クリナップの鈴木博恵選手(左)は、前田翔吾選手とともに国際大会で活躍している
レスリングで活躍して会社に貢献するクリナップの井上佳子選手(右)
クリナップキッズいわきレスリングクラブのメンバー。クリナップはスポーツ振興を地域貢献に欠かせないと考える
■女子2選手獲得、活動の幅拡大
キッチン専業大手のクリナップレスリング部では、2011年から鈴木博恵選手(フリースタイル75キロ級)、井上佳子選手(フリースタイル69キロ級)の女子2選手を採用し、活動の幅を広げている。
日本の女子レスリングは五輪でメダルを量産するなど世界屈指の質の高さを誇り、国内外で高い注目を集めている。男子ではすでに名門といえるクリナップレスリング部だが、女子選手も着々と実力を付けている。
女子2選手が採用されたのは11年4月。前月には東日本大震災が発生し、クリナップの主力生産拠点であるいわき工場(福島県いわき市)でも一時操業停止を余儀なくされていた。鈴木選手は「本当に採用されるのか不安だった」と振り返った。
その後、2選手は予定通り採用され、レスリング部は震災からの復興を目指し、早期に練習を再開した。それだけに「レスリングの成績で会社に恩返ししたい」(井上、鈴木両選手)との思いは強い。
◆人脈使い練習拠点確保
井上選手は同年のアジア選手権大会で優勝。11年の世界選手権大会(トルコ)と、12年の世界選手権大会(カナダ)でそれぞれ3位に入賞した。この世界選手権での結果をたたえ、井上選手と今村浩之監督は、12年、13年と続けて、文部科学省主催の「スポーツ功労者顕彰、国際競技大会優秀者等表彰、スポーツ功労団体表彰」で、国際競技大会優秀者として表彰された。
鈴木選手も12年の天皇杯全日本選手権大会で優勝、13年のアジア選手権大会で優勝、さらに今年のアジア選手権大会で3位を獲得した。五輪メダリストの浜口京子選手(ジャパンビバレッジ所属)と同階級で、国内の好敵手として対戦が注目されている。
井上選手は、女子レスリングの名門、至学館大学の出身で、愛知県大府市の同大レスリング部を練習拠点としている。一方、鈴木選手は重量級で、国内の練習相手は少ない。「パワーのある選手への対応が課題」(今村監督)で、これを克服するため、都内高校の男子レスリング部を練習拠点としている。日本国内の高校レスリング部の監督には、日本体育大学のレスリング部出身者が就任していることが多い。鈴木選手の練習拠点の確保には、同大出身の今村監督の人脈が活用されている。
◆キッズクラブで地域支援
練習場所もメニューも異なる選手に、今村監督はどのような指導をするのか。今村監督は「自分の欠点や特徴を明確に気付かせること。みな一流の選手なので、本人もなんとなく気が付いている。それを指摘することで課題を浮き彫りにする」と説明する。
クリナップがレスリング関係で注力している活動の一つに、小中学生を対象としたクリナップキッズいわきレスリングクラブの運営支援がある。福島県いわき市の工場にある体育館で行っており、地元に住む十数人が参加している。震災で活動を休止したが、参加者の強い希望で、2カ月後に練習を再開できたという。このころ、現地を訪れた鈴木選手は「子供たちがキラキラした目で練習していたのが印象的だった」という。「スポーツ振興では地域貢献の視点は欠かせない」(井上強一社長)。クリナップレスリング部は、トップレベルの活躍と地域貢献を両立させている好例といえそうだ。
現在のレスリングのトップ選手は、子供のころから本格的なレスリングクラブに所属していることが多い。クリナップの所属選手のなかでも、高校で剣道から転向した田野倉翔太選手(男子グレコローマン59キロ級)以外は、小学生からキャリアを積んでいる。
キッズいわきレスリングクラブでは、トップ選手の育成を活動目的の一つとして挙げる。13年全国中学生レスリング選手権大会で準優勝した今村太陽選手や、今年4月に横浜で行われた「2014年JOCジュニアオリンピックカップ」で銅メダルを獲得したクラブOBの清水徹選手(フリースタイル63キロ級)など、目的を果たしつつある。東京五輪でも、キッズクラブ出身者の活躍が期待できそうだ。
ただ、レスリングの五輪競技除外問題は、関係者に強い衝撃を与えた。レスリング愛好者やファンが女子や子供に広がっており、五輪という最終目標がなくなれば、レスリングの土壌が一気に崩壊しかねないからだ。
除外が検討されたのは、スポンサー収入やテレビ放送の注目度の低さなどが大きく影響したとされる。結局、存続されることになったが、競技者側と支援企業側が連携して競技の宣伝や広告、普及に尽力することが求められそうだ。(高山豊司)
「フジサンケイビジネスアイ」