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公益財団法人さいたま市産業創造財団 課長補佐   福田 裕子

雑談や盛り上がりから、アイデア、コラボが生まれるスタートアップのコミュニティを作る

さいたま市産業創造財団は、従来行っていた「ビジコンinさいたま」を模様替えし、「Startup!Saitama」オンラインサロンを昨年6月に開始した。爆発的な成長が期待できるスタートアップの育成を目標に、普通ではあり得ないアイデアやコラボが生まれるコミュニティ作りを目指す。サロンの運営を担当する同財団の企業支援課・課長補佐の福田裕子氏に、サロンの活動の模様や今後の目標などについて話を聞いた。

 

爆発的な成長が期待できるスタートアップの支援に全力集中

――今年度の第1回目の「 Startup!SAITAMA」オンラインサロンが4月21日に開催されました。今どのような形でサロンを運営していますか?
今年4月から有料(1社1名あたり月1000円。初月無料特典あり)の会員制になり、現在約40社のメンバーがいます。比較的多いのがWebサービス関連です。また農商工連携支援の一環として、当財団が、さいたまヨーロッパ野菜研究会(さいたま市中央区)の事務局を務めている関係で、食品や農業関係の企業が、人づてで集まってきて下さっています。一番多いのは、創業5年以内の方で、起業前の方はそれほど多くありません。
――ビジネスコンテストからオンラインサロンに移行した狙いは何ですか?
ひとことでいうと、爆発的な成長が期待できるようなスタートアップを、地域で支援していきたいと考えたからです。
1つはユニコーンを狙うなど、エンジェルやVC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達を活用して爆発的な成長を目指す企業。もう1つは、地域で何か新しい価値を掘り起こしたり、社会的課題の解決を通じて、地域を変えてくれる可能性がある企業。その両方を兼ね備えていたら最高です。「 Startup!SAITAMA」に、そんなスタータップが集まってくれたらいいですね。
その背景として、「『世界を変える起業家』ビジコンinさいたま」を主催してきた中で、ここ数年のあいだに、大きな環境変化が起きているのを感じていました。
1つは、若い成長志向のスタートアップがビジコンに応募するケースが増えてきたことです。従来はわりとベテランで業歴もあり、資金もある方が満を持して創業、ということがよくありました。ところがここ数年、若くてまだ人脈も実績も少ない方であっても、VCなどの機関から資金提供を受けていて、短期間で成長しそうなスタートアップの参加が、急に増えてきたのです。
ところが正直な話、そういう人たちが創業します、お金が必要ですという場合、従来、公的機関には制度融資ぐらいしか支える仕組みがありませんでした。そこで、もっと違う方法はないか。今は資金調達の方法として、クラウドファンディングもありますし、VCを始めとする直接金融もあります。そういう手段に対応できるような仕組みをどう作っていこうかと考えました。
また、「ビジコンinさいたま」を始めた当初は、埼玉県でビジネスコンテストを開催しているとことはほとんどありませんでした。ところがここ数年、ビジコンが増えて差別化も難しくなってきた中で、ビジコンで将来有望なスタートアップを「選ぶ」ことより、「育てる」ことにエネルギーを投入したほうがいいのではないかという議論が内部であったのです。
――オンラインサロンの評判は?
かなり、こまめに相談ができるようになったという声はあります。ビジコンの主催者からすると、「(ビジコンを)やるだけで手一杯」というのが共通の悩み。ところがオンラインサロンに移行し、ビジコン開催のための事務的な作業や集客の手間がなくなったので(現在はオンラインサロン参加者を対象とした「新事業オーディション」を開催)、そのぶん継続的な支援に注力し、きめ細かくサポートができるようになったという手応えを感じています。
――相談したいことは継続的・日常的に出てくるでしょうからね
そうなんです。「Startup!SAITAMA」は非公開のFacebookグループをメインに活動しています。メッセンジャーで全員とつながっていて、休日でも夜中でもメールが頻繁に届くので、急ぎの案件にはすぐに返事をしています。スタートアップ支援では、スピード感を大事にしなければいけませんから。
オンラインに移行した理由も、それが大きいのですね。リアルで会おうといって次のアポイントを取ろうとしても、メンターの方が忙しく時間の調整に手間取ると、全然間に合いません。スピード感がまったく違うのです。
オンラインもオフラインも盛り上がり、アイデアやコラボが次々に生まれる「Startup!Saitama」

ビジネスプランを尖らせ、長所を伸ばすためのサポートメニュー

 

