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第1回

アルサーガ、純国産で社会課題に挑むDXのプロ集団

イノベーションズアイ編集局  編集局長 松岡健夫

 

バブル崩壊後の「失われた30年」で経済界に染み付いた「日本経済はもう成長しない」という経済の自虐史観の打破に「純国産」で挑むベンチャー企業を紹介したい。

2016年に創業したITベンチャーのアルサーガパートナーズだ。東京・渋谷の本社を訪れるたびに社員は増え、フロアは熱気にあふれる。この熱量が挑戦の源なのだろう。

アルサーガパートナーズ 会議の様子

同社は企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略を成功に導くため、コンサルティングからIT開発・運用まで一貫サービスを提供する。このDXのプロ集団を率いる小俣泰明社長CEO/CTOは「日本が抱え込んだ課題を解決するには自分でモノをつくる純国産を取り戻す必要がある」と言い切る。

同社が解決したい社会課題として①デジタル赤字②DX人材不足③多重下請け構造④地方格差―などを挙げる。どれも密接に絡み合うが、国外への資本と技術の流出を抑えるため国内生産を強化することで①、④を解決。「下請けに入らない、出さない」ことで国内IT人材を育成すれば②、③を解決できるという。そうなると①も解消する。

では、なぜ4つの課題が生まれたのか。

非資源国の日本はモノを生産し販売することで外貨を獲得してきた。戦後の高度経済成長期はうまく機能した。しかし円高進行や人件費の上昇などで海外に生産拠点を移したり、海外企業に生産委託したりするオフショアに転換。これにより国内空洞化に拍車がかかった。

それから30年が経ち、オフショア先の中国や東南アジア諸国が力をつけた。一方で日本から技術が流出した。当然ながら人材も育たず、製造業は衰退していった。

例えば日本企業が英国企業から開発を依頼されても、国内ではなくオフショア先であるベトナム企業に任せる。中抜き(手数料)で売り上げは立つが、やがて英国企業は技術力を蓄えたベトナム企業に直接、発注する。日本仕込みのモノづくりを習得したことで、顧客が求める品質、価格、納期で提供できると知ったからだ。

その結果、日本から顧客が逃げるというジャパン・パッシングが起きる。外貨獲得の機会を失うばかりか、外資の攻勢を受け赤字が膨らむ。これでは日本が豊かになれるわけがない。

IT産業も同様で、近年にIPO(新規株式公開)を実現したITベンチャーの多くはオフショア開発型だ。海外で開発・生産を行うので日本に技術が残らないのは明らかだ。

こう指摘した小俣氏は「日本が元気を取り戻すには(海外に任せる)丸投げ体質をやめて、自分で開発・生産すべきだ。そのためには人材を育てなければいけない」と強調するとともに「アルサーガのミッション」と位置付け、有言実行するため純国産にこだわってきた。

開発拠点は東京・渋谷に加え、世界最大の半導体受託製造の台湾積体電路製造(TSMC)が進出を決めた熊本と福岡に設けた。今後も地方の中核都市に拠点を開設していく考えだ。モノづくりを託す人材は地元で採用する。これにより地方で雇用を創出し、広がる経済格差を埋める。

また理系にこだわらず優秀な女性、文系も貴重な戦力と捉え、双方向スタイルでソフト・システム開発を任せられる人材に育てる。成長意欲を高めるため社内ハッカソンやディスカッション形式の勉強会も積極的に開催。今やエンジニアの半分は文系であり、女性比率は2割を超える。

こうして企画から設計、開発、運用までの全フェーズに必要な高度人材を揃えることで、「ITゼネコン」と呼ばれる日本特有の多重下請け構造を排除。企業と直接契約を結ぶことで、中間マージンという無駄なコストを削減。ITゼネコンでは予算的に請け負えないプロジェクトも獲得していった。

純国産という自社完結のビジネスモデルを構築したアルサーガが「DXのプロ集団」として活躍の機会を得るにつれ、デジタル赤字は解消に向かう。デジタル赤字とは、日本の企業・個人が使う海外のITサービスへの支払額で、マッキンゼー・アンド・カンパニーやアクセンチュアのような外資系DX企業の攻勢により赤字幅が膨らんでいった。22年には4.7兆円に達し、このうちの半分はコンサル会社への支払いという。

東大生など優秀な学生に人気の就職先だが、「日本を元気にするため就職してコンサルを請け負っても、外資の稼ぎになる」わけで、資本と技術の流出をもたらす。アルサーガが外資系DX企業に取って代われば赤字幅の縮小につながるというわけだ。

こうした事情を知ってか知らずか、アクセンチュアなどからの転職組は年間約40人に達する。マネジャークラスで稼ぎ頭もいるという。コンサル料金は「外資系より安価だが、品質は同じ。我々が顧客の選択候補になれる」と小俣氏は強きだ。

オフショアを行わず、純国産で力をつけるのがアルサーガ流だ。オフショアで上場した他のITベンチャーと一線を画す。その甲斐あってDX事業を立ち上げた19年度からプロジェクト獲得、人材採用に成功。年平均50%の売り上げ成長を継続、1人当たり売上高も年平均6%成長を実現している。

小俣氏は「(デジタル赤字の抑制や人材育成などをもたらす)内製力を磨くことで、数年後にどちらの戦略が正しかったか分かる」と成功を信じて疑わない。その意気やよし。経済の自虐史観を吹き飛ばすヒントになりうる。

 

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