ドラッカーから起業を学ぶ

落藤 伸夫

第30回

状況を前提にした戦略を練る

 
「ちょっと、お聞きして良いですか?」

「たぶん、はじめまして、ですよね。」

「そうなんです。先生から学んでいる田中君から紹介された、佐藤といいます。サラリーマンを辞めて起業し、そろそろ一年になります。」

「こんにちは、佐藤さん。今日はどう言ったお話ですか?」

「先ほど申したように、私は、サラリーマンを辞めてコンサルタントとして起業し、そろそろ1年になります。にもかかわらず、なかなか事業が軌道に乗りません。どうすれば良いのかと思いまして。」


事業のタイプから戦略を考える

「そうですか、それは心配ですね。ちなみに佐藤さんのコンサルティングは、どういったものですか?とてもユニークなものなのか、それとも似たようなサービスを提供するものなのか、という意味ですが。」

「そういう分け方をすると、類似サービスが比較的ある方だと思います。従業員のモチベーション・アップをお手伝いするものですから。」

「なるほど。」

「ちなみに、今の質問はどういう趣旨なのか、聞いて良いですか?」

「あなたのサービスがユニークなものなら、そのサービスを本当に望んでいるお客様をどうやって探し、アプローチしていくかが主な問題になるでしょう。一方で、類似のサービスが多いのなら、それは主に競争戦略の問題になると考えて良いと思います。」

「なるほど。戦略を練るときには、自分の状況をまず押さえ、それにマッチした方向性を選ばなければならないということですね。」


ドラッカーが提示する4つの競争戦略

「佐藤さんは、実際には数多くの同業者と競争していたのです。それは、意識していましたか?」

「いや、意識していませんでした。私がモチベーション・アップのコンサルタントであることは、それなりに宣伝してきたつもりですが、契約に結びつかなかったのはもう一つ、見えない競合相手に勝てなかったのが原因なんですね。」

「そう見ることも可能ですね。お客様の視点からすると、佐藤さんは、他の同業者に比べて選択すべき要素が少なかった。それは、競争を意識していなかったから当然なのかもしれません。」

「なるほど。では、どのようにお客様に選んで頂ける要素を作れば良いのでしょうか?」

「ドラッカーは、競争戦略として4つを提示しています。総力戦略、2番手戦略、価格戦略、ニッチ戦略です。」

「良く聞く戦略ですね。このうち、私が採用すべき戦略として、何がお勧めですか?」


2番手戦略の二つの方法

「そうですね。開業したばかりのコンサルタントとしては、トップを狙うような総力作戦は取り得ないでしょう。価格戦略も、それに耐えられるような体力もないと思います。」

「ニッチ戦略ですか?」

「それも選択肢でしょうが、従業員のモチベーション・アップというのは今でもかなりのニッチです。顧客である経営者は、事業で成果をあげることを望んでいるのであって、従業員のモチベーション・アップは手段ですからね。それ以上のニッチを狙うと、選んでいただく理由を逆に狭めかねません。」

「とすると、2番手戦略ですか?私が2番手と言えるのでしょうか?」

「コンサルタント業界は、何人も従業員を雇って大規模な案件を請け負う大手と、佐藤さんのような個人コンサルタントに分けることができるかもしれません。とすると、個人コンサルタントは、全て2番手と言っても構わないと思います。」

「なるほど。」


2番手戦略の二つの方法

「ドラッカーは、2番手戦略の具体的手法まで、示してくれています。」

「それは何ですか?」

「創造的模倣や柔道戦略です。」

「創造的模倣は、聞いたことがありますね。最近よく耳にするジェネリック薬品も創造的模倣ですし、一時はパソコンでも世界を席巻したIBMもアップルを模倣しました。」

「一方で、リーダーの戦略を熟知した上で、それが手を付けず残した隙を突くのが柔道戦略です。」

「例えばどんな方法ですか?」

「リーダーが、おいしいビジネスを狙って大手や中堅企業をターゲットとしている時に、あえて中小零細企業を狙ってみるという方法があります。」

「なるほど。私、その市場は利幅が少ないと思って、あえて避けていたのです。」

「どうなりましたか?」

「価格競争に巻き込まれました。値引きを求められるのです。でも実際には、受注にはつながりませんでした。結局、大手や実績のある古株コンサルタントが契約をさらっているのです。」

「ならば本当に、柔道戦略が有効かもしれませんね。」

「そうですね。毛嫌いせずに、中小零細企業に向けてのアプローチに、頑張ってみようと思います。」

「是非ともそうして下さい。現状が競争状態にあることを忘れずに、その中でご自分を選んでもらえるよう、工夫して下さい。」

2016年12月5日

 
 

プロフィール

StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫


(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!

<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』

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