【①ビジネスピッチ(月1回程度開催予定)】

――まずビジネスピッチですが、毎回だいたい3社が発表されるのですね
はい。ただ発表するだけではなく、そのプランについて、皆さんにどんな意見を聞きたいか、皆さんにどう協力してほしいかを、毎回最後に話してもらうようにしています。そうすると、さまざまな角度から皆さんのご意見がいただけるので。
スタートアップの起業家は、ともすれば視野が狭くなってしまいがち。専門家だからこそ陥りがちな落とし穴があるので、「必ずしもそうとはいえないのではないですか」といった突っ込みをいただけることが良いのかなと思っています。
誰かが発表し、みんながそれに対して突っ込みを入れるというのは、もともと「ビジコンinさいたま」の二次審査や最終審査の対策として、必ず行っていたことです。
今回オンラインサロンを始めるにあたり、ビジコン経験者に意見を聞いたら「『壁打ち』が一番役に立った」といわれたので、これを徹底的にやっていこうと考えました。
――「壁打ち」というのですね。そうやってビジネスプランを仲間で揉んで、磨いていくことには大きなメリットがありますね
多くの方から客観的な意見をいただけることで、自分では想像もしていなかったところに、他の方々が魅力を感じていることがわかったり。あとは、「こういう展開方法もあるのではないですか?」といった、思わぬ提案をいただくこともあります。そういう面で、さまざまなヒントが得られることが非常に多いですね。
――尖ったビジネスプランを考える人ほど、異なる視点から意見をいただくことで、得られる気づきが多いということでしょうね
そうですね。みんなでどうやって尖らせるかを考えますね。ある意味、よりクレイジーであるほうが面白いので。
――みんなでビジネスプランを尖らせる
たとえば、今年度の「『Startup!SAITAMA』新事業オーディション」(後述)の合格者の1社に、合同会社十色(といろ/さいたま市緑区)さんという農業法人があります。同社は「とうがらしで、さいたまを激辛の聖地に!」をテーマに、市内の「見沼田んぼ」でとうがらしを専門に栽培しています。
同社は今年2月、20~40代の方を対象に、日本初となる、激ウマ辛のとうがらし畑のオーナー制度をスタートさせました。激辛からウマ辛まで15種類のとうがらしを選び、1株からでもオーナーになることができ、自分の手で苗の植え付けと収穫が楽しめるというものです。
――自分で収穫したとうがらしの味は格別でしょうね。激辛で、私は食べ切れる自信がありませんが…
十色さんは起業にあたり、「とうがらしや里芋、お米なども、いろいろやりたい」とビジネスプランを考えていました。そこで、特にユニークなとうがらしの部分を専門のブランドとして見せていこうと話しました。
――とうがらしで事業を尖らせたんですね。
そうなんです。「そっちのほうが面白いよ」と。十色さんは激辛とうがらしに関する専門知識がなかったので、SNSで激辛好きのコミュニティを作り、激辛マニアの方々から品種などのアドバイスをいただけるようになりました。

 

【②オンラインフォローアップ】

 

また、事務局スタッフが、定期的にオンラインでフォローアップを行っています。経営上の課題があれば、メンターや専門家におつなぎします。ほかにも企業や金融機関を始め、さまざまな方とおつなぎする機会が多いですね。
――会員さんのフォローアップを行ううえで大切にしていることは何ですか?
スタートアップの場合は、事前の準備やマッチング、後フォローをかなり丁寧に行わなければ、おつなぎしても失敗することが少なくありません。当財団の信用力も活かしながら、失敗しないように気をつけておつなぎしていく必要があります。
ですからリアルの面会で、同席できるときは同席させていただき、オンラインでも可能なら必ず一緒にミーティングに入ります。先方もメリットがなければ会ってくれません。だから、今回セットさせていただく面会が、双方にとってどんなメリットをもたらすのかについて、事前に説明も行っています。
たしかに、スタートアップは爆発的な成長を遂げるかどうかはわかりませんし、海のものとも山のものともつかないといわれれば、その通りです。ただ、たとえば金融機関さんはスタートアップに非常に会いたがっているのも事実です。
業歴も売上もそれなりに向上し、銀行さんとの取引も多くなれば、知り合う機会も増えるでしょう。ところが地域の金融機関さんと話をしていると、「スタートアップとお付き合いしたいのですが、どんなところにいらっしゃるのですか?」とよく聞かれます。
――スタートアップ側のニーズももちろん、企業や金融機関のニーズもつかんでいるので、どういうポイントをおさえてつなぐかがわかるわけですね
まだ、なかなか難しいですけれども。
――「とうがらしで、さいたまを激辛の聖地に!」というビジネスプランを説明するとしたら、かなり考えますよね
そうですよね。どう話したらいいんだろうって、いつも思っています。面白いです。

