知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

第2回

キティちゃん神社の御神体はなぜ招き猫になったの??~利用許諾の範囲にまつわる話

堀越 総明 2013年3月14日
 

商店街復活を目指し、人気キャラクターの石像を御神体とした神社が完成

東京の百貨店で企画宣伝の仕事をしていたA子さん。10年間のちょっぴり長い修行を終えて、この春、生まれ故郷に帰ってきました。早速、A子さんは、実家の洋品店が加盟するイノベーション商店街の青年部長に着任し、商店街の再生を託されることとなりました。
A子さんは、シャッターの下りた数々の空き店舗を見ては大きくため息をつきました。活気あふれる商店街で幼少時代を過ごしたA子さんは、この町の商業の衰退がやりきれません。数年前に隣町に大型ショッピングモールができてからは、幼なじみの商店主もまた一人また一人と廃業に追い込まれています。

商店街再生に向けて、毎日知恵を絞っているA子さんですが、新しい企画はすっかり煮詰まっています。そんなある日、東京から遊びに来た百貨店の元同僚たちとおいしい地酒を飲んでいると、一番の仲良しのB美さんがA子さんに話しかけてきました。
B美さん 「ねぇねぇA子。このあいだうちの百貨店で、『キャロライン』のイベントをやったんだけど、すっごいお客さんが集まったのよ。」
A子さん 「『キャロライン』って子犬のキャラクターでしょ?いま若者に爆発的な人気よね。」
B美さん 「たしか『キャロライン』の作者って、この町の出身よ。」
A子さん 「えっ!本当!?」
B美さん 「『キャロライン』を御神体にした神社を造って、観光名所にするってのはどう?」
A子さん 「それよ!!B美、ありがとう!!」

翌日、A子さんは居ても立ってもいられず、早速キャロラインの著作権を管理するC社に出かけ、担当のD山さんにお願いしました。

A子さん 「キャロラインの石像を作りたいんですが。」
D山さん 「その石像はどのようにお使いになるのですか??」
A子さん 「あのー、内々でちょっと使わせていただくだけなんですけど。」
D山さん 「個人的に使用されるのでしたら問題ないですから、どうぞお作りください。」

これでA子さんのテンションはますます高くなりました。商店街の臨時の理事会を開き、「キャロライン神社」のほこらの設計を検討し、すぐに地元の工務店に建設の発注をしました。
神社のほこらと程なく完成したキャロラインの石像を抱きしめるA子さん。そして、地元の名士も招いて、除幕式を盛大に行いました。しかしその数日後、喜ぶA子さんのもとにD山さんから1本の電話が・・・。

A子さん 「おかげさまでキャロライン神社は大盛況ですよ!これでイノベーション商店街も復活しそうです。ありがとうございます!」
D山さん 「A子さん、困ります!!」
A子さん 「どうしたんですか??」
D山さん 「キャロラインの石像は個人的に使用するって言ったので、許可したんですよ!すぐに石像を撤去してください!!」
A子さん 「そ、そんな・・・ご、ご、御神体のキャロラインを・・・撤去ですって!?」


キティちゃん神社の御神体はあえなく招き猫に・・・

ここまでのお話はフィクションですが、これと似たお話が先日、山梨県甲府市で起こりました。ある商店街が、サンリオの人気キャラクター「ハローキティ」の石像を作り、キティちゃん神社で町興しをしようとしたところ、その除幕式が報道されたニュースを見たサンリオから「ハローキティの使用は許諾していない」と物言いがつき、早々に石像が撤去されたという事件です。キティちゃんの石像が撤去された後には、代役で招き猫が設置されたことも話題となり、いくつかのニュースで報道されました。

この事件について、「サンリオの許諾をもらっていなきゃダメに決まってるじゃないか」という意見がインターネット上でも多かったのですが、私が興味深いと思ったのは、この商店街連盟の会長さんは、キティちゃんの石像を作ることの許諾を事前にサンリオまでもらいに行っているという点です。

報道によると、会長さんが「ちょっとしたほこらを作りたい」とサンリオに申し出て、サンリオは「片隅に置いておくくらいなら」ということでOKを出したところ、大勢のダンサーまで踊る派手な除幕式のニュースに驚いて、「家庭内で楽しむような個人的使用と聞いていたがまったく違う」とキティちゃんの石像の撤去を求めたそうです。会長さんは、「内諾を得たと思っていた」と述べたようです。

著作権のライセンスを受けるときは様々な条件を確認することが必要です!

この行き違いはどうして起こったのでしょうか?原因は2つ考えられると思います。1つは、著作物の利用許諾(ライセンス)の範囲が原因となっている場合です。

自分の著作権を他人にライセンスしたり、または譲渡したりするときには、その権利の「全部」をライセンスなどの対象にする必要はありません。サンリオなどのライセンサーが、「ハローキティのグッズを作っていいですよ」というライセンスを様々なメーカーに与えるときは、通常は「ぬいぐるみに限る」とか「ボールペンに限る」といったようにアイテムを限定して行うものです。また、販売地域を「関東に限る」とか「北米に限る」といった限定もよく見かけます。

この事件のケースでは、おそらく「石像に限る」といった約束は守ったことになるのでしょう。しかし、今回のライセンスに際しては、「石像に限る」というアイテムの限定のみならず、その石像の使用方法も限定されていたのではないでしょうか。おそらくサンリオは、「片隅に置いておく」と会長さんが説明した使用方法に限って、キティちゃんの石像の製作を許諾したのでしょう。しかし会長さんは、サンリオの「石像を作ってもいいですよ」という言葉でうれしくなり、この「片隅に置いておく」という使用方法の限定をすっかり忘れてしまった(または忘れようとした??)のではないでしょうか。

紛争防止のため、著作権のライセンス契約は文書で取り交わすことが大切です!

もう1つは、私的使用の範囲が原因になっている場合です。そもそもサンリオの担当者は、キティちゃんの石像は家庭内で楽しむ個人的使用というように理解していた可能性も高いと思われます。
もし私的使用だとすれば、サンリオの許諾をもらうまでもなく、キティちゃんの石像を自由に製作することができます。しかし、私的使用が認められる「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」とは、家族に準ずる程度の親密かつ閉鎖的な関係であることが必要であり、友人や職場仲間の間での使用でもNGとされています。商店街を訪れる多くのお客様に楽しんでもらうために、ハローキティの石像を展示するのは当然ながら私的使用にはあたらないでしょう。

著作権のライセンスは、これまで述べてきたアイテムや販売地域などの限定のみならず、グッズのクオリティの維持や広告宣伝でのイラストの使用など、事前に取り決めておかないと、後々トラブルになることが予想される事項が多々あります。よく知った者同士の関係であっても、口頭での約束のみではなく、文書による契約を取り交わすことをおすすめします。

さて、キャロライン神社ですが、A子さんの商店街復活にかける思いが通じて、後日C社とイノベーション商店街との間で「著作物利用許諾契約書(ライセンス契約書)」が正式に取り交わされ、めでたく全国から観光客を集める地域のシンボルとなったそうです。

※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 
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ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

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