知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

第10回

ブラジルワールドカップのパブリックビューイングを勝手にやったら著作権侵害!?~伝達権にまつわる話

堀越 総明 2013年11月29日
 

特設カフェでのパブリックビューイングで、会社の業績はV字回復!?


中堅カフェチェーンA社の企画宣伝部に勤務するB主任は、熱狂的なサッカーファンとして社内でも有名です。B主任は、A社に転職してきて3年目なのですが、前に勤めていた会社を辞めた理由が、ワールドカップの南アフリカ大会を現地で全日程観戦する長期休暇が取れなかったためということです。実は、その前の会社に転職したのも、前の前に勤めていた会社でドイツ大会を観に行く長期休暇が取れなかったのが理由というから、B主任のサッカー好きは半端ではありません。

さて、ブラジルのワールドカップが近づいているのに、浮かぬ顔をしているB主任に、同僚のC主任が話しかけました。
C主任 「おいどうした?もうすぐワールドカップだろ!?今回はブラジルかー、毎日おいしいシュラスコ料理が食べられてうらやましいなー。」
B主任 「こないだD課長に長期休暇をお願いしたんだけど、やっぱり無理だってさ・・・。」
C主任 「当たり前だよ、うちの会社がそんなに長い休みをくれるわけないよー!いまから君の送別会の会場を探しておくよ!」

でもB主任は、今年で32歳です。3年前とは違って、そろそろ転職も難しくなってくる年頃になってきました。苦渋の決断を迫られたB主任は、断腸の思いで、今回はブラジル行きをあきらめることにしました。

行き場のなくなった彼のサッカー熱は、うまい具合に仕事に向けられました。社内公募の企画に、B主任が提案した「ブラジルワールドカップのパブリックビューイング in 青空カフェ」が採用され、その実行責任者に任命されたのです。
D課長 「いやー、ワールドカップのテレビ放送を、屋外の特設カフェの巨大スクリーンに放映するなんて面白そうだね~。最近は我社もコンビニのコーヒーに押されているんでね~。Bくん、ここはひとつ君のサッカーへの情熱ですばらしいイベントを作って、我社の業績のV字回復を目指してがんばってくれよ!」

パブリックビューイングの特設カフェは大盛況!でも著作権侵害の警告が・・・。


B主任は、都内に青空カフェのための屋外の会場をおさえ、保健所などの許可も取り、綿密な広告計画も立て、ついにブラジルワールドカップの初日を迎えました。巨大なスクリーンに映し出される日本代表の勇姿に、お客さんは大喜びです。

D課長 「いやー、大盛況だね~!コーヒーもビールも飛ぶように売れているねー!これがきっかけで、我社の業績もV字回復になりそうだねー!!」


しかし、伸びる売上と日本代表のゴールとで盛り上がる2人の喜びは、そう長くは続きませんでした。会場に掛かってきた1本の電話に出たB主任は、D課長の顔を見ながら、驚きの声を上げました。
B主任 「ちょ、ちょ、著作権侵害!!!???」

家庭用テレビ以外で、街中でテレビ放送を流すのは注意が必要です!


B主任は、ワールドカップのテレビ放送をそのまま大きなスクリーンで放映していました。つまり、テレビ放送をお客さんに見せていただけとも言えます。みなさんのご近所の定食屋さんや床屋さん、はたまた銀行、ホテルや空港のロビーなどでも、よくテレビ放送がかかっているではありませんか。B主任のイベントが著作権侵害ならば、これらもすべて著作権侵害をしているのでしょうか。

「著作権」とは、複製権、譲渡権、演奏権などの複数の権利の総称であり、この著作権の中には、あまり知られていない権利かもしれませんが、「伝達権」という権利があるのです。伝達権とは、放送された番組をテレビやラジオなどの受信装置を使って公に伝達する権利のことで、この権利は著作権者(テレビ番組の場合はテレビ局など)に帰属しているのです。つまり、家の中や会社の中でテレビ放送を見るのと違い、一般の人が出入りするようなお店などの場所でテレビ放送を放映する場合には、原則はテレビ局などの許諾が必要になってくるものなのです。
しかし、この原則を貫いてしまうと、街中でテレビ放送を放映することが一切できなくなり、一般の市民生活が不便で窮屈なものになってしまいます。そこで、「通常の家庭用受信装置」(家庭用のテレビなど)を使う場合は、著作権者の許諾をもらわなくても公衆でテレビ放送を放映しても良いということにしたのです。

さて、この場合の「通常の家庭用受信装置」とは、どこまでを指すのかが問題です。最近は、家庭用のテレビも大型化していますし、ホームシアター設備がある家も珍しくはありません。ここは明確な基準が示されているわけではないので、実際もとても微妙な判断が求められているところです。しかしながら、少なくとも、B主任のイベントのように巨大スクリーンを使って放映した場合や、駅前などのLED大画面などで放映した場合は、確実にNGと考えて間違いないでしょう。
街中のスポーツバーの場合は、そこでテレビ放送を流している機械が、「通常の家庭用受信装置」にあたるかどうかで決まりますので、あまりにも大きなスクリーンを使っている場合などは、著作権侵害の可能性は否めないといえるでしょう。


大型スクリーンでのテレビ放送は、非営利目的でもNGです


ところで、著作権法では、巨大スクリーンでのテレビ放映でも、「非営利」を目的としたものである場合は、著作権者の許諾は受けなくても良いとされています。「非営利」とは、そのテレビ放送を見せることに対して直接的に観覧料などをもらわないだけでなく、スポンサーから広告料を受け取ったり、観覧者に対して物販や有料での飲食の提供なども行ったりしてもいけないことになっています。B主任のイベントはこの基準からも外れてしまっていますが、それでは、もしまったくの非営利目的でこのパブリックビューイングを行っていたのならば、B主任のイベントは違法行為ではなかったのでしょうか?

この場合は、確かに「著作権」の侵害にはなりません。しかし、巨大スクリーンのような「影像を拡大する特別の装置」を使ってテレビ放映する行為は、たとえ非営利目的であったとしても、テレビ局の「著作隣接権」という著作権とは別の権利を侵害することになるため、いずれにしてもB主任のイベントは、違法行為となってしまうのです。

さて、大きなオウンゴールとなってしまったB主任ですが、D課長とともにテレビ局に平謝りし、許諾料を払って、なんとかイベントを続けることができました。D課長からは「2018年のロシア大会のときも長期休暇はなしだな。」と言われて、しょげています。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 
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ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

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