して比較できるようにすることです。
    4.毎月数字を更新する
    月次で実績を集計し、前年や予算との比較を行います。
    5.経営判断に活用する
    数字を見て課題を確認し、改善策や投資判断などにつなげます。最初からすべてを細かく管理しようとすると、集計作業そのものが負担になることがあります。まずは必要な項目に絞り、経営に役立つことを確認しながら、段階的に管理範囲を広げていくとよいでしょう。

    管理会計は「つくること」が目的ではない

    管理会計を導入しても、毎月資料を作成するだけでは十分とはいえません。数字を集計し、グラフをつくり、会議で報告する。それだけで終わってしまえば、管理会計が単なる事務作業になってしまいます。
    例えば、ある事業の利益率が低下していることが分かった場合、原因を調べ、必要な対策を検討することが重要です。
    また、数字を細かく分類しすぎると、集計に時間がかかる一方で、経営判断にはほとんど役立たないということも起こります。管理会計は、経営に必要な情報を得るためのものです。
    「この数字を把握することで、どのような判断ができるのか」という視点を持ち、必要に応じて管理項目や集計方法を見直していくことが大切です。

    まとめ

    財務会計は、企業の経営成績や財政状態を把握するために欠かせません。しかし、会社全体の数字だけでは、事業ごとの収益性や経費の構造、業績が変化した要因などを十分に把握できないことがあります。そこで役立つのが管理会計です。
    事業別の売上や利益、前年との比較、予算の達成状況、固定費と変動費などを把握することで、経営上の課題が見えやすくなります。さらに、採用、投資、事業の拡大・縮小など、将来の意思決定にも活用できます。
    管理会計は、大企業だけのものではありません。中小企業でも、会計ソフトのデータとExcelなどを活用し、必要な項目から始めることができます。
    大切なのは、数字を細かく管理することではなく、数字を経営に活かすことです。財務会計で会社全体の結果を把握し、管理会計で事業の実態を分析する。その両方を活用することが、より的確な経営判断につながるでしょう。

    編集局の声

    経営者にとって、会社全体の売上や利益を把握することは当然重要です。しかし、それだけでは、どの事業が利益を生み、どこに課題があるのかまでは見えてこないことがあります。管理会計は、そうした経営の実態を数字で把握するための仕組みです。必ずしも複雑な管理が必要なわけではなく、自社の事業に合わせて必要な情報を整理することから始められます。数字を確認するだけでなく、その数字から何を読み取り、次の経営判断にどう活かすか。管理会計を経営者自身が使いこなすことが、企業の持続的な成長につながるのではないでしょうか。

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