頑張れ!ニッポンのものづくり

第5回

岐路に立つものづくり振興・支援事業
――中小企業の「ものづくり力」活性化の起爆剤となるか

 

「地域発イノベーション」と「地域ブランド」を新たな活力に

セルロイド雑貨
葛飾ブランド「葛飾町工場物語」認定品の1つであるセルロイド製のペンケース。約20年ぶりにセルロイド雑貨が復活した。商品裏に貼られたシールには「カツシカセルロイド MADE IN TOKYO JAPAN」の文字が

東日本大震災から3カ月余りが経ち、各企業は生産正常化への努力を続けているが、「材料がなかなか入ってこない」「取引先が海外にシフトするのではないか」などの声も同時に聞こえてくる。被災地では事業再開の見通しが立たない企業もあるなか、今回の震災で大きな被害をこうむった国内のものづくりをいかに立て直し、活性化していくのかという政策が、今後より重要性を増すのではないかと思われる。

そこで今回は、各地でどんなものづくり振興・支援事業が行われているのかを取り上げてみたい。ごく一部に過ぎないが、これまでに訪れた地域の取り組みで印象深かったものを中心に、いくつか例を挙げてみることにする(すでに本連載で取り上げたものは除く)。

その1つの動きが、地域のものづくりの特色を活かしたイノベーション。たとえば東京都板橋区では、60年代初頭に同区内から出荷された双眼鏡や単眼鏡などの光学・精密機器製品が、日本の主要精密機械輸出額の約7割を占めた歴史を持つ。日本で最初に体重計を製品化し、ヘルスメーターで世界のトップシェアを誇るタニタなど、その道のパイオニア企業も数多い。こうした強みを活かし、同区では「健康、環境、光・色彩」をテーマにした新産業育成に取り組んでいる。「健康」分野では健康管理(カロリー・体脂肪などの測定器)など、「環境」分野では省エネルギー商品・システム等が有望視されている。「光(光学)」分野についてはレーザ発信器、特殊レンズおよびレンズユニット、各種測定器。「色彩(印刷)」ではICカードやICタグなどの研究が、企業レベルで進んでいる。

また栃木県宇都宮市では、人々の移動性を高めるための技術を創造する「次世代モビリティ産業集積戦略」を推進中。同市およびその周辺地域では、自動車産業を中心とする輸送用機械器具製造業、航空宇宙産業、ロボット産業などが盛ん。自動車・航空宇宙・ロボット・情報通信の四つの産業の集積を進め、2020年を目標に「次世代モビリティ産業と、快適で住みよい暮らしが集積した産業集積都市」の実現を目指す。

一方、地場のものづくり資源を掘り起こし、産地としての差別化を図ろうとする、地域のものづくりブランドを推進する動きも目立つ。

【地域のものづくりブランドの例】

  • 「盛岡ブランド」(岩手県盛岡市)
    食品・工芸品などを対象に、確かな品質・技術を伝える盛岡生まれの地場産品を認定。首都圏や関西圏などで毎年行われる総合イベント「盛岡デー」でも同ブランド品を出展
  • 「葛飾町工場物語」(東京都葛飾区)
    同区内の町工場がつくる逸品をブランド認定し、商品が生まれた背景をマンガや記事で紹介するなど、積極的にPRを行っている
  • 「かわさきものづくりブランド」(神奈川県川崎市)
    市内の優れた工業製品を発掘・認定し、情報発信を行っている。05年3月以来、毎年7回のブランド認定が行われており、認定品がメディア記事に取り上げられることも多い
  • 「Koo-fu(クーフー)」(山梨県甲府市)
    同県の地場産業であるジュエリーの産地ブランド。甲府市出身の世界的プロダクトデザイナー、深沢直人氏が同ブランドを監修したことでも話題に。オリジナルのプラチナ素材を貴金属業者と共同開発した
  • 「FUTON-STYLE」(広島県府中市)
    高級桐タンスの産地として名高い同市が推進する産地ブランド。「フトンでもベッドでもない」独自のトータルベッドルームを提案している

ブランドに認定された製品をどう販路に乗せ、普及・展開していくのか、などの課題も少なくない。だが各地を取材してより強く感じるのは、地域イノベーション然り、地域ブランド然り、横の連携・展開を検討する余地があるのではないかということだ。それを一口で「縦割り」というのはたやすいが、事業の実施主体である自治体あるいは各省庁の垣根を越えたシナジーを発揮するシステムの構築や工夫が、もっとあっていいはずだ。

OBの経験とノウハウを経営基盤強化に活かす

数あるものづくり振興策の中で、もう1つ注目されるのは人的なサポートである。三重県鈴鹿市の「ものづくり産業支援センター」では、市内のものづくり中小企業に対して「仕事(共同開発、ビジネスマッチング等)」「情報」「支援(技術指導、経営戦略、現場の困り事解決)」「研修」の4つのサポートをワンストップで行っている。以前は「鈴鹿市動くものづくり支援室」という個性的な名称だったので、とくに印象に残っている。

