頑張れ!ニッポンのものづくり

第12回

つながれ、コトをつくれ!――進化する「全日本製造業コマ大戦」

 


全日本コマ大戦協会の発足式で、緑川賢司会長は「全日本コマ大戦は、これから国内だけでなく全世界に発信していきます」と挨拶した

 2011年5月から12年3月にかけて、11回にわたり記事を掲載してきた当コラムの連載を一時休止した。それから1年余りの間に、「中小製造業の逆襲」とも呼べる草の根のムーブメントが巻き起こりつつあることを、肌で感じてきた。そこで当コラムの連載を再開し、中小ものづくり企業が挑むイノベーション、各地域の企業間連携、ものづくり人材育成の取り組みなどについて現場を訪ね歩き、最新情報を紹介していきたい。

 いま中小製造業の間に起き始めている新たなムーブメントの牽引役ともいえるのが、昨年3月に当コラムでも紹介した「全日本製造業コマ大戦」(http://www.komataisen.com/)だろう。昨年2月にパシフィコ横浜で第1回全国大会(G1)を開催して以来、広く注目を浴びるようになり、テレビ・新聞・雑誌等のメディアにも多数取り上げられるようになった。昨年8~12月には総勢約200チームが参加し、全国7カ所で地方予選(G2)が行われ、今年2月7日に第2回全国大会が開催されている。4月19~21日に、87年の伝統を誇る三越劇場(東京都中央区)で開催された「全日本製造業コマ大戦日本橋三越場所」に足を運んだ。やや旧聞に属するが、同イベントの模様をレポートしたい。

 初日の4月19日に行われたのは、全日本製造業コマ大戦協会の発足式。これまで、横浜を中心とする中小企業経営者有志の集団である「心技隊」がコマ大戦を主催してきた。今後は全国組織の任意団体である同協会がコマ大戦を主催し、緑川賢司会長(株式会社ミナロ代表取締役)、伊藤昌良副会長(株式会社エムエスパートナーズ代表取締役)、黒田正和副会長(株式会社クリタテクノ取締役製造部長)を始めとする全国58人のメンバーが、コマ大戦の本大会・地方予選の運営や広報活動などを行っていくという。11人の隊員からなる心技隊は、同協会のメンバーとして、引き続きコマ大戦の運営を支える。

 緑川会長は、コマ大戦協会の発足式で「(中小企業が)自分たちの技術を活かしたものづくりをしたいと思っても、なかなかそれを発表する場がなかった。下請けとして、お客様からいただいた図面通りのモノを作るだけでは(ものづくりが)単なる作業になりがちで、マイナス思考に陥ることもある。だから『中小企業のモチベーションを高めたい』と、常日頃から皆さんが思っていた。それに火を点けたのがコマ大戦です」と述べた。

2012年2月の第1回大戦以来、各出場者が製作するコマも日進月歩で進化を遂げており、競技レベルが向上している 会場の三越劇場には、約100人の観客・関係者が詰めかけた。テレビや新聞などのメディア取材も行われた

同協会が掲げる全日本製造業コマ大戦の目的を整理すると、このようになる。

【全日本製造業コマ大戦の目的】
・日本の製造業に活気を与え、経済成長を支える
・製造業に携わる人たちのモチベーションの向上
・学生および子供たちの製造業への関心を高める
・中小製造業の情報発信力の向上
・国内および世界に向けた中小製造業の技術アピール
・BtoCの販路確立
・市場の創造と拡大

 いずれも、日本の中小製造業がずっと抱えてきた課題ばかりである。コマ対戦を通じて全国の中小ものづくり企業同士がつながり、これらに対して、自分たちなりにどんな回答を打ち出せるかを模索しようと立ち上がったともいえる。ここに、従来の「下請け意識」から脱却し、本来「経済を牽引する力であり、社会の主役」(中小企業憲章)である中小企業の矜持を取り戻そうという、彼らの意気込みを感じるのだ。

