医療情報サイトを運営するQLife(キューライフ、東京都世田谷区)は、インフォームド・コンセント(治療内容を十分に説明した上で同意を得ること)を支援するサービスを本格化する。
米アップルのタブレット型端末「iPad(アイパッド)」向けアプリ「描いて消せる患者さんへの説明ボード」を開発。同アプリで利用できるスライドや動画などのコンテンツを拡充している。
QLifeのアイパッド向けアプリ「描いて消せる患者さんへの説明ボード」。
スライドに丸を描いたり、書き込みながら説明に使うことができる(同社提供)
同アプリでは、アイパッドの画面上に病気や治療内容についてのスライドや動画を映し出し、医師はそれを患者に見せながら説明することができる。用意されているコンテンツは、インフルエンザ・ワクチン接種から大動脈ステント治療まで幅広い。
同社は患者や医療従事者向けの情報サイトを運営しているが、その過程で付き合いのある現場の医師から「患者にもっと病気についてきちんと説明したい」「説明に対する患者の要求レベルが上がっていて大変」との意見を拾った。「良い説明をしたくても治療や他の事務仕事に忙しくて実現できない」との声もあったという。
患者が手術を受ける際には、医師に説明を受けた上で治療についての同意書への署名を求められる。同社の山内善行社長によると、たとえば心臓の手術をする場合、検査から手術が完了するまでに10~20枚にも上る同意書が発生するケースもある。このような場合には説明する医師も大変だが、患者側も大量の同意書とそれに付随する説明書に圧倒され、結局はよく分からないまま同意書にサインするということも少なくないという。
限られた時間でもよりよく理解してもらえるインフォームド・コンセントの実現に向け、同社は同アプリを開発。医師の監修を受けたり、医師や製薬会社が作成したスライドの提供を受けながら、コンテンツの充実を図ってきた。現在アプリでは、1100枚以上のスライド、約80の動画を利用できる。 説明する人と説明を受ける人の事情や目的に応じたコンテンツの充実に腐心した。たとえば鬱病について説明するとき、産業医が社員向けに説明する場合と精神科医が患者に治療方針を説明する場合では目的も内容も異なり、それぞれの場合に応じたスライドが必要とされる。
「ひとつの病気やテーマについてのスライドを準備するのに半年かかったケースもある」と山内社長は振り返る。
アプリに利用者自身が作成したスライドを挿入したり、スライドの順番を入れ替えたりする編集機能もある。スライドに書き込むこともできる。より現場のニーズに対応した説明ができるため、「まさにこんなものが欲しかった」と利用する医療従事者からの反応も上々だ。
患者から質問があれば、回答に適したスライドをアプリで検索して即時に表示することができる。このような機敏さや柔軟性も、現場の医師に好評だ。
2011年3月にアプリをリリースしてからこれまでに5万ダウンロード(9月末時点)と、医師向けアイパッドアプリでは最大級のダウンロード数を記録している。今後は、今年度中にスライド数を5000枚まで増やすことを目指す。
この目標に到達した後は、同アプリをオープンなプラットホーム(基盤)に成長させる構想もある。同社がスライドを用意するのではなく、日本中の医療従事者が作った資料を同基盤上で共有できる「社会インフラにしたい」と山内社長は意気込む。(松田麻希)
「フジサンケイビジネスアイ」