39歳以下の新規就農者数
若い世代を中心に新たに農業を始める人が増えている。農林水産省によると、39歳以下の新規就農者は2012年で1万5030人と前年比5.7%増加した。雇用環境の悪化による就職難に加え、農業生産法人へのインターン(就業前研修)など新たな担い手を育てる仕組みが整いつつあるからだ。ただ、就農しても仕事のきつさから短期での離職者も少なくない。受け皿となる農業生産法人の大規模化や6次産業化で、農作業だけでなく、財務や営業などの人材育成・確保も求められる。
後継者難解消の一助
関西在住のフリーアルバイターだった駄田井玲二さん(42)は13年11月、高知県土佐町の農業生産法人「れいほく未来」で3週間にわたる就農体験研修に参加。ビニールハウスで栽培するキュウリのつるを支柱などに結びつけて整える「誘引」と呼ばれる作業に取り組んだ。
細かい手作業の連続だったが「自分に合っていると感じた」駄田井さんは今年1月、土佐町での研修に再び向かった。農業生産法人「ウィンドファミリー」でハウス栽培のキャベツを収穫。地元住民との交流会にも参加し、移住者が多いことを知った。
駄田井さんは3月、れいほく未来に入社した。今では研修に来る若者の農作業をサポートする立場だ。一方で「ここで技術を蓄えて、いずれは独立したい」という夢を描く。
駄田井さんが応募した就農体験研修は、フード関連業向け人材紹介や求人サイトなどを手がけるクックビズ(大阪市北区)と農業塾運営のFPI(同淀川区)が共同で実施する就農支援事業「ファームビズ」
大阪府豊中市から起業支援型地域雇用創造事業を受託。就農を考える人を対象に農業生産法人でのインターンシップを通じて農業への就職を中長期的にサポートする。
1回当たり約1~3週間の研修を昨年11月以降、これまで7回実施し、約40人が種まき、育苗、収穫やビニールハウスのメンテナンス、農機具の操作といった農業を体験。7月22日~8月12日開催の研修には3人の若い男女が参加した。気に入ればインターンを受け入れている農業生産法人への就職も可能だ。
土佐町の協力も手厚く、町内にある元学校の建物を活用した研修施設や集会場などを宿泊場所として無償で提供している。「就農インターンを機に、土佐町のファンになってもらい、さらに定住してもらえる人が出てほしい」(産業振興課)とファームビズ効果に期待する。
というのも、土佐町の高齢化率(65歳以上の高齢者が総人口に占める割合)は40%を超え、町を支える農林業も後継者難が深刻なためだ。
クックビズの担当者は「外食産業も農業も離職率が高いという共通の課題を抱える。特に農業に就きたいという人がいても受け入れる仕組みがなかった」と打ち明ける。
同社は、高知以外でも農業体験ができる取り組み「47ファーム」をスタート。全国から農業体験の受け入れ可能な農家を公募、すでに100以上の農家が登録した。
企業による就農支援は、人材派遣大手のパソナグループやインテリジェンスなども始めた。全国農業会議所が運営する新規就農相談センター(東京都千代田区)にも就農希望者からの相談が数多く寄せられている。
定着率向上など課題
職業としての農業への関心が高まっている一方で、せっかく就農しても「体力的にきつい」などの理由から短期間でやめてしまう人も少なくないという。さらに農業法人の集約・大規模化が進めば企業と同様に、財務や営業などの担当者も求められる。農作業以外にも、農業の魅力を支える人材の育成が課題となっている。
農業に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小谷幸司主任研究員は「農業への関心を高める上で、企業による農業インターンの取り組みは評価できる」と指摘。その上で「単に農作物を作る人だけでなく、それを売る人、マーケティングが得意な人など農業経営に明るい人も育成できれば、産地全体のブランド力向上とともに、多くの人が地方に目を向けることにつながる」と話している。(松村信仁)
「フジサンケイビジネスアイ」