■レポート概要
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要旨
本レポートでは、世界の嚥下障害食用増粘剤市場が、2025年に約17億2,050万米ドルに達し、2032年には約28億7,560万米ドルにまで拡大すると予測しています。2025年~2032年の年平均成長率(CAGR)は7.7%と高い伸びを示しており、これは高齢化の進展や神経疾患、手術後合併症による嚥下障害患者の増加、さらに在宅ケアや介護施設での嚥下ケアが重視される傾向が強まっていることが背景にあります。増粘剤は、水分や粘度を調整して安全に飲み込みやすい食べ物や飲料を提供するための必須アイテムであり、今後も医療機関のみならず一般消費者向け市場においても需要が拡大すると見込まれます。
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市場概要
嚥下障害食用増粘剤市場は、製品種類、形態、流通チャネル、地域という切り口で分類されています。製品種類別にはデンプンベース、ガムベース、グアーガム、キサンタンガム、その他(セルロース誘導体等)があり、各タイプは粘度制御特性や味覚、pH安定性など異なる特性を持ちます。形態別では粉末タイプ、液状タイプ、即席プレミックス飲料タイプに分かれ、用途や現場の利便性に応じた選択肢が提供されています。流通チャネル別には病院薬局、介護施設、ドラッグストアやオンライン販売を含むリテールチャネルがあり、ケア現場から在宅利用まで幅広くカバーしています。地域別に見ると北米、欧州、アジア太平洋(ASEANを除く)、ラテンアメリカ、中東・アフリカの五つの地域が対象となっており、それぞれの地域で高齢化率や医療制度、介護インフラの進捗度合いの違いにより市場規模と成長率に差が生じています。
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過去の成長と今後の見通し
2019年~2024年にかけて、全球市場は年平均約5.2%の成長を遂げました。特に北米においては高齢者施設や在宅ケア需要の高まりから市場が急拡大し、欧州でも標準化された嚥下プロトコルに基づく導入が進んでいます。一方で新興国市場では、医療インフラ整備の遅れや診断・ケアの認知不足が成長を抑制する要因となりました。COVID 19パンデミック期には、高齢者の誤嚥リスク低減を目的とした増粘剤の需要が一時的に急増したものの、サプライチェーン混乱や物流コストの上昇により供給が追いつかない局面もありました。その後、2023年以降はパンデミックの影響が緩和される中で、医療機関や介護施設における標準化策の強化やテレヘルス連携サービスの拡大が市場の正常化とさらなる成長を支えています。
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市場力学
成長促進要因としては、まず高齢化社会の急速な到来があります。世界保健機関の推計では、2050年には60歳以上人口が全世界で約21億人に達するとされ、このうち嚥下障害リスクを抱える高齢者は相当数に上ることが予想されます。次に、脳卒中やパーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など神経系疾患後の嚥下障害患者が年々増加している点も大きなドライバーです。また、手術後や化学療法後の患者ケアにおいても増粘剤の利用が定着しつつあります。一方、抑制要因としては、製品コストの高さや診断・ケアガイドラインの地域格差が挙げられます。特に発展途上国では、診断設備や専門人材の不足により嚥下障害の適切な評価・治療が行われにくく、製品需要が十分に顕在化していないのが実態です。
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主な市場機会
小児嚥下障害市場の拡大は注目すべき機会です。早産児や脳性麻痺児など、小児医療の中でも特に嚥下訓練用増粘剤のニーズが高まっており、オーガニック認証や無添加を強調した製品の開発・上市が進んでいます。即席とろみ飲料分野では、電解質やビタミン、ミネラルを配合した栄養補助機能を持つプレミックス製品が登場し、高齢者や術後患者のトータルケアをサポートするソリューションとして注目を集めています。また、病院や介護施設での導入効率化を図る自動混合・供給機器の開発も、現場効率を向上させる鍵として市場に新たな価値を提供する可能性があります。
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種類別洞察
製品種類別に見ると、ガムベース製品が市場の過半を占めています。ガムベースは透明性が高く、pH変動や唾液アミラーゼによる分解に強い特性があり、病院や施設での標準処方として広く採用されています。中でもキサンタンガムにアミラーゼ阻害処理を施した製品は、口腔内粘度を安定的に保持できるため、誤嚥リスクを低減する効果が高いと評価されています。一方、デンプンベース製品はコスト面で優位性があり、特に発展途上国や予算制約のある施設内調製用途で根強い需要があります。グアーガムやセルロース誘導体などの混合タイプは、テクスチャー調整の自由度が高く、高付加価値製品として差別化が図られています。
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流通チャネル別洞察
流通チャネルでは、病院薬局が最も高いシェアを維持しており、2025年時点で約42%を占める見込みです。病院薬局では、患者個別の嚥下評価に基づいた指示調剤や、嚥下訓練プログラムとの連携サービスを提供できる点が強みです。介護施設向けには、大量購入に対応した業務用パッケージやゾーニング型トレイ供給システムが導入されており、業務効率化とコスト削減の両立を実現しています。リテールチャネル(ドラッグストア・オンライン)では、在宅ユーザー向けに小容量パックやフレーバー付き製品、解説ガイド付きキットなどの品揃えが充実し、消費者のセルフケア需要を取り込んでいます。
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地域別展望
北米市場は、医療制度の充実度と高齢者人口の多さから依然として最大規模を誇ります。米国では嚥下障害専門のリハビリテーションプログラムに増粘剤が標準装備されるケースが増えており、製品イノベーションにも積極的です。欧州市場ではドイツ、英国、フランスが牽引役となり、統一的な診断ガイドラインと介護標準の整備が進んでいます。アジア太平洋地域(ASEAN除く)では、中国、日本、韓国が主要市場であり、政府主導の高齢者ケア支援策や介護保険制度の適用拡大が市場成長を後押ししています。ラテンアメリカや中東・アフリカ地域は依然として導入初期段階にあるものの、人口高齢化と医療アクセス改善ニーズの高まりから潜在成長余地が大きく今後の注目市場となります。
