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マーケティング新時代 造り物の終焉

第5回

EVの不都合な真実

イノベーションズアイ編集局  マーケティングコンサルタント N

 

日本でも電気自動車(EV)は日常で見られるようになってきているが、まだ多いとは言えない。では、現在の世界のEVの現状を皆さんはご存じだろうか。欧州連合(EU)では2035年以降はEV以外の自動車販売を禁止するという方針を進めてきたが、先日この方針が変更されたことはニュースなどでも報じられたのでご存じの方も多いのではないだろうか。

日本人からするとガソリン車やハイブリッド車を廃止して、EVのみにするなんて無茶な方針だと考える人が多いのではないかと思う。では、なぜこのような極端な方針を本気で欧州は進めることとなったのか?

欧州のみならず米国も同様にEV化には積極的で、同国のテスラ社はEVシェア1位となっている。また、中国、韓国もEVの製造に力を注いでいる。なぜこれほど世界的にEVへのシフトを進めたがっているのか?



EV推進の理由

自動車業界ではトヨタをはじめとする日本車は技術力やサービス面も含め、非常に大きな存在だ。そんな中、各国の自動車メーカーがトヨタを出し抜き、業界地図を塗り替えられる可能性を見出したのがEVといえる。

特に欧州では環境保護の意識が強く、当初はディーゼル車の普及を試みたが、独フォルクスワーゲン社がディーゼル車の排ガス値を改ざんしていたことが明らかとなり、世界的にバッシングを受けディーゼル車の信用は失われた。その結果、EVが選択肢として残ったとも言える。

日本でもある程度普及しているハイブリッド車ではダメだったのか?という疑問を持つ方もいるだろう。実はハイブリッド車というのは高い技術力が必要で、日本車はかなり先を進んでいるのが現状だ。なので選択肢としてはEVしかなかったというのが本音だろう。

つまり、「環境問題改善」が目的なのではなく、環境問題を大義名分として「トヨタに勝つ」ことが本当の目的ともいえる。


EV大国ノルウェーの実情

ロシアのウクライナ侵攻による影響もあり、欧州の電気代高騰は日本の比ではない。EV先進国と言われるノルウェーでは、新車販売台数の80%がEVなのだが、そのノルウェーのひと月の電気代の平均は日本円換算で12万円以上に高騰している。テスラ車クラスのEVの1回の満充電には日本円換算で15,000円程度かかる。さらにEVの充電ステーションは週末ともなれば長い行列ができ、渋滞が発生してしまっている。EV先進国のノルウェーでさえ充電設備が十分とは言えないほど、充電設備の整備は難しいのだ。

また、低気温ではリチウムイオンバッテリーの性能は低下してしまうため、冬の走行可能距離は短くなる。氷点下では走行距離が半減してしまい、加えて暖房利用で電気を使うため走行可能距離は激減してしまう。更にバッテリー性能の低下により充電時間も大幅に長くなるため、寒冷地ではEVでの長距離移動には注意が必要となる。


リチウムイオン電池の発火問題

EVの問題点として懸念されるのがEVに搭載されるリチウムイオンバッテリーの発火問題だ。主に海外でEVの発火事故は多数報告されている。EVを輸送するタンカーで火災が発生し、EV以外も含めた積み荷の車が燃えてしまい船までもが沈没するといった事故も起きている。火元がEVと考えられている船舶事故は複数報告されている。

リチウムイオンバッテリーは発火すると化学反応により燃焼を続けるため消火が容易ではなく、一度消えても燃え尽きるまでは再燃する可能性があり、消火には時間も手間もかかるのに加え、汚染物質まで出してしまう。そのため海上で火災が発生した場合は積み荷や船の被害も大きく環境汚染の問題も深刻となる可能性があり、EVの海上輸送は敬遠されがちになっている。


中国のEV

中国政府は自動車産業の主導権を取る勢いでEV市場を支援してきたが、優遇によるEV生産企業の大幅な増加に対し、需要は伸び悩み、EV生産企業は相次ぎ倒産した。EVの在庫はあふれており、大量のEVが不法投棄されるEV墓場と呼ばれる問題も発生している。

現在も過剰生産状態となっており生産抑制を始めているのだが、EV推進にあたって優遇対応で迎えたテスラ社に対しても生産抑制の圧力をかけるほどとなっている。また、欧州や米国では中国製EVを補助対象外とするなど排除する政策も進められている。


EVに対するメディア

これまで、EVに出遅れたトヨタ、テスラ社や欧州のEV攻勢、中国や韓国のEV自動車産業の活性化というような報道がされてきたが、ここに来てEVに関する多くの問題が明るみに出てきている。

これまでこういったEVに関するネガティブなニュースはあまり報道されてこなかったが、各国のメディアでも実情が少しずつ報道され始めている。

また、当初からEVにシフトすることの危険性を唱えていたトヨタの考え方が正しかったと方針転換する欧州自動車メーカーも現れていたり、トヨタが全個体電池を発表したことで、欧州や米国でEVを今後も推進する場合でもトヨタ一強となる可能性が出てきたこともあり、EVの今後の動向は大きく変化する可能性が高まった。

EVの問題に関する報道は、各国のEVの普及速度や世界の自動車メーカー、国の政策にも影響がでる可能性がある。それゆえ慎重にならざるを得ないことは理解できる。だが、そういった内容こそ真実の情報を届けることが、今のメディアに求められていることではないだろうか。

次回は、本当にEVによって環境問題の改善となるのかということについて話したいと思う。


 

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