 彼らは、自ら起こした、こうした草の根の動きを「中小企業の逆襲」と呼んでいる。

 同協会の発足式では、コマ大戦の海外展開についての計画も発表された。13年12月にインドネシア・ジャカルタで開催予定の産業見本市「インドネシア・マニュファクチャリング・エキシビション」内で、初の海外場所を開催する。2、3年後を目標に、横浜でコマ大戦の第1回世界大会を開催することが、コマ大戦協会の大きな目標だ。同協会の伊藤副会長は、「(コマ対戦を)世界に注目されるイベントに育て上げ、日本に仕事を呼び込みたい」と抱負を語る。

 2日目は、コマ大戦のエキシビションマッチ(G3)が行われ、約100人の観客が、直径20ミリの「精密ケンカゴマ」が繰り広げるバトルに興じた。

今回の日本橋三越場所には、下記の16チームが参加した。

【日本橋三越場所の出場チーム】
《優勝》両毛野朗Aチーム(群馬県)
《準優勝》厚木の 林田技研(神奈川県)
《第3位》ほぼ千葉 with デザイン事務所サムライ(千葉県)
《第4位》大東製作女王(ダイトウセイサクィーン/長野県)
《2回戦進出》
・我逢人(がほうじん)@株式会社鈴木製作所(大阪府)
・光精工ボクシング部(千葉県)
・株式会社岩沼精工(宮城県)
・日成機工株式会社(長野県)
《1回戦敗退》
・五光発條株式会社(神奈川県横浜市)
・有限会社服部製作所(福井県)
・両毛野朗Bチーム(群馬県)
・チーム氷川工作所(埼玉県)
・群馬県立高崎産業技術専門校(群馬県)
・YPC(神奈川県)
・有限会社童夢 湾岸アスリート(千葉県)
・株式会社クリタテクノ(愛知県)

女性チームの「大東製作女王」が初出場で4位を獲得し大健闘 両毛野朗Aチーム(右)と林田技研による決勝戦の模様

 見事に優勝に輝いた「両毛野朗Aチーム」のコマ=写真=は、比重の高い銅タングステン製。質量は28gで、各面が皿のように内側に凹んだ12面体になっている。コマが回転すると軸がスーッと沈んで重心を下げる、といったギミックも盛り込まれている。

激闘を制し、優勝した両毛野朗Aチーム 両毛野朗Aチームが製作したコマは、銅タング
ステン製で12面体の形状をしている

同チームのコマのシューターを務めた羽広保志氏(有限会社ユニーク工業専務取締役)は、「これまで(G3の決勝戦などで敗れ)苦い思いをしてきたので、今回はどうしても優勝したかった。素晴らしいコマばかりだったので、その中で1位になれたのは感無量です」と優勝の喜びを述べた。

ちなみに、コマ対戦に出場したコマのレプリカモデルは「全日本製造業コマ大戦公式WEBショップ」(http://store-m.jp/)などで購入可能。前出の伊藤副会長によると、最近レプリカモデルの販売が好調で、売上高が1220万円(12年2月~13年4月の各社販売実績)を突破しているという。

コマ対戦出場コマのレプリカモデルは、いわば各出場企業が自ら生み出したオリジナル製品。考えてみれば、自社技術を活かし、図面のないところから製品を企画・設計・製造して、市場に打って出ることは多くの中小企業にとっての夢であり、目標である。1社ではなかなかできないが、中小企業同士がつながってコトを興し、創り上げた「全日本製造業コマ大戦」というブランドのもとに、「金属製の精密コマ」という新ジャンルの製品が売れ始めている事実に注目したい。新たなスタイルの市場創造、もしくは共同受注の試みといっても差し支えないだろう。

最終日の4月21日には「作って学ぼう! 子どもコマ対戦」が開催された。中学生までの子供たちを対象に、金属製のリングとカラースポンジ製のリング、軸などがセットになったキットを購入のうえ、会場で思い思いのコマを作ってバトルに参加してもらう、という催しだ。「(重い金属製のリングを下に取り付けて)重心を低くすればよく回るけど、それでケンカゴマに勝てるかどうかは限らないんだよ」「接着剤がちゃんと固まるまで待とうね」――協会スタッフたちが、子供たちにつきっきりでコマの作り方を指導していた。

