左から、クリナップハートフル代表取締役社長の井上泰延氏、同社が運営する「クリ夫のパン屋」店長の金子久美氏
JR山手線の西日暮里駅で下車し、徒歩約10分――。
東京・下町の閑静な住宅地の一角に、地元で評判のパン屋がある。障害者雇用促進法に基づく、住設機器大手クリナップ(東京都荒川区)の特例子会社であるクリナップハートフルが運営する「クリ夫のパン屋」だ。
取扱商品は菓子パン、惣菜パン、サンド類など約40種類。1日の来店者は約100人で、そのほとんどが地元に住む人々だ。金子久美店長を始めとする8人のスタッフの中で、障がい者の社員が2人働いており、厨房からの品出しや閉店後の片付け、パンのサッカー(袋詰め)作業を担当している。
「クリナップハートフルは、クリナップグループが手がけるCSR(企業の社会的責任)活動の象徴であり、当社で行っている障がい者雇用は、グループ全体で進めているダイバーシティ(多様性)活動の1つです」と、クリナップハートフル代表取締役(社長)の井上泰延氏は話す。
クリナップハートフルには66名が所属し、うち40名が障がい者。(※平成29年6月1日現在)給与計算係(月次給与・賞与計算、社会保険・労働保険手続等)、事業推進係(グループ社員の名刺作成、各種データ入力等)、施設管理係(クリナップ本社や関係会社ビルの清掃等)などの事業を手がけている。
2016年11月1日の「クリ夫のパン屋」の開店にともない、同店を運営するフードサービス係が、新たな障がい者雇用創出事業として加わった。
システムキッチンを中心に、「心豊かな食住文化」を発信する企業でありたいというクリナップの理念にも、パン屋という業態はマッチしていた。
もう1つ、クリナップ本社の近隣にある商店街に唯一残っていた街のパン屋が数年前に閉店したことも大きい。「地元の皆さんに、焼きたてのパンをまた食べてもらいたい」という思いを込めて、同社は「クリ夫のパン屋」をオープンさせた。
地元密着の社会貢献を通じて、「社会に生かされている企業だからこそ、社会から必要とされる企業にならなければならない」という信念を持ち続けるところに、クリナップグループのCSR活動の特色がある。
「お客様が多く混雑しているときなどは、本人に負担がかからない作業に回すといった配慮が必要ですが、得意なことを活かして仕事をしてくれていると思います」と金子店長は語る。
自分たちよりもむしろ、障がい者のほうが能力が高いと実感することもあるという。たとえば、障がい者の社員の1人はデータ入力が得意。仕事が非常に正確で金子店長は「とても助けられています」と話す。また、もう1人は几帳面な性格を活かし、クリナップの公式キャラクターである「クリ夫」の紙札を市販の無地の紙袋に貼り、オリジナルの手提げ袋を製作。細かい作業を根気よく行う丁寧な仕事ぶりに、金子店長も舌を巻いている。
「障がいは個性、もしくは個人の特性の1つ。障がい者であっても仕事ができる人は数多くいて、それぞれ得意分野も持っています。その意味で、私自身、健常者も障がい者も関係なく、働きたい人に働ける場を提供することが当社の役割ではないかという思いが強くなっています」と井上社長はいう。
「クリナップがお世話になっている全国すべての地域で『クリ夫のパン』を売りたいという夢もあります」と金子店長。
「今後はパン以外に、『クリ夫のクッキー』を展開していくことも視野に入れています。障がい者の方がここでずっと長く働き、やりがいを見つけ、自立して定年まで働いてくれるような職場づくりを目指していきたいですね」と井上社長は抱負を述べた。
(店舗概要)
住所:東京都荒川区西日暮里6-10-11
営業時間:10:30~16:00
定休日:土日・祝日
TEL:03-5901-2311
「フジサンケイビジネスアイ」