一般社団法人 産学連携推進協会 代表理事 黒瀬智恵氏

公開日:2018年8月7日

大学教授の研究成果を中小企業の商品・サービスの営業戦略に活かす

中小企業の産学連携を取り巻く現状は?
私自身、産学連携関連のフォーラムに出席しても、大手企業の事例が出てくることが多く、中小企業にはまだ産学連携が根付いているとはいえません。そこで中小企業に産学連携の間口を広げていくために、さまざまな活動を行っています。
実際、中小企業の場合、産学連携に取り組む以前に、「産学連携に興味がある」という企業が2割程度しかありません。そこで、まだ産学連携に興味を持っていない8割の企業に、産学連携には大きなチャンスがあるということを広く伝えていく必要があると感じています。
中小企業にとって、産学連携のメリットは何ですか?
産学連携を通じて、大学と共同研究や共同開発を行うことは少々敷居が高いかもしれません。その点、中小企業のために産学連携がより役立つとすれば、それは営業面だと思います。
たとえば自社で何か画期的な商品を開発し、それをどうやって売っていくかを考えたとき、タレントに「これはいいですね」と推薦してもらうのが効果的である場合もあるでしょう。
ところが商品によっては、その分野で権威のある大学の先生から、学術的なエビデンスに基づいてコメントやお墨付きをもらったり、アドバイスをいただくことが、消費者に商品の価値をきちんと伝え、信頼を獲得するうえで非常に有用であることが少なくありません。
実際、サプリメント1つをとっても、大学の先生のコメントには「その成分がなぜ良いのか」や「この配合がなぜ良いのか」という理由がわかりやすく出てきます。また大学の先生は、学会誌等で発表したエビデンスを持っていて、そこに書かれていることについては科学的な妥当性に基づいて「これはこうです」といえる強みもあります。
既存の商品をブラッシュアップする際にも、大学の先生の知恵を借りることは非常に有効です。たとえば美容機器の次期モデルの開発にあたり、最新の研究に基づき「この波長の光をこれだけ当てればいい」という的確なアドバイスを、美容が専門の先生から受けることができれば、最小限のコストで開発を行うことが可能です。次の製品は「○○先生の監修の下で開発しました」と表示することができれば、PR効果も高まるでしょう。
どんなサービスを提供していますか?
私たちは全国の国立・私立大学教授と直接つながりを持っており、各大学のさまざまな研究シーズを中小企業に紹介し、「うちの会社なら、このシーズと自社技術を組み合わせて、こんなことができるのではないか」というビジョンが描けるような情報を提供しています。
私たちが提供しているサービスには、「コンサルティングサービス」「教授のコメント」「教授のお墨付き(受託検証)」「教授のアドバイス(学術的指導)」などがあります。
「コンサルティングサービス」では、企業の製品の指向や営業戦略に沿った付加価値を提供できる大学の専門分野および専門教授を提案し、ヒヤリングを通じて商品の趣旨、メインターゲット、営業ターゲットを明確化します。そうして訴求ポイントを明確にしたうえで、大学および教授とコンタクトを取り、依頼元とマッチングをすることで産学連携の実施をサポートします。
「教授のコメント」は、商品やサービスについて、その分野の専門教授の学術的知見に基づくコメントをもとに、商品力やサービス力の向上に役立つ原稿を作成し納品するサービスです。専門教授のコメントは広告やWebサイトなどに掲載し、PRに役立てることが可能です。
「教授のお墨付き」は、商品やサービスに対し、専門教授の受託検証を通じて、学術的見地から付加価値を提供するサービスです。コンサルティングサービスで明確化された訴求ポイントに最適な専門家をマッチングし、検証項目の選定のフォローを行い、大学での研究・検証を依頼します。 検証結果には「教授のお墨付き」(商標登録済み)のロゴを付けることができます。
ほかにも、商品やサービスの企画から製造販売まで専門教授が適切な学術的指導を行う「教授のアドバイス」などのサービスを提供しています。
当協会への相談は無料ですが、大学の先生が動いて企業に面談を行ったり、「教授のコメント」「教授のお墨付き」「教授のアドバイス」等のサービスを提供する段階で、費用が発生します。
強みは何ですか?
日本全国の大学の先生と直接つながりを持っていることが、当社の最大の強みです。当協会の理事がNHKや放送大学の番組に関わっており、特に医療系や心理学系などの教授とネットワークを築いています。
