中堅企業にも求められる移転価格税制対応

第1回

移転価格調査は中堅企業もターゲット

山中 一郎 2016年11月18日
 
中堅企業の経営・管理に携わる皆様は、移転価格税制と言えば、名だたる超大規模企業だけの問題ととらえておられないでしょうか?確かにこれまでは、「XX株式会社が海外子会社との取引で、〇〇億円の移転価格課税を受ける」というような、有名上場企業に係るニュースが新聞紙上を賑わせて来ました。ところが、最近は風向きが変わり、税務当局は海外子会社との取引がある中堅企業も移転価格税制の対象として注目しています。

そこで、移転価格税制が中堅企業にとって重要なものとなってきた背景を探り、どのように当該税制を遵守する体制を整えていくべきか、検討していきます。


そもそも移転価格税制とは?

日本の企業が海外で子会社を設立し、その子会社と取引をする場合、その企業や取引の規模に係らず、移転価格税制の対象となります。移転価格税制とは、「現実の取引価格ではなく、独立企業間において通常設定される価格(独立企業間価格)を用いて、これを基に課税所得を計算する制度」です。


なぜ中堅企業も移転価格調査の対象となってきたのか?

近年、大企業だけでなく、中堅企業も税務当局の移転価格調査の対象となってきましたが、それはなぜでしょうか?理由としては、海外に進出する中堅企業の現地子会社との取引規模が大きくなってきたこと、国税通則法(国税に関する一般法)が改正され一般の法人税調査の範囲に移転価格調査が加わったために中堅企業も対象としやすくなったこと、大企業の移転価格対策が一巡したことなどがあげられます。


移転価格調査とはどのようなものか?

移転価格も税務調査の対象となります。この移転価格調査が行われた場合は、期間が1~2年の長期に及ぶのが通常です。これまでは、一般の法人税調査とは別に実施されてきましたが、国税通則法の改正で、原則として、一般の法人税調査において、この移転価格調査も行われることになりました。

移転価格調査は、まずは、移転価格に関する資料要求が行われることから始まります。要求されるものは、海外の子会社との取引の内容を記載した書類、使用した独立企業間価格を算定するための書類をはじめ、多くの移転価格に関する説明資料です。


移転価格文書化制度とは?

平成28年度の税制改正では、「移転価格文書化制度」が新しく整備され、税務調査において税務調査官が指定する期日(取引規模によって、45日以内、または、60日以内)までに、一定の移転価格に関する説明資料を提出しない場合、税務調査官は、推定課税、または、同業者調査を行うことができるようになりました。推定課税とは、税務調査において、独自に入手した外部情報により算定した結果をあるべき課税金額とみなして更正するもの、同業者調査とは、税務調査官が調査対象企業の同業者に質問し、または、帳簿書類を検査することをいいます。

移転価格調査を受ける可能性が高まった今、海外子会社との取引がある中堅企業は、移転価格税制、とくに文書化制度がどのようなものか早急に把握し、税務調査官に対して説得力のある移転価格文書を税務調査が始まる前に準備しておくことが必要でしょう。
 
 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数

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