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競合状況
主要企業としては、Meridian Innovations(Thick-It)、Parapharma Tech、Nutricia(Danoneグループ)、Nestlé Health Science、Takasago International などが挙げられます。各社は製品ポートフォリオの多様化や風味・テクスチャー改良、電解質や栄養強化といった付加機能の開発、高齢者や小児向けパッケージデザイン、オンライン直販チャネルの強化などで差別化を図っています。また、スタートアップやベンチャー企業が独自のバイオポリマーやナノテクノロジーを活用した新規増粘剤の研究開発を進めており、市場競争は一段と激化する見込みです。
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分析と提言
嚥下障害食用増粘剤市場で競争優位を築くためには、以下の戦略が重要です。
• 製品イノベーションの継続強化:粘度制御性能や風味・テクスチャーの最適化に加え、栄養補助機能やオーガニック認証など付加価値要素を組み込むこと。
• ケア現場連携サービスの構築:病院薬局や介護施設、訪問介護事業者と共同で診断から調製、フォローアップまでを一気通貫で支援するプラットフォームサービスの提供。
• マルチチャネル販売戦略:オンライン直販、ドラッグストア、ECモール、病院内売店などを組み合わせ、消費者やケア現場のアクセス性を最大化すること。
• 教育・啓発活動の推進:医師・言語聴覚士・介護職員向けの研修プログラムや一般ユーザー向けセミナーを実施し、嚥下障害の早期発見と適切ケアの普及を図ること。
• 新興市場への展開加速:ラテンアメリカや中東・アフリカの開発途上地域でのパイロット導入プロジェクトを通じて、将来の成長基盤を構築すること。
高齢化や医療ニーズの多様化が進展する中、嚥下障害食用増粘剤市場は今後も堅調な成長が見込まれます。製品開発とサービス提供を両輪とし、患者中心のトータルソリューションを提供できる企業が市場リーダーとして台頭すると考えられます。
■目次
1. エグゼクティブサマリー
1.1. レポート概要(市場規模、CAGR、予測ハイライト)
1.2. 主要ドライバー・トレンド
1.3. 主要制約・リスク
1.4. 市場機会
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2. 調査範囲と市場定義
2.1. 市場定義
2.2. セグメンテーションフレームワーク
2.3. 対象地域・期間
2.4. 対象製品・エンドユーザー分類
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3. 調査手法
3.1. データ収集アプローチ(一次・二次)
3.2. 市場規模算出手法(ボトムアップ、トップダウン)
3.3. 仮定と前提条件
3.4. データ三角合成法
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4. 市場動向(Market Dynamics)
4.1. 成長促進要因
4.2. 市場抑制要因
4.3. 主な市場機会
4.4. COVID 19の影響分析
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5. 製品種類別市場分析
5.1. ゲル型増粘剤
5.1.1. 市場規模および予測(2025–2032年)
5.1.2. 成長トレンドおよびシェア比較
5.2. 粉末型増粘剤
5.2.1. 市場規模および予測(2025–2032年)
5.2.2. 成長トレンドおよびシェア比較
5.3. 製品別市場魅力度評価
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6. エンドユーザー別市場分析
6.1. 病院薬局
6.2. 小売薬局
6.3. オンライン薬局
6.4. エンドユーザー別市場シェアと成長率
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7. 地域別市場分析
7.1. 北米市場分析
7.1.1. 米国市場(規模・予測・製品/エンドユーザー別分析)
7.1.2. カナダ市場(規模・予測)
7.2. 欧州市場分析
7.2.1. ドイツ市場
7.2.2. 英国市場
7.2.3. フランス市場
7.2.4. イタリア市場
7.2.5. その他欧州主要国
7.3. アジア太平洋市場分析
7.3.1. 中国市場
7.3.2. 日本市場
7.3.3. 韓国市場
7.3.4. その他APAC諸国
7.4. ラテンアメリカ市場分析
7.4.1. ブラジル市場
7.4.2. メキシコ市場
7.4.3. その他LATAM諸国
7.5. 中東・アフリカ市場分析
7.5.1. GCC諸国
7.5.2. 南アフリカ市場
7.5.3. その他MEA諸国
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8. 価格分析
8.1. 平均販売価格(製品種類別)
8.2. 年次価格トレンド
8.3. 地域別価格比較
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9. 競合環境分析
9.1. 市場シェア分析(上位企業)
9.2. 主要戦略動向(提携、M&A、製品発売等)
9.3. 競合ダッシュボード
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10. 主要企業プロファイル
10.1. Nestlé (Thick-It シリーズ)
10.2. Nutricia (乳児用増粘剤)
10.3. Parapharma Tech (Gelmix Infant Thickener)
10.4. その他主要プレーヤー
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11. SWOT分析
11.1. グローバル市場SWOT
11.2. 製品別SWOT
11.3. 地域別SWOT
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12. Porterのファイブフォース分析
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13. 付録
13.1. 図表一覧
13.2. 用語集・略語一覧
13.3. 調査協力機関・参考資料
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■レポートの詳細内容・販売サイト
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