これだけは知っておきたい商標の話

第2回

長年使っている商標なのにある日突然使用できなくなるの!?~先使用権にまつわる話

堀越 総明 2017年3月21日
 

江戸時代から販売している看板商品の商標をいまだ商標登録していないことが判明!


東京下町の老舗和菓子屋「猪野部(いのべ)堂」では、元パティシエの15代目Aさんと、その父親で14代目店主Bさんの2人で、江戸時代から続く伝統の味を守るため、今日も朝から丹精込めてお菓子作りをしています。
Aさんは、前回のコラムで「きんつばモナムール」の商標調査を怠り、「きんつばジュテーム」に商品名の変更を余儀なくされ、売上に大きな打撃を受けましたが、その後売上は徐々に回復してきたため、ホッと一息ついています。

二度と同じ過ちはしないと誓ったAさんは、猪野部堂の他の商品についても、きちんと商標登録しようと思いました。そのなかでも特に気になっているのが、江戸時代から販売している看板商品のお饅頭「参勤交代」の商標登録です。「参勤交代」は、埼玉県や千葉県からも買いに来るお客様がいて、今でも毎日完売する人気ぶりです。Aさんは、長年「参勤交代」を作り続けてきたBさんにたずねました。

Aさん 「父さん、『参勤交代』って商標登録してないの!?」
Bさん 「しょうひょうとうろく???」
Aさん 「商標登録しておかないと、他の店が先に『参勤交代』の商標登録を受けてしまったら、ウチの店はもう『参勤交代』の名前でお饅頭を売れなくなってしまうんだよ。」

「参勤交代」の商標登録はあえなく大手菓子メーカーに先を越されることに!


Aさんは心配になり、すぐに弁理士Hに電話して、「参勤交代」の商標登録出願を依頼しました。すると、間もなく、弁理士HからAさんに電話が掛かってきました。こともあろうに、商標「参勤交代」は、6年前に、またもや大手菓子メーカーC社が商標登録してしまっているということです。それから数ヶ月後、ついにC社から商標「参勤交代」の使用を中止するように、内容証明郵便の警告書が送られてきました。頭を抱えるAさんでしたが、Bさんは江戸っ子らしく強気です。

Bさん 「『参勤交代』の使用を中止しろだと!?おととい来やがれってんだ!ウチは『参勤交代』を寛永三年から売ってるんだぞ!家光公だって召し上がった饅頭なんだ!」



商標登録していなくても例外的に商標の使用が認められる場合があります


Bさんの気持ちはよくわかります。確かに、猪野部堂は、寛永三年から「参勤交代」という商標を使用してお饅頭の製造販売を行っているようです。それでは、Bさんの主張通りに、猪野部堂は引き続き「参勤交代」という商標でお饅頭を製造販売し続けることができるのでしょうか?

商標登録を受けると、商標権者は、その商標をその指定商品(今回の場合は「菓子」)について独占的に使用することができます。これが原則です。
商標「参勤交代」について、C社が商標「参勤交代」について先に商標登録を受けてしまったので、猪野部堂は、商標権者のC社からライセンスを受けない限り、もう商標「参勤交代」を使用することができなくなりそうです。

確かに、猪野部堂は、長きにわたり商標登録を怠ってきたわけですから、商標「参勤交代」を使用できなくなるのは当然の報いだといえるかもしれません。
しかし、猪野部堂は、江戸時代から300年以上もお店の看板商品に商標「参勤交代」を使用してきました。商標登録していなくても、その商標には、猪野部堂の信用がたっぷりと染みついていることでしょう。それにもかかわらず、C社の商標登録により、猪野部堂に商標「参勤交代」の使用を中止させてしまうのは酷であり、かえって公平性を失うことになりかねません。

そこで、商標法には、「先使用権」という規定が設けられています。猪野部堂が商標登録していなくても、C社が商標登録出願した時点で、猪野部堂の「参勤交代」がすでに近隣県において有名になっていて、特に今回のように長期間に渡ってその商標を使用し続けているような場合は、例外的に、猪野部堂は引き続き商標「参勤交代」を使用し続けることができることとなっています。

先使用の証明は煩雑ですので、まずはきちんと商標登録することが大切です!


ただし、C社から「商標権侵害だ!」と言われたときに、先使用権を主張するのは結構大変です。すでに猪野部堂の「参勤交代」が近隣県において有名になっているという事実、その商標を長期間使用し続けているという事実を証明する証拠を提出し、裁判所などに認めてもらう必要があります。こうした煩わしさを避けるためにも、商品名・サービス名などの商標は、他社に先んじて商標登録出願し、きっちりと商標登録しておくことが何より大切です。

さて、AさんとBさんは、弁理士Hから先使用権の説明を受けて少し安心したものの、弁理士Hの指示に従い、「参勤交代」が近隣県においてすでに有名になっている証拠を集めるのに毎日てんてこ舞いです。気の短いBさんは、その面倒くさい作業にすっかり音を上げてしまい、「これから新商品を発売するときはしっかりと商標登録するよ」と言って、反省しているようです。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※本コラム記事に登場する商標はすべてフィクションです。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。


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所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
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