スタッフの指導を受け、思い思いのコマを作る子供たち 「子どもコマ大戦」の決勝戦の模様。
大人たちも息を飲む大接戦が繰り広げられた


 参加者は48名(延べ)で、中にはキットを再購入して再チャレンジする子供もいた。コマを作り終えた順に8人が1組になって6回の予選を行い、決勝トーナメントを開催。優勝者にはコマ大戦の「公式土俵」とレプリカモデルのコマを賞品として贈呈した。同協会では、子供たちにものづくりの楽しさを伝えるために、子供向けのイベントにも力を入れており、5月4日の「日本橋三越特別子どもコマ大戦」のほか、5月25日にNEXCO中日本の海老名SAで行われたエキシビションマッチでも、子どもコマ大戦が開催されている。

また同日には、町工場発のものづくりプロジェクトとして注目されている無人深海探査機「江戸っ子1号」プロジェクト推進委員会の浜野慶一氏(株式会社浜野製作所代表取締役、写真右)、国産ボブスレーを開発しソチ五輪の日本代表を応援する「下町ボブスレー」ネットワークプロジェクト推進委員会の細貝淳一委員長(株式会社マテリアル代表取締役、写真中央)、コマ大戦協会の緑川会長(写真左)によるトークセッションが行われた。


日本の町工場発プロジェクトである「江戸っ子1号」、「下町ボブスレー」、「全日本製造業コマ大戦」を推進する中小企業経営者3名が熱い思いを語った「町工場トークショー」

「この国と地域を元気にしたい。明日の『メシの種』を作って、この事業を次の世代に引き継いでいきたい。日本のものづくりはまだ捨てたものではありません。技術力も高いですし、そこで作業をしておられる方や職人さんの志も高い。これを、この国から絶対になくすわけにはいかないのです」(浜野氏)

「資源が非常に少ない日本が、これだけ成長してきたのは、ものづくりの技術が世界の中で優れていたから。ものづくりは国家が復活するためには欠かせない財源です。だから。われわれは、ものづくりを次の世代に伝えていかなければならないし、今の時代を強く生きなければならないという宿命があると思います」(細貝氏)

「中学生、小学生ぐらいの子どもたちに、そういう思いをいかにわかりやすく伝えるか、あるいは、いかに体験してもらうかが大切。そういうことを手がけていきたい」(緑川氏)

 浜野氏、細貝氏、緑川氏の言葉に、いま中小製造業がどんな問題意識を持ち、何のために「逆襲」を進めようとしているのかが、ある意味で集約されているのではないか。

 中小企業憲章の基本理念に、こんな一節がある。

「中小企業は、経済やくらしを支え、牽引する。創意工夫を凝らし、技術を磨き、雇用の大部分を支え、くらしに潤いを与える。(中略)中小企業は、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、伝統技能や文化の継承に重要な機能を果たす。小規模企業の多くは家族経営形態を採り、地域社会の安定をもたらす」

 全日本製造業コマ大戦の事例にみられるように、中小企業も自ら市場を創造し、経済を動かし、地域や社会に貢献する一翼を担っていこうという意識が、若手経営者の間から巻き起こってきていることに、大きな可能性を感じるのである。
【2013年5月24日作成】

 
 

プロフィール

ジャーナリスト 加賀谷貢樹

1967年、秋田県生まれ。茨城大学大学院人文科学研究科修士課程修了。産業機械・環境機械メーカー兼商社に勤務後、98年よりフリーに。「フジサンケイビジネスアイ」のほか、オピニオン誌、ビジネス誌などに寄稿。著書に『中国ビジネスに勝つ情報源』(PHP研究所)などがある。
 ものづくり分野では、メイド・イン・ジャパンの品質を支える技能者たちの仕事ぶりのほか、各地の「ものづくりの街」の取り組みを中心に取材。2008および2009年度の国認定「高度熟練技能者」(09年度で制度廃止)の現場取材も担当。
 愛機Canon EOS-5Dを手に、熟練技能者の手業、若き技能者たちの輝く姿をファインダーに収めることをライフワークにしている。
【フェイスブック】:http://www.facebook.com/kagaya.koki
【ブログ】:http://kkagaya.blog.fc2.com/

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