中堅企業にも求められる移転価格税制対応

第11回

移転価格文書化義務違反のペナルティは?

山中 一郎 2017年5月26日
 
新聞などの人事欄を見ると、コンプライアンス(法令順守)推進室長やコンプライアンス統括室長などの役職がよく目に留まります。コンプライアンス違反が引き起こす様々なペナルティは企業にとって屋台骨をゆるがしかねない経営リスクの1つです。

脱税などの法人税法違反は究極のコンプライアンス義務違反ですが、移転価格文書化義務を怠るなど、制度を知らなかったために税法で定められた書類の作成を行わなかった場合も、もちろんコンプライアンス義務違反になります。海外子会社等と取引のある企業の皆様には、是非、制度を理解し、以下の推定課税や同業者調査を受けないよう、ご注意いただきたいと思います。

推定課税と同業者調査とは?


平成28年度の税制改正においては、税務調査において調査官が指定する期日(取引規模によって、45日以内、または、60日以内)までに、「ローカルファイル」と言う、一定の移転価格に関する説明資料を提出しない場合、調査官は、推定課税、または、同業者調査を行えることが規定されました。

推定課税とは、税務調査官が独自に入手した外部の情報に基づき計算した結果をあるべき課税金額とみなして所得の更正を行うものです。つまり、調査官が同業他社の使用している同様な取引の価格や利益率を用いて、貴社のあるべき課税所得を推定するというものです。そのためには、同業他社の帳簿書類などの情報にアクセスする必要がありますが、調査官には同業他者への質問検査権が与えられ、同業者調査が可能とされているのです。

なお、国税庁の事務運営指針によれば、同業者調査が実施された場合に、比較の対象とした取引を選定するために用いた条件や、取引の内容などを納税者側に説明するものとされています。ただし、その際、守秘義務規定に留意せよとされていますので、比べた企業名等は明らかにされません。よって、納税者は、調査官の課税の根拠を十分に知ることができず、的確な反論もできないまま、所得を更正され、税金の追徴を受ける可能性があるのです。

推定課税・同業者調査回避のためのローカルファイル作成・提出


上述のように、ローカルファイル等の移転価格文書を指定期日までに作成・提出しなければ推定課税や同業者調査の対象となりますので、当該、推定課税や同業者調査はローカルファイル作成・提出義務違反のペナルティということができます。しかし、ポジティブに考えるならば、推定課税や同業者調査の条件が明確化され、移転価格税制に係る納税者の予見可能性が高まったということもできます。

コンプライアンス遵守に努め、推定課税や同業者調査を回避することによって、課税リスクを最小化することが重要です。

以上

 
 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数

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