これだけは知っておきたい商標の話

第4回

商標登録しても使用しないと取り消されるの!?~不使用取消審判にまつわる話

堀越 総明 2017年8月16日
 

起業を目前に長年温めていたブランド名「イノーベ」を商標登録!


大手百貨店で婦人服のバイヤーをしているAさんは、半年後には早期退職制度を利用して会社を辞め、小さなアパレルメーカーを起業することを決意しました。Aさんは、若い頃から自分のアパレルブランドを立ち上げることが夢でした。これまで精力的に開拓してきた若手ファッションデザイナーとのネットワークを活かして、大手アパレルメーカーに負けないトップブランドを育てるつもりでいます。

Aさん 「優秀なデザイナーも揃ったし、商品を卸す小売店も少しずつ決まってきたぞ!」
起業の準備が順調で、心が弾むAさんです。そして、友人にたまたま弁理士がいたこともあり、商標登録の重要性も十分に理解しています。
Aさん 「商標登録をきちんとしておかないと、他社にブランド名をマネされるだけでなく、もし他社が先に同じブランド名で商標登録を受けてしまったら、そのブランド名を自分は使用できなくなってしまうんだ。今のうちに、商標出願しておかないと!」

Aさんは、すぐに友人の弁理士に依頼して、長年温めていたブランド名「イノーベ」について商標出願し、無事に商標登録を受けることができました。特許庁から立派な登録証も送られてきて、Aさんはご満悦です。
Aさん 「準備万端だ。あとは会社に退職願を出すだけだ!」

3年後ようやく起業したAさんのもとに不使用取消審判の請求が!


しかし、Aさんがいざ退職願を書いていると、なんと奥さんのB子さんが今更ながらAさんの退職に猛反対してきました。なんでもB子さんは、Aさんが本気で会社を辞めるとは思っていなかったということです。
それもそのはずです。Aさんは今年で45歳になり、気力も体力も若いころのようにはいかない年齢になってきました。しかも、まだ小学生の子どもがいるので、収入が不安定になることは大きなリスクとなります。Aさんは、仕方なく当面の間起業はあきらめ、引き続き大手百貨店で働くこととなりました。

それから3年の年月が流れました。「イノーベ」を立ち上げる夢を持ち続けていたAさんは、婦人服のバイヤーの責任者に出世したところ、独立するなら提携したいという大手ECサイトが現われ、起業に向け、ついにB子さんのOKをもらうことができました。
「私も応援するわね。がんばって!」とB子さんと独立の祝杯をあげたAさんでしたが、その翌日、Aさんのもとに知らない会社から1通の内容証明郵便が届きました。
Aさん 「『イノーベ』の商標登録を取り消す審判を起こすだって!!何言ってるんだ!『イノーベ』は、もう3年も前に、ボクが特許庁から商標登録を受けているんだ!!」


商標登録を受けるためには「商標を使用する意思」が必要です


Aさんは、確かに3年前にブランド名「イノーベ」について、正式に商標登録を受けています。それなのに、なぜ今になって、知らない会社からその商標登録を取り消す審判を起こすなどと言われることになったのでしょうか?

実は、商標登録を受けるための重要な要件のひとつとして、商標登録の出願人には「商標を使用する意思」が必要とされています。なぜなら、商標権というのは、事業者が商標を使用することによって、その商標に蓄積された「業務上の信用」を保護するものだからです。

そのため、アメリカなどでは、実際に商標を使用していることを証明しないと商標登録を受けられないことになっています。日本では、そこまで厳格ではなく、Aさんが「イノーベ」の商標出願をしたときのように、実際にまだ使用していない商標でも、とりあえず商標出願したことで「商標を使用する意思」があるものとみなされて、商標登録を受けることができるようになっています。

3年間使用しない商標は商標登録を取り消されてしまうことがあります!


しかし、商標登録を受けた後に、長期間にわたって、実際にその商標が使用されなかったとしたら、どうなるでしょうか?商標権が保護すべき「業務上の信用」も発生しませんし、何より、そのようにまったく使われない商標登録をいつまでも認めてしまっていたら、新しいブランド名で事業をしようという人たちが、ブランド名を決める際に、その選択の余地が少なくなってしまうという問題が生じてしまいます。

そこで、日本では、継続して3年以上使用していない商標の商標登録は、誰もが、特許庁に不使用取消審判を請求することにより、取り消すことができることになっているのです。

Aさんは、友人の弁理士に相談しましたが、Aさんが商標「イノーベ」をこの3年間使用していなかったことは事実だったため、残念ながら「イノーベ」の商標登録は取り消されてしまいました。しかし、起業を目前に情熱があふれ出すAさんは、前向きに新しく別のブランド名を考え、そのブランド名の商標登録も無事に済ませ、今度はすぐにその商標の使用を開始すべく、製品の具体的な発売スケジュールを立てているということです。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※本コラム記事に登場する商標はすべてフィクションです。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。


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ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
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