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ドラッカーから起業を学ぶ

第8回

ドラッカーが勧めたフィードバック

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「先日、我が社の立上げについてご相談した時、まずは計画を立て、PDCAサイクルを回していくようにとアドバイスを頂きました。」

「そうですね、そのようにご提案させて頂きました。」

「その話を仲間の経営者に話したんです。すると彼からは、先生について、あまり信頼できない人だからアドバイスは受け入れないようにと言われてしまいました。」

「そうなんですか?その人は、なぜ、そのように判断されたのでしょう?」

「彼の言い分は、ドラッカーはPDCAを勧めてはいない。だから、PDCAサイクルを勧めるとは、ドラッカーをきちんと理解していないに違いないということでした。」

「そうなんですか。」

「反論しないのですか?」

「反論はしませんよ。確かに、ドラッカーはPDCAを勧めてはいませんからね。」

「とすると先生は今まで、私のことを騙していたのですか?」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。」

「仰っている意味が、全く分かりません。」


ドラッカーが勧めたのはフィードバック

「ドラッカーはPDCAサイクルは勧めていません。フィードバック分析を勧めたのです。」

「ん?」

「ドラッカーは『プロフェッショナルの条件』で、目標やビジョンをスタートとすることや、新しい仕事が要求するものを考える、書きとめておくことなどを勧め、定期的に検証と反省を行うよう示しています。」

「計画のうち、何がうまくいって、何がうまくいかなかったか、フィードバックしてチェックする訳ですね。」

「誰にでも実行できて成果をあげられるツールとしてフィードバックを勧めているのだと思われます。」

「そうでしょうね。」


フィードバックの一形態:PDCA

「私は計画を立て、PDCAサイクルを回していくよう、お勧めしました。ドラッカーのフィードバックの提案と、どこが一緒で、どこが違うと思いますか?」

「計画を立て、振り返りをするということは一緒ですね。そうやってみると、どこが違うのだろう?」

「PDCAで言うと、PとCは同じと言うことですね。」

「そうか、DとAが違うんだ。」


DOしか想定しないPDCA

「そうです。PDCAの場合、計画の次に来るのはDO、実行ですが、それしかありません。一方でドラッカーのフィードバックの場合には、DO以外も来ることができます。」

「えっ、それは何でしょう?」

「何でも良いのですよ。自分一人でもう一度考えても良いし、他の人と議論しても良いです。もちろん、実行しても良いと思いますが。」

「そうか。DO以外も許容する広がりがあるのですね。」


Aしか想定しないPDCA

「同じように、PDCAではCの後にはAしか想定していません。」

「AとはAction、つまり、フィードバックしてうまくいっていないと判明した場合には、対策を執ることでしたね。」

「フィードバック後の対応として、A以外、どんなことが挙げられると思いますか?」

「何もしないとか?」

「良い答えですね。どんな時に、それが適当なのでしょうか?」

「いやいや、当たっているとは思わず、おふざけで答えたのですが。」

「いいえ、良い答えでしたよ。例えば現状の苦境を打開しようと、新分野への進出を考えている経営者がいたとしましょう。」

「なるほど。」

「例えば料理器具を製造していた企業ですが、それを生かしてガーデニング器具に進出しようとしたとします。」

「はい。」

「料理器具を製造できるノウハウがありますから、たいていのガーデニング器具は製造できます。でも、ガーデニング器具市場で成功するためには、それだけがポイントではありませんね。」

「そうですね。ブランド力や販路など、いろいろな要素が関わっていると思います。」

「ということで、一年間頑張ってみたけれど、ガーデニング市場は難しいので進出はあきらめる、そういう判断もあり得ます。」

「確かに。」

「フィードバックの場合には、このように、今までやってきたことをあきらめるという選択肢もあり得ます。しかしPDCAには、この選択肢はありません。」

「どんな時にも、同じテーマで改善することが前提となっているのですね。」


PDCA:必ず実行が伴い、改善が伴うフィードバック

「以上の事情を考えて頂くと、私がPDCAサイクルをお勧めした理由が、わかっていただけるのではないかと思います。」

「ドラッカーは、フィードバックを勧めていた。そして私の場合は、行動することが必要だったという訳ですね。」

「そうなんです。ご質問頂いた経営の立て直しについて、私は、従業員のみなさんとのコミュニケーションをもっと豊かに、円滑にするようご提案しました。どんなコミュニケーションを行うかを計画したら、次は実行しかありません。」

「確かに、コミュニケーションの計画を立てておきながら、実行もせずに見直すことはありませんね。」

「そして、チェック後に、コミュニケーションの改善をあきらめることもないと思います。」

「確かに、コミュニケーションがうまくいかないから、それ以外の方法で何とかしようとは思いませんよね。とにかく、コミュニケーションを改善していくことになると思います。」


PDCAが適切な場合

「一つお聞きしてよいですか?では、どんな時、PDCAではなくフィードバックが良いのでしょうか?」

「私の経験からすると、戦略の場合には、柔軟な観点や姿勢で見直しが必要になります。いざという時には現在の試みを止めるという選択肢を持つ必要があるのです。このような場合には、PDCAではなく、フィードバックを行うことが勧められます。」

「なるほど。」

「一方で、マネジメントが課題になっている時には、ほとんどの場合、PDCAサイクルで良いかと思います。」

「計画の後には実行がある、チェックの後は改善するという訳ですね。」

「そうなんです。」

「よく分かりました。ドラッカーはPDCAサイクルは言っていませんが、こと私の事例では、ドラッカーのフィードバックを実践するとは、PDCAサイクルを回すこととイコールだったわけですね。」

「そういうことです。」

 

プロフィール

StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫


(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!

<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』


Webサイト:StrateCutions

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