現在とは体制が異なっているかもしれないが、同支援室時代に聞いた話を紹介したい。同支援室には、本田技研工業鈴鹿製作所などの大手企業をリタイヤしたOB約50人が、技術関連(自動車部品製造、プレス金型、溶接、機械加工、品質管理、設備保全など)および管理関連(経営企画、原価管理、作業改善、人材育成、販路拡大、知財特許等)の現場に精通したアドバイザーとして登録されていた。企業が解決したいテーマ1つに対し、厳選されたアドバイザーを年度内に12回派遣。現場・現物・現実を重んずる「三現主義」のもと、クライアント先の経営陣や従業員たちと問題解決にあたる。企業の費用負担はない。

同支援室では、巡回相談サービスも実施し、09年の年始には市内200社の中小ものづくり企業を訪問したという。企業からの連絡を待つのではなく、「ご用聞き」の意識を持ってみずからアポイントを取り、他愛もない世間話から始めてコミュニケーションを図るという姿勢に共感したことを覚えている。

中小企業の変革をサポートする社会インフラが必要だ

光触媒環境浄化装置
オンリーワン技術である「酸化チタン担持セラミックフィルター」を搭載した盛和工業(横浜市)の光触媒環境浄化装置。同フィルターはN700系新幹線の喫煙ルームにも導入されている。写真上は、小型室内循環型の「SW-10」、下が卓上型ホルムアルデヒド対策装置の「SSC-20idh(Y)」。経営支援NPOクラブが、顧客先とのマッチングなどの販路開拓で支援を行った事例の1つ

NPO法人「経営支援NPOクラブ」の神奈川県チームリーダー・渡邉憲一氏も、中小企業の経営サポートを進めるうえで「信頼関係の構築が不可欠。安心して相談していただけるようになるまで、数年かかることもあります」と話す。ケースによっては、たとえば製品の改良を進めていくうえで、助言が経営のあり方にまで及ぶこともあるからだ。

同NPO法人は、2002年6月に三井物産OBを中心に設立された、民間NPOによる中小企業支援の草分け的存在。150人を超える会員の出身企業はほぼ全業種にわたり、豊富なビジネス経験や技術的知見、幅広い人脈を活かして「事業企画・運営」「製品開発・改良」「生産計画・管理」「販路開拓」「展示会・商談会への協力」などで、大きな成果を上げている。最新の経営技術、長年の実務経験に加えて、ギリギリの決断を迫られる「修羅場経験」という3つの強みを掲げているのが特徴だ。

日本の製造業に吹き荒れる「逆風」は、振り返れば1990年代から始まっている。「ものづくり大国」としての日本の優位性が徐々に低下し、コスト面等の競争力が失われていくなかで、これまで加工仕事などの「下請け」に甘んじてきた中小企業は何をなすべきか。

その1つの答えとして、渡邉氏は「オンリーワン技術を持つこと」を挙げる。

 

一例を挙げれば、横浜市で光触媒環境浄化装置・油圧制御装置などの製造販売を手がける盛和工業では、東京大学先端科学技術研究センターの橋本和仁教授および新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で「酸化チタン担持セラミックフィルター」を開発。多孔のセラミックに酸化チタン微粒子を担持させてフィルターをつくり、紫外線を照射して除菌・脱臭を行う画期的な技術で、細菌・ウィルス、カビなどの除去や、ホルムアルデヒド、キシレンなどの悪臭物質、生ゴミ・タバコ・ペット・カビ臭等の脱臭に大きな効果を発揮するという。

経営支援NPOクラブでは、横浜企業経営支援財団(IDEC)の「横浜発販路開拓支援事業」を機縁として、同社に対し医療機器メーカーや卸、大手病院等の顧客との縁を取り持つマッチング支援などを行っている。

優れた商品を持ちながら販売面で苦労している中小企業は数多い。かといって、中小企業がいますぐに、自力で営業力やマーケティング力を増強するのは難しいことが多い。それゆえ、その道を熟知したプロによる支援が不可欠だ。

米GE元CEO、ジャックウェルチの言葉に「Change before you have to(変革せよ、変革を求められる前に)」というものがある。90年代以降、日本のものづくりはバブル崩壊、リーマンショックを始めとして大きな波に何度もさらされ、そのたびに変化を求められ続けてきた。そして、そこに今回の震災である。いまこそ、日本のものづくりを下支えしている中小企業の変革を支援していくための体制を、官民を挙げて構築すべき時ではないか。

 
 

プロフィール

ジャーナリスト 加賀谷貢樹

1967年、秋田県生まれ。茨城大学大学院人文科学研究科修士課程修了。産業機械・環境機械メーカー兼商社に勤務後、98年よりフリーに。「フジサンケイビジネスアイ」のほか、オピニオン誌、ビジネス誌などに寄稿。著書に『中国ビジネスに勝つ情報源』(PHP研究所)などがある。
 ものづくり分野では、メイド・イン・ジャパンの品質を支える技能者たちの仕事ぶりのほか、各地の「ものづくりの街」の取り組みを中心に取材。2008および2009年度の国認定「高度熟練技能者」(09年度で制度廃止)の現場取材も担当。
 愛機Canon EOS-5Dを手に、熟練技能者の手業、若き技能者たちの輝く姿をファインダーに収めることをライフワークにしている。
【フェイスブック】:http://www.facebook.com/kagaya.koki
【ブログ】:http://kkagaya.blog.fc2.com/

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