中堅企業にも求められる移転価格税制対応

第8回

第8回 移転価格税制の基礎(2)~ 知っておきたい移転価格税制

山中 一郎 2017年4月7日
 

我々の周りを見てみると、複数国にまたがって、世界的なレベルで事業を展開するいわゆる「多国籍企業」が少なくありません。多国籍企業においては、親子会社間、兄弟会社間における取引がなされていますが、これら親会社と子会社等(国外関連者といいます)との間の財・サービスの取引に付される価格を移転価格と言います。

 

   移転価格税制の必要性

税制は国家によって決められており、税率は国ごとに異なります。仮にある企業が税率の異なる二つの国で営業している場合、企業はどのような行動をとるでしょうか?税金をコストだと考える企業であれば、トータルの税金を低く抑えようとする結果、両国間での移転価格を操作して、意識的に税率の低い国に利益を残そうとするかもしれません。

 

国家の財政は、国の収入である税金によって成立しています。本来であれば「国家にもたらされるべき税金」が、前述の企業行動によって、結果として国外に流出してしまうと、国家の財政は破綻しかねません。このような国外関連者との取引を通じた、所得の不公正な海外移転を防止するために、日本を含めた多くの国では移転価格税制が設けられています。

 

   移転価格税制とは

移転価格税制とは、国内企業が国外関連者との取引を行う結果、独立した企業間で通常設定される取引価格(独立企業間価格)で行う取引より利益が減少する場合に、その取引を独立企業間価格で行われたものとみなして当該企業の所得を計算し、課税する制度を言います。日本では昭和61年に導入され、幾度かの改正を経て、平成28年には日本も加盟する国際機関であるOECD(経済協力開発機構)のBEPSプロジェクトの勧告を踏まえた移転価格文書化制度に関する改正がありました。

 

BEPSプロジェクトは、国際課税のルールを明確にするためのプロジェクトです。リーマンショック後に、各国の財政状況は悪化し、国民に重い税負担が求められるようになりました。その中で多国籍企業の中には、ローカルな税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策を実行して、税負担を軽減しているという問題が次々と発覚しました。同プロジェクトは、このような多国籍企業の租税回避行為を防止することを主な目的としています。

 

平成27年9月に、このプロジェクトの最終報告が取りまとめられ、G20サミットで報告されました。この最終報告は法的拘束力を持っていないものの、日本をはじめ、OECD加盟国、G20参加国では、順次導入を進めています。

 

移転価格税制の執行状況に目を向けると、近年、日本を含む各国税務当局、特に、中国、インド、東南アジアの国々などの新興国は、移転価格に係わる税務調査に力を入れ、多額の税金の追徴を行うことも少なくありません。今や、移転価格税制の知識は、グローバルに事業を展開する企業にとって欠かせないものと言っても過言ではないでしょう。


― 以上 -

 
 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、


「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数

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