今回は、熊本市に店舗を構える「あらき」を取り上げる。同社は熊本市内の中心部から車で30分ほどいった道路沿いにある従業員わずか6人の小さな酒屋であるにもかかわらず、遠くは山口県や鹿児島県からも顧客がわざわざやってくる。同じ酒でも、なぜか、あらきの酒はおいしいと評判だ。
◆慢心による客離れ
同社が扱っているのは、ワイン、日本酒、焼酎、一部食材で、そのどれもが社長の荒木孝昭氏が自分で味わってみて、自信を持って顧客に勧めることができると確信した強いこだわりを持った商品ばかりである。
今でこそ、多くの顧客がわざわざ訪れる店になったが、経営は決して順風満帆だったわけではない。1991年に現在地に移り、ワインを中心にしたこだわりの商品展開で売り上げが急激に伸び、2000年には年商8億円近くにまで達し、当時は100億円も軽いと考えていたという。
しかし、慢心が生まれたのか、その後は売り上げがじわじわと落ち始め、05年には4億円まで半減した。当時、9人いた従業員のうち店長以下4人が自然と辞めていった。
何とかしなければと、倉庫としていたスペースをレストランにするなど、いろいろと試みたがうまくいかず、ますます窮地に追い込まれ、店をたたむ話まで出るようになった。
そのころ、店に人手がいなくなったこともあり、荒木氏は久しぶりに売り場に立つことにした。そこで自分の慢心に気づかされた。
それまでの荒木社長は、仕入れで国内外に出かけるほか、講演活動で全国各地を飛び回り、店は店長に全て任せきりだった。いざ売り場に立ってみると、来店客からワインの名を言われても、そのワインが店のどこにあるのかさえ、わからなくなっていたのである。
◆顧客の一言で
また、10年ぶりに店舗に訪れた顧客から痛烈なことを言われた。「20年前に、一生懸命、ワインはこういうものだと話してくれたのがきっかけで、ワインを好きになったのに、10年前にお店に来て、社長にワインを選んでほしいとお願いしたら、担当者に選ばせましょうと言われた。社長の人柄・熱意に感動していたのに、あんな言い方はないだろう」。その顧客は10年間、来店しなかったという。
顧客が来なくなった原因は荒木社長自身にあったのである。店を始めたころのワインに対する情熱がいつの間にか冷め、担当者任せにしたことで、ワインからも常連客からも見放されてしまっていたのである。
それからの荒木社長は、まだ外が暗いうちから店を掃除し、ワインのある場所を毎日確認し、一本一本のワインに語りかけながら丁寧に磨いた。ワインはピカピカになり、うれしそうに見えるし、どこにあるかもすぐ分かるようになる。それと時を同じくして、顔に見覚えのある顧客が「社長、久しぶり。ワインを選んでよ」と再び通ってくれるようになった。
一度、原点に立ち戻り、自社の存在理由を思い出すことがいかに大切であるかがわかるだろう。最後に荒木社長は力強く語ってくれた。「もうけようとは思わないことの幸せを感じている」
アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
「フジサンケイビジネスアイ」