中堅企業にも求められる移転価格税制対応

第14回

移転価格税制の基礎(8) 「マスターファイルとは?(事業概況報告事項とは?)」

山中 一郎 2017年7月7日
 

平成28年度の税制改正において、移転価格文書化制度が再整備され、連結総収入金額が一定額以上の多国籍企業グループに、最終親会社等届出事項、国別報告事項(CbCレポート)、及び、マスターファイル(事業概況報告事項)の国税当局への提供が義務付けられています。

 

また、国外関連者との取引が一定額以上の法人には、ローカルファイルの同時文書化が義務づけられています。

 

本ブログでは、マスターファイルについて見て行きましょう。

 

マスターファイルとは?(事業概況報告事項とは?)

マスターファイルとは、「税務当局が重要な移転価格リスクを特定できるよう、多国籍企業グループのグローバルな事業活動やポリシーに関する概要を記載したもの」です(財務省「国際課税関係資料」による)。主な内容は以下のとおりです。

 

l  多国籍企業グループの構成会社の名称、住所、所有関係図

l  多国籍企業グループの各構成会社の事業概況

l  多国籍企業グループの無形資産

l  多国籍企業グループ内の金融活動

l  多国籍企業グループの財務状況(連結財務諸表等)と税務当局との事前確認等の状況

 

ローカルファイルが個々の国外関連取引を記載対象としているのに対し、マスターファイルは、多国籍グループ活動の全体像を文章で記載します(図表などを用いることも可)。

 

マスターファイルの提供義務者は?

マスターファイルは、前年度の連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業グループの構成会社等である内国法人に提供が義務付けられています(代表一社が提供すればよく、通常は最終親会社(究極の親会社)が行います)。

 

注意すべきは、前年度の連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループの場合、日本の税務上、マスターファイルの提供義務は免除されていても、外国によっては免責基準が異なり、作成や提出が義務付けられる場合があることです。例えば、インドネシアでは、関連当時者間取引(株式の保有割合が25%以上など)がある企業は、前年度の年間売上が500億ルピア(約4億円)を超える場合、マスターファイルの作成義務があります。

 

マスターファイルの提供期限はいつか?適用開始時期は?

マスターファイルの提供期限は、最終親会社の会計年度終了の翌日から一年以内に、e-Tax(国税電子申告・納税システム)により、所轄税務署に提供することとなっています。これは、平成28年4月1日以後に開始する最終親会社の会計年度から適用されます。

 

マスターファイルの使用言語は?

マスターファイルの使用言語は日本語、または、英語です。ただし、英語で提供された場合には、必要に応じ、日本語による翻訳文の提出が求められる場合があります。

 

マスターファイルの有効活用

マスターファイルは、前年度の連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループの場合は、提出義務がありません。しかし、以下の理由から、その有効活用が望まれます。

 

・各ローカルファイルの整合性確保

マスターファイルには、移転価格ポリシー(移転価格決定に係るグループの基本方針)が記載されます。グループの各構成会社が、このポリシーに従って移転価格を決定し、その算定のための情報をローカルファイルに記載することで、マスターファイルと各ローカルファイルの整合性がとれます。それと同時に、各ローカルファイル間の整合性を確保することが可能となります。

 

・移転価格リスクの管理に有用

マスターファイルにより、グループのグローバルな事業活動を概観することによって、

収益の源泉がどこにあり、各構成会社が付加価値の創出においてどのような機能を果たしているかを把握することが可能となります。日本の親会社はこのような情報をもとに、税務上、問題となりそうな関連者間取引を中心に移転価格に係る税務リスクの検討、排除に努めることができます。

 

・税務調査期間の短縮化

マスターファイルは、多国籍企業グループの事業活動やポリシーに関する概要を記載したものです。税務当局の移転価格調査が入った場合には、調査官がグループ間の取引を把握するために、これらの提出を当然に要求することが予想されます。事前にマスターファイルを用意しておけば、迅速に対応することができ、税務調査期間の短縮化が期待できます。

 

***

 

ローカルファイルの作成は、移転価格分析においてデータベースを使用するなど、専門家の助力を必要とする場合があります。それに対し、マスターファイルはグループ全体の活動内容の報告であり、社内で作成することも可能です。

 

マスターファイルの作成義務の有無に係らず、その有用性に着目して、作成を進めていくことをお勧めします。

 

以上

 
 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、


「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数

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