 

【③個別オンラインメンタリング】

――起業家にとって、メンターの存在は大きいですね
最も利用されているのが、オンラインメンタリングです。人脈の少ない若いスタートアップは誰に相談していいのかわかりませんし、プロに相談すると結構な費用がかかるジャンルでもあるので、公的機関でやる意味はあるのかなと思います。なにしろスタートアップは資金が乏しいので。
――「Startup!SAITAMA」のメンタリングサービスには、どんな特徴がありますか?
まず、私ともう1人の事務局担当者がオンラインでフォローアップを行い、各メンバーがどんな課題を抱えているのかをヒアリングします。そのうえで、「このメンターの方に一度話をしてもらったらいいだろう」という感じでマッチングを行っています。
メンターには主に、ノウハウや技術、人脈などを持っている人と、背中を押す人という2つのタイプがいます。たとえば前者としては、「Startup!SAITAMA」のメンターの中に農業ビジネスの専門家や資本政策の専門家がいて、知識やノウハウを提供して下さっています。
――スタートアップの資本政策は難しそうですね
資本政策のプロの中でも、中小企業やスタートアップの支援経験がある方は少ないですね。当財団のお付き合いの中で、中小企業やスタートアップの支援経験が豊富な方がいらっしゃったので、メンターに就任していただいています。
実際、VCの出資を仰ぐことはもちろん、ストックオプションを導入するといったとき、制度面を理解していなければなりません。いざストックオプションの権利を行使する際になって、巨額の税金がかかってしまうこともあります。そこで、出資や制度導入を検討する段階で相談できる体制を構築しています。
それ以外の特徴としては、若い起業家の皆さんと年代の近いメンターが多いということが挙げられます。「Startup!SAITAMA」では20代とか30代といった、わりと若い方にメンターをお願いしています。
――そうですか。メンターの顔ぶれを見ても非常に若いですよね
会員の皆さんに近い立場で「こうすればいいよ」と、ため口で話し合えるぐらいの関係がいいのかなと思います。「Startup!SAITAMA」のメンターで一番若いROSE LABO代表取締役の田中綾華さんは1993年生まれ。「ビジコンinさいたま」出身で、「”食べられるバラ”を通して世界中の女性を美しく、健康に、幸せに」を理念に21歳で起業し、バラを配合した加工食品や化粧品などがとても売れています。
会員の皆さんと同じ目線で相談がしやすいということはもちろん、メンター自身が失敗を経験してきていることも大きいですね。その意味で、多少の失敗はしても大丈夫、大丈夫だよと背中を押してくれる方の存在は重要です。スタートアップの経営には不安がつきものですから。「Startup!SAITAMA」には、そのように精神面から会員の皆さんを支えてくれるメンターもいます。

 

「新事業オーディション」合格者には数々の特典も

――オンラインサロンの参加者を対象とする「新事業オーディション」も実施しています
今年は9社から応募があり、5社が合格しました。オーディションの合格者には、重点的に支援をさせていただいているほか、特典を設けています。まず、昨年から当財団が新たに設けた「スタートアップ・アクセラレーション補助金」制度(1社最大250万円)の審査時加点が1つ。後述の「リリースサポートプログラム&新商品合同記者発表会」にも優先して参加できるほか、オンラインサロンの会費が1年間無料になります。
――「ビジコンinさいたま」の時代も含めて、どんなスタートアップがここから育ち、活躍していますか?
最近とくに頑張っているのはONZO(オンゾー/さいたま市浦和区)さんですね。オーディオ製品をお客様の自宅に送り試聴の機会を提供する、借り放題のオーディオサブスクリプションサービスを構築し、2020年度の「ビジコンinさいたま」でグランプリおよびイノベーションズアイ賞を獲得しています。
レンタルやサブスクのノウハウを持つ同社は、新しいサービスをどんどん開発しており、最近では、ECサイトに商品のレンタル機能を簡単に導入できるD2C事業者や小売店向けの「MARVLE」サービスを開始しました。
同サービスを利用すれば、たとえばオーディオ製品や高級家電、高級時計、耐久消費財などを、ECサイトを訪れたお客様にサブスクでレンタルし、実際に使って商品の魅力を感じていただくことができるようになります。
高級品ほど、お客様が購入に至るまでのハードルが高いので、そこに「試しに使ってみて良かったら購入する」という新たな段階を設けることで、EC事業者も売る前に貸すという、新しいビジネスを展開することが可能です。
オーディオ分野だけではマーケットが小さいので、同社のサービスをどう広げていくかが大きな課題でした。高級品のレンタルという分野を切り開くという意味で、マーケットは大きく広がるのではないかと思っています。
――新しい市場、新しい消費行動を切り拓いていくような新サービスですね
また、英国で300年以上前に生まれ、現在のジンジャーエールのルーツとなった発酵ジンジャーエールを日本で初めて本格醸造し、「Craft Ginger Beer」を製造販売している、しょうがのむし(さいたま市見沼区)さんも頑張っています。同社は今年3月に千葉市の幕張メッセで開催された「FOODEX JAPAN 2022」に出展されたのですが、4日間で約1200人のお客様がブースを訪れるほどの大盛況ぶりでした。

