ドラッカーから起業を学ぶ
第24回
顧客を創造する方法
「一つお聞きして良いですか?」
「もちろん、何なりと。」
「私は駅前で雑貨品を販売している長崎といいます。」
「こんにちは。長崎さん。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。で、伺いたかったのは、最近、私のお店の売上が芳しくないことなんです。」
「ほう、原因は何ですか?」
「インターネット販売が加速していることに加えて、近くに競合店ができたことが原因のようです。みなさん、目新しいお店ができるとすぐに移ってしまわれるので。」
「そうですか。競合店の出現は、確かに頭の痛い問題ですね。」
「何か良い方法は、ないのでしょうか?」
「ドラッカーの言葉から、考えてみましょうか?」
「えっ、ドラッカーが、競合が現れた場合にどうすれば良いのか、アドバイスしているのですか?」
企業の目的:顧客の創造
「いいえ、競合が生じた時にどうすれば良いかを個別・具体的に示している訳ではありません。但し考え方は示していると思います。今、私に浮かんだのは、ドラッカーが示した企業の目的です。」
「企業の目的ですか?それは何ですか?」
「ドラッカーは企業の目的は『顧客の創造』だと言っています。」
「ああ、聞いたことはあります。しかしそれは新製品開発などのことを指しているのでしょう。私のような単なる雑貨店では、顧客の創造などできません。」
「そうですかね。もしそうだったら、ドラッカーは『企業の目的』とは言っていないと思いますよ。『新製品開発の目的』などと表現していると思います。」
「なるほど。しかし、それにしても、私がどうやって顧客の創造ができるか、全く思いつきません。」
「そう言わずに、考えてみましょう。」
「はい。」
どんな時に顧客が創造できるか
「ご自分のイメージだと、顧客の創造とはどんなことですか?」
「さっきも言いました。新製品を開発した時などです。今まで実現できるとは誰も思っていなかったことを、ある製品が実現してくれるとなると、それが欲しくなる顧客がいるでしょう。それが、顧客の創造です。」
「そうですね。それが典型例だと、私も思います。」
「何か例外的な方法でも、あるのですか?」
「いや、特段に例外的なという訳ではありませんよ。ただ、その発想法は新製品に限らず、使えるのではないかと思って。」
「例えばどんなことですか?」
「例えば、既存の製品でも発想を変えれば新しい用途に使えます。インターネットは、最初は軍事目的のために開発されたので一般人は使うことはできなかったというお話を、お聞きになったことはありませんか?」
「それは聞いたことがあります。」
「そうなんです。インターネットは世界を一変させたと言われていますが、それはインターネットが開発されたというよりも、当初の目的外に転用されたことによるというべきなのかもしれません。」
「確かに。」
今まで知られていない価値を提案して顧客を創造する
「この例を、雑貨屋さんに適用することはできないでしょうか?」
「私のお店にですね。あ、テレビでタレントさんがちょっとした雑貨品を使ってインテリアにしたり、収納スペースを作ったりしているのを見ることがあります。それをお店で再現すれば、番組を見ていなかった人も、そういう用途に気が付くことができますね。」
「いいアイディアですね。他にはないですか?」
「私、雑貨が本当に好きで、いろいろな本で勉強したりもしているんです。同じ用途の雑貨でも国によって大きく形が変わっていたり、いつも目にする雑貨の意外な誕生秘話とかが載っています。」
「そんな本、私も読んだことがあります。ステープラー(ホッチキス)の誕生秘話は、面白かったですね。」
「そういう情報を、ポップなどで紹介できるかもしれませんね。喜んでくれるお客さんも、いそうです。」
「その調子です。こうやって考えてみると、ある商品を今まで使わなかったお客様に『あれっ。これ良いな』と思ってもらえる方法、沢山ありそうな気がしませんか?」
「仰る通りです。」
「今まで振り向きもしなかったお客様が、あなたの書いたポップなどを見て『この雑貨には、こんな用途があるんだ。面白そうだな。自分もやってみようかな』と思ったら、それは顧客を創造したことにならないでしょうか。」
「しますね。私も、それを実行してみたくなりました。」
「ぜひ、頑張ってみてください。」
コラムドラッカーから起業を学ぶ
- 第1回 起業家が最初に考えなければならないこと
- 第2回 ビジネスモデルのブラッシュアップ
- 第3回 顧客との関係を築く
- 第4回 ビジネスパートナーとの関係も築いていく
- 第5回 ミッションとビジネスモデルの関係
- 第6回 なぜ計画を使うのか(前編)
- 第7回 なぜ計画を使うのか(後編)
- 第8回 ドラッカーが勧めたフィードバック
- 第9回 副業を考えた時
- 第10回 ビジネスモデルから体制作りへ
- 第11回 マーケティングを始点とする
- 第12回 競合がないのは良いことか
- 第13回 暗中模索で使うPDCAサイクル
- 第14回 5つの質問で詳細を固めていく
- 第15回 5つの質問から顧客にとっての価値を深掘りする
- 第16回 PDCAのサイクルを臨機応変に設定する
- 第17回 従業員を取り込んだ事業モデルを考える
- 第18回 社会を取り込んだ事業モデルを考える
- 第19回 誰からどのように資金調達するかを考える
- 第20回 マーケティングを始める
- 第21回 なぜドラッカーから学ぶのか
- 第22回 なぜドラッカーから学ぶのか(ユニークな体系)
- 第23回 オペレーションが先か、マーケティングが先か
- 第24回 顧客を創造する方法
- 第25回 イノベーションで顧客を創造する
- 第26回 恐怖によるマネジメントと方向合わせによるマネジメント
- 第27回 マネジメントの方法
- 第28回 人材育成というマネジメント
- 第29回 プロフェッショナルのネットワーク
- 第30回 状況を前提にした戦略を練る
- 第31回 苦労にではなく成果に注目する
- 第32回 マネジメントのシステム化
- 第33回 方向合わせマネジメントで自己管理目標の実現を支援する
プロフィール
StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫
(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!
<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』