これだけは知っておきたい商標の話

第3回

同じ商標を使用しても商標権侵害にならない場合があるの??~指定商品・指定役務にまつわる話

堀越 総明 2017年5月15日
 

昭和の自転車屋さんが念願のオリジナル自転車の開発を決断!


東京郊外のベッドタウンで自転車販売店「イノベーション輪業」を経営するAさん。昭和の時代は、大人用の自転車から幼児用の三輪車までよく売れたものでしたが、最近は住民の加年化が進み、お店の売上も低迷しています。Aさんは、今日も時間を持て余し、古くからの常連客Bさんとおしゃべりをしています。
Aさん 「オレも歳だしな・・・。もうそろそろ店を畳もうかな。」
Bさん 「また、その話ですか。おやじさんがいないと、この街の自転車のパンクは誰が修理するんですか?それはそうと、おやじさんは、いつかお店のオリジナルブランドを立ち上げる夢があるって言ってたでしょ?いつやるんですか!?今でしょ!!」
Aさん 「そのネタ古すぎだよ。でも確かに、Bさんの言う通り、夢で終わらせたくないよな。自分がとことんこだわった自転車を作って、オリジナルブランドで販売してみるか!」
Bさん 「ボクも協力しますよ!その自転車で、夢はでっかくツール・ド・フランス制覇といきましょう!」

オリジナル自転車のブランド名、その名も「イノベーラ」!


その翌日から、早速、Aさんはオリジナル自転車の開発を始めました。Bさんの息子さんで、大学院工学研究科の学生Cくんの全面的協力を得て、開発は順調です。そして、間もなく、イノベーション輪業オリジナル第1弾の自転車が完成しました。
Aさん 「ついにやったぞ!Cくん、ありがとう!」
Cくん 「この自転車には、最新の研究成果を詰め込みました。海外の自転車にも決して引けを取りません。」
Bさん 「よし!これでツール・ド・フランスを狙うぞ!ところで、ブランド名はどうするんですか??」
Aさん 「ブランド名は、もう決めているんだ。その名も『イノベーラ』だ!」

なんと大手自動車メーカーの新車名も「イノベーラ」に・・・


オリジナル自転車第1弾の発売に向けて、Aさんは早速、知り合いの弁理士Hに依頼して、「イノベーラ」の商標登録を済ませました。そして、Aさんは無事「イノベーラ」の発売にこぎつけました。「イノベーラ」の販売台数は思ったほどではありませんでしたが、一部の自転車マニアには評判になり、Aさんの心は達成感に満ち溢れています。「やっぱり夢に挑戦して良かった!」と喜ぶAさんでしたが、お店のテレビに映し出された大手自動車メーカーD社のCMを見て、驚きました。なんと、D社の新車のブランド名も、「イノベーラ」というではありませんか。

その翌日、Aさんは店番をしていると、お客さんがウインドウ越しに「イノベーラ」を見ながら、「あらイヤだ、「イノベーラ」だって。D社の自動車のパクリじゃない。」と、ヒソヒソ話をしています。Aさんは、これには我慢がなりません。
Aさん 「『イノベーラ』はウチが最初に商標登録を受けているんだ!D社め!商標権侵害で訴えてやる!」


同じ商標を使用しても指定商品が類似しなければ商標権侵害にはなりません


確かに、Aさんは、オリジナルブランドを新しく立ち上げるときに、弁理士Hに依頼して、きちんと「イノベーラ」の商標登録を受けています。ということは、Aさんに無断で「イノベーラ」の商標を自動車に使用しているD社は、Aさんの商標権を侵害しているのでしょうか?

実は、商標登録を受けるときには、その商標を使用する「商品」や「サービス(役務)」を指定する必要があります。商標登録を受けた人(商標権者)は、その指定した商品やサービスについてのみ、その商標を独占的に使用する権利が与えられることとなります。
つまり、逆を言えば、その指定した商品やサービスと類似するもの以外については、他人も自由にその商標を使用することができますし、またその後、他人が、その類似するもの以外の商品やサービスを指定して商標登録を受けることもできるのです。

このように規定されている理由は、その商標を使用している商品やサービスが類似していなければ、同じ商標を他人が使用したとしても、消費者にとって、その商品やサービスの提供元を間違えることもなく、自分も他人もお互いに業務上の信用を害されることがないといえるからです。

イノベーション輪業は、商標「イノベーラ」について、商品「自転車」を指定して商標登録を受けました。しかし、商標の制度では、「自転車」と「自動車」は類似しない指定商品とされているので、Aさんにとっては残念ですが、D社が「自動車」に商標「イノベーラ」を使用しても、まったく違法ではないのです。

Aさんは、弁理士Hからこのことを聞かされて肩を落としたものの、「イノベーラ」は、自転車の性能の高さが徐々に評判を呼んで販売台数を伸ばし、今では「自転車の『イノベーラ』はイノベーション輪業」という信用がすっかり定着してきました。Aさんは、すっかり元気になり、「80歳まで店は畳まないぞ!」と言いながら、毎日充実した日々を過ごしています。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※本コラム記事に登場する商標はすべてフィクションです。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。


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所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
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○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
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