 

商品・サービスの「見せ方」「伝え方」もスタートアップと一緒に考える

 

また、新商品・新サービスのリリースを予定している会員向けに、メンターによる個別メンタリング、 合同記者発表会事前対策セミナー、合同記者発表会個別相談会、新商品・新サービス合同記者発表会を実施しています。
――今年1月27日に第1回の合同記者発表会 が開催されましたが、どんなメディアが取材に訪れましたか?
地元の新聞やテレビ局、あとは地域メディアが中心で、最終的にテレビ放映や記事掲載が22回ありました。面白いのは、連鎖的にさまざまなメディアでテレビや新聞雑誌に取り上げられていくことです。地域の新聞やテレビで商品・サービスが紹介されたあと、NHKや民放の大手キー局などから後追い取材があり、テレビ放映や記事掲載が増えていったのです。
――合同記者発表会の事前対策はどのように行われたのですか?
たとえば個別の相談会を実施しています。もちろん、プレスリリースの文章もすべて一緒に作っています。
――どんなことを相談できるのですか?
まず、商品やサービスの何をどう見せるのかということですね。キャッチコピーも一緒に考えます。あとは、どういう見せ方で商品を紹介していくかを考え、そのスキームに沿って見せていく図や資料も作って。
――一番ノウハウが要る部分ですね。合同記者発表会ではプレゼンのポイントを、①「顧客ターゲットは誰なのか」、②「商品・サービスのコンセプトは何なのか」、③「強み(商品・サービスの強みや会社の強み、起業家個人の強み)」、④「これまでの商品と何が違うのか」、⑤「その商品・サービスを始めた意義・ターニングポイント」に設定していました
メディアの方が記事にしやすいようにまとめてもらっています。合同記者発表会での各社のプレゼンも、そのまま記事化できるレベルに仕上げています。
――記事作成も意識して、プレゼンの流れを作るところまで指導しているのですね
はい、プレスリリースの専門家の方にすべて指導していただいています。
今年1月27日に「第1回新商品・新サービス合同記者発表会」を開催。合同記者発表会に先立ち、事前対策セミナーや個別相談会なども行われた

