青野慶久・サイボウズ社長
■多様性重視、年功序列排除が鍵
電通だけでなく、NHKでも女性記者の過労死が発覚するなど、残業時間の上限規制は待ったなしの状況だ。にもかかわらず、選挙によって労働基準法の改正は遅れるし、今回の衆院選では働き方改革が全く争点にならず、極めて残念だ。
長時間働くのではなく効率化すべきで、まずは残業時間の上限キャップをはめる規制が必要だ。そこで重要になっていくのが、今のように従業員を一律的にマネジメントする仕組みを変えていくことだ。女性や高齢者、パートタイマー、時短勤務の人などさまざまなスタイルで働く人がいる中で、多様性を生かすようなマネジメントに変えていかなくてはならない。
その代表的なものが「副業」だ。副業を禁止することは法例違反だが、企業の90%は人が流出してしまうとか本業に影響するといった古くてナンセンスな理由で禁止にしている。「副業禁止」を見直すべきだ。
また、働き方改革で肝心なことは、年功序列の排除によって、同一労働同一賃金に本気で取り組むことだ。働き方改革を進めていく上での矛盾は、年功序列の排除でできるはずだ。
多くの経営者が、グローバルな環境下で競争を進めるには働き方改革を進めなくてはならないことは理解している。しかし、これまでの仕組みが強い慣性となって進めることができないでいる。その意味では、政治の力を発揮すべきで、「年功序列をなくしていく」政策を強力に打ち出してほしい。
【プロフィル】
青野慶久氏 あおの・よしひさ
大阪大工卒。1994年松下電工(現パナソニック)入社、97年にサイボウズを設立し副社長に就任、2005年から社長。社内のワークスタイル改革を推進し、離職率を大幅に改善した。46歳。愛媛県出身。
【メモ】
政府は残業時間や賃金制度を見直す中、労働生産性を引き上げていく成長戦略としても働き方改革に取り組んでいる。昨年9月に設置した「働き方改革実現会議」では、長時間労働の是正と非正規雇用の処遇改善を求める同一労働同一賃金が、議論の中心となった。今年3月末には実行計画をまとめ、臨時国会で関連法案を審議する予定だったが、衆院解散・総選挙で法案の審議は先送りされ、来年の通常国会になるもようだ。このため、残業時間の上限規制が当初予定の2019年4月からは実施できない可能性も高まっている。
「フジサンケイビジネスアイ」