2014年成立の改正会社法が、5月1日から施行される。
欧米の上場会社では、取締役の過半数が社外取締役でなければならない。日本企業には過半数が社外によって構成される監査役会があるが、監査役には取締役会における議決権がない。また、海外では監査役制度がない国も多いので、海外の投資家からは日本のコーポレートガバナンスは不十分だとみられていた。
これに対応すべく東京証券取引所は、14年2月から上場会社は社外取締役を1人以上確保するよう求め、改正会社法では、社外取締役を置かず新たに社外取締役の選任もしないのであれば、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を株主総会参考書類に記載しなければならないとした。
このように原則(プリンシパル)を立て、従わないのであれば合理的な説明を求める立法技術を“Comply or Explain”といい、企業法務の分野ではこのようなルール作りが増えていきそうだ。
Comply or Explainでは、説明すれば従わなくてもよいというわけではなく、上場企業が適切に対応しないときは、法改正による強制が予定されている。
さらに、金融庁が3月5日に公表したコーポレートガバナンスコードは、上場会社は社外取締役を少なくとも2人以上選任すべきであると定めた。
それでは社外取締役は、企業においてどのような役割を担うべきであろうか。
一般論を言えば、経営全般を監督し、その評価に基づき経営者を監督する機能と、会社と経営者・支配株主との利益相反を監督する機能が期待されている(中間試案・補足説明)。
「経営全般の監督」には大きく2つの側面がある。
例えば、ダスキン事件では、取締役会はミスタードーナツの肉まんに無認可添加物が使用されていたことを公表しないことにしたため、会社は100億円を超える損害を被った。社外取締役は、このような場面で「ならぬものはならぬ」という態度を貫かなければならない。
社外取締役が経営の監督をするためには、その材料となる情報が十分提供される必要がある。私は、社外取締役を頼まれたら、会社に対して、会議資料の事前送付と、例えば在庫の増減を時系列に表にしたものなど、経営判断に便利な資料の作成を頼んでいる。
もう一つは、会社の経営陣がリスクテイクをする環境が整うように助言することである。
会社のオーナーである株主は分散投資が可能だから、ある程度リスクをとっても会社が成長することを望む。
ところが、会社の大株主でもなく、社内から選出された経営陣の場合、冒険に失敗したり、会社が倒産したりしたら彼らは失業してしまう。そのような会社では、経営陣が保守的な事業計画を策定し、大過なく任期満了を迎えたいと思っても仕方がない。
このような会社ならば、社外取締役は事前調査の徹底や、適切な意思決定過程になるように助言し、失敗しても経営陣の法的リスクを限定できるようにしつつ、株主の期待値まで経営の目標を引き上げるように助言する必要がある。
目標が低ければ、結果はもっと低くなる。目標を高くすれば、そのために考え方を変えたり、工夫したりする必要が生じる。
今回の社外取締役の増員が、コンプライアンスだけでなく、日本企業の業績向上に結び付くことを期待したい。
【プロフィル】古田利雄
ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表社員 ベンチャー起業支援をテーマに活動。ナノキャリアなど上場ベンチャー社外役員兼務。52歳。東京都出身。
「フジサンケイビジネスアイ」