「ありえない」アイデアとコラボが生まれるオンライン&オフラインの盛り上がり

――サロンでは、ビジネスピッチをリアルとオンラインの両方で実施していますね
実際にやってみてわかったのですが、オンラインでは、2人ならまだいいのですが、3人以上になると、雑談と脱線がほとんど生まれないのです。だいたい、スタートアップ同士のコラボは、雑談とか飲み会の席から生まれてくるものです。だからそういう場を作ることが大切だということに気づき、「Startup!SAITAMA」ではオンラインサロンとリアルサロンを交互に開催することにしました。オンラインではともすれば、要件が済んだら「ありがとうございました」といって、それっきりになることがよくありますので。
――最初からコラボありきではなく、雑談や脱線からくる盛り上がりの中で、気がついたら自然発生的にコラボが生まれるのが理想的なのかもしれませんね
おっしゃるとおりで、ある意味、ノリに任せたほうがいいのではないかと思っています。たとえば昨年、「とうがらしで、さいたまを激辛の聖地に!」の十色さんと、発酵ジンジャーエールのしょうがのむしさんがコラボし、「世界一辛いジンジャーエール」を作りました。とうがらしがたくさん入っているのですが、意外にもかなり美味しくて好評でした。
そのように、もともとの業界の発想ではあり得ないようなコラボが、次々と生まれてきますね。当たり前の考え方をしていたら、普通の商品やサービスにしかならないので。
――オフラインもオンラインも、非常に盛り上がっている感じですね
オンラインで盛り上げるのは、こんなに難しいのかと思いました。とても難しい。最初の頃はイベントにも人があまり集まらなくて、何をしたらいいのか悩みました。そこでメンバー全員に「オンラインで何をしたいですか?」と意見を聞いたら、みんなが「壁打ち」をしたいというんですね。じゃあ「壁打ち」をやろうかということになって。
(オンラインサロンのコミュニケーションに)双方向性を持たせるのはとても難しいですね。
――ネットは双方向性のコミュニケーション手段とよくいわれていますが…
オンラインでもどうやって双方向性を持たせるか。(講義などを)流すだけでは何の意味もないといわれて、そうだなと思いました。グループディスカッションなどの場も設けていかないと。ただ聞いているだけだと、メンバーの皆さんはだいたい(映像をオフにして画面の)顔を消してしまうんです。
ビデオをオフにしてほかのことを始めてしまうので。だから、メンバーの皆さんの顔が出ているかどうかで、反応がだいたいわかります。オンラインサロンでどうやってメンバーの皆さんに顔を出してもらうかは、とても悩ましいことですね。

 

リスクは厳しく指摘しながら背中を押す。地域間のスタートアップ支援の輪を広げたい

――「Startup!SAITAMA」が目標にしているのはどんなことですか?
短期的な目標としては、まずは1社でもいいので、イグジット(出口)まで伴走したいということが1つあります。長期的な目標としては、それこそユニコーンのように爆発的な成長を遂げるスタートアップを、さいたま市から輩出していきたいですね。
――イグジットとは具体的に何を意識していますか?
具体的には株式上場(IPO)まで行けたらいいですね。あるいは事業や会社を大手に売却するとか、そういう方法もありかなと思っています。むしろ、そちらのほうが現実的かもしれません。
――先ほど、「大丈夫だよ」と背中を押してくれるメンターの存在は重要だという話がありました。リスクはあっても走っていこうというマインドが、スタートアップには大切ですね
リスクについてはかなり厳しく指摘しています。それはたとえば、お客様との契約内容や法的な問題、食品を扱う会社なら衛生面など。とくに会社の存亡に関わるようなリスクですね。
――光るものを持っているスタートアップの起業家たちに、劇的な成長を遂げてもらうため、どう接していますか?
本当に、人それぞれですね。クレバーで手堅い起業家に対しては、やるべきことを1つずつ着実にこなせるようにサポートし、紹介すべき人を1人ずつ丁寧に紹介しています。一方、個性的でキャラクターが際立っている起業家に対しては、とにかくどうやって良いところを伸ばしていくかを一番に考えます。それから、会社の経営に大きな影響を与えるリスクだけは指摘しています。
――普通ではあり得ないようなコラボや、尖ったビジネスが生まれる場を作っていくことには、非常に醍醐味があるのでは?
そうですね。エッジが立った起業家たちが、人づてで「Startup!SAITAMA」に集まってきて下さっています。会員が100人いても10人しかサロンを積極的に利用して下さらないのでは意味がありません。規模を拡大することより、どれだけ活発なコミュニティを作ることができるかが大切だと思います。
――最後に抱負をお聞かせ下さい
スタートアップ支援は、まだ東京一極集中というのが現状です。そこで、地域でスタートアップ支援を行っている全国の自治体や団体とつながりながら、東京に行かなくてもスタートアップが成長できる環境を作っていきたいと思います。
実際に今、さまざまな地域で起業支援に関わっている方々とやり取りをさせていただきながら、地域間交流を模索しています。
さいたま市の起業家だけで固まってしまっても仕方がありません。地域間交流の中から新しいビジネスが生まれてくることもたくさんあるはずなので、さまざまな地域の起業家が集まるコミュニティを作っていくことができればと思っています。
「取材・構成 ジャーナリスト 加賀谷貢樹」
福田 裕子(ふくだゆうこ)
企業支援課 課長補佐
埼玉県さいたま市生まれ。出版取次大手の(株)トーハンを経て2006年より現職。
中小企業診断士として、市内スタートアップや中小企業の経営をサポートしている。
2013年より地元農家・レストラン等と「さいたまヨーロッパ野菜研究会」を立ち上げ、事務局を担当。
2021年より起業家向けオンラインサロン「Startup!SAITAMA」を立ち上げ、事務局を担当。

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