最近では防災関連の相談も多く自社が作った製品を、本来の用途とは異なる防災や災害復旧、あるいはオリンピック向けに販売できないかを専門教授に相談したい、というお問い合わせを数多くいただいています。
もう1つの強みは、教授とのつながりをもとに、商品やサービスの付加価値を最も発揮できる専門分野や最適な専門教授をマッチングできることです。
たとえば「ヨガで産学連携ができないか」という要望が企業からあった場合、専門分野としてはスポーツ健康科学をご紹介することが多いでしょう。ところが、ヒヤリングをきちんと行った結果、その企業が営業戦略上、妊活(妊娠活動)ニーズを取り込み、マタニティクリニックなどへの営業を考えていることがわかったとしたら、産婦人科医などにコンタクトすべきです。
こうしたことを、当社内部だけでなく、アドバイザーとしてご協力いただいている先生たちから指導を仰ぎながら提案できることも、当社の強みの1つです。
大学側や教授側にはどんなメリットがありますか?
たとえば「教授のコメント」では、専門教授が持っているエビデンスに基づき、商品力やサービス力の向上に役立つコメントを提供しますが、大学の先生たちは自分で調べていない事柄についてはコメントを書けませんので、受託研究が必要になる場合があります。
大学の先生にとっては研究が1番大事なので、一度受託研究を行ってから関係が薄くなるようでは、産学連携に後ろ向きになってしまうかもしれません。そこで私たちはサービス提供にあたり、次回の研究なり開発につながるような形で提案書を書いています。
また、これまで産学連携といえば、大学の先生が自分の研究から少し離れた分野を手がけているというイメージがありましたが、当社ではマッチングの精度を向上させ、ご自身の専門分野にぴったりの産学連携案件をご紹介し、無理なく研究が進められるようにしています。ご自身でも興味を持って頂ければ論文等におまとめ頂くことも可能ですし、また昨今の研究費削減にも一役買えると考えております。産学連携案件が大学の先生の研究テーマとベストマッチしていると、学部内の先生のゼミなどでの研究テーマとして取り組んでいただけることもあります。
なお「教授のコメント」にしろ「教授のお墨付き」にしろ、あくまで専門教授が持っているエビデンスに基づくものなので、産学連携の相手先企業の商品・サービスの営業に有利になるように、事実を曲げるようなことはありません。
抱負を聞かせて下さい。
事業を開始してから、まだ1年少々しか経っていませんが、現在約30件の産学連携案件が進行しています。最初は「教授のコメント」でプロジェクトがスタートしたにもかかわらず、「先生にもっと意見を聞きたい」という企業側の強い希望により、双方が定期的にミーティングを行っているケースも少なくありません。
当社が推進する産学連携は、専門教授が持つアカデミックな知識をもとに、中小企業が創り上げた良い商品やサービスが売れる基盤を構築し、市場や経済を活性化させることを目的にしています。
産学連携に興味がない8割の中小企業の方々に、産学連携は他人事ではなく、自社の営業戦略の1つとして大いに活用できるということと、大学の先生たちは中小企業にも広く間口を開いているということを、ぜひ知っていただきたいですね。
加えて、営業戦略系のコンサルタントの皆さんにも、産学連携はクライアント企業に対して自信を持ってお薦めできる有力な営業戦略ツールの1つだということを伝えたいと思います。
新たな取り組みについて教えて下さい。
産学連携を推進していくうえで、大学が持っている研究シーズをわかりやすく伝えることが非常に大事です。
現在、さまざまな大学からシーズの提供を受け、当社サイトやイノベーションズアイのサイトの産学連携情報コーナーで紹介していますが、中には解説が難解なものもあり、今後この部分を改革していこうと考えています。
現在、私たちが親しくお付き合いさせていただいている大学と連携し、モデルケースとして、同校のポスドク(博士研究員)に、大学の保有シーズの解説文を、中小企業向けにリライトしてもらうという取り組みを計画しています。
大学側にとってもポスドクの処遇は課題の1つであり、ポスドクの力を活用し、そこにお金が回る仕組みを構築することができれば、一石二鳥の効果が発揮できると期待しています。
インタビュー:ジャーナリスト 加賀谷貢樹

大学卒業後、ラジオ・テレビなどのレポーターからマスコミ関係の仕事に従事。2011年、ソフィアプランニングを設立し代表取締役に就任。2014年、産学連携推進協会を設立。代表理事に就任し